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Prologue

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 暗闇に沈んだ奥底の記憶。断片的に夢の中に流れ込んでくる。

もしかざした小さな少女の手を取ることが出来たのなら、今とは違う未来に辿り着けただろうか。
忘れもしないあの水音。まるで小さな光の粒の様な気泡。


 嗚呼、もう忘れてしまいたい。


 忌まわしき記憶は、夢となり蘇る。何度も。
青年は息苦しそうに布団から身を起こし、前髪を上げる。艶やかな黒髪から汗の雫が飛び散る。

 どうしたらあの子を死なせずに済ませられただろうか。

 -愛してる。この言葉を告げられただろうか。
 青年はまた底が見えない暗闇へと誘われた。
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