国道7号線家族

藤沢 南

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決意

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「俺の幸せのために、お前だけを新潟に返すわけにはいかない。」

俺は靴を脱いだ。再び彼女の前に座り直した。

「夏の約束、破るぞ」
「えっ?!」
「俺は真剣にお前との将来を考えている。勝手な行動は許さん。」
「ちょっと、何言ってるの」
「お前の勝手な行動は許さん。新潟に一人で帰るつもりだな。お前がそれだけの覚悟があるなら、俺も一言言わせてもらう。病院が、仕事がつらいなら、一旦病院やめろ。看護学校に専念しろ。学費は俺がなんとかする。」そう言って俺はキャッシュカードを彼女の前に叩きつけた。「浜名湖信金」今はそんなに入っていないが、すぐに精勤手当込みの給料が入る。しばらくお前に預けておく。もっと良いシチュエーションで、耳元でプロポーズの言葉をささやくつもりだったが、俺にはそんなの似合わない。お前が必要だ。とにかく。俺の夢見る未来には、お前と、お前に産んでもらう子どもがいるんだ。勝手に俺から離れていくな。

 そう言って、俺はもう一度玄関に向かい、靴ひもをしばった。かちゃりとドアを開けて、外に出た。秋の夕暮れがきれいだった。

「ふー」これでキャッシュカードごと新潟に逃げられたら笑い物だな。でも、それだったら仕方ない。俺は静岡の仲間と、ここでの静岡での人生を歩いていくんだ。新潟に帰ることはない。給与口座はすぐに変えよう。精勤手当は彼女への餞別だ。と思い、バイクに乗って帰ろうとしたら、鍵がない。全身のポケット、ショルダーバッグ、あらゆる小物の入る場所を20分ぐらい探したが、鍵は見つからなかった。どうやら鍵を忘れたようだ。なんて間抜けな俺。はーぁ。カッコ悪い。

  再び彼女の部屋をノックする。「どうしたの」ドアを開けた彼女は笑いをこらえているようだった。もうあたりは暗くなっていた。彼女は着替えていて、例のフリフリパジャマの彼女がいた。「鍵忘れたでしょ」鍵をクルクル振り回して、俺をからかうような表情を見せた。鍵を取り返そうとしたら、「ダメ」彼女はバイクの鍵を返してくれなかった。
「この鍵、しばらく貸して。」ダメダメ、バイクの免許を持っていない彼女に俺のバイクの鍵を預けるわけにはいかない。万が一の事があっては、新潟に帰れなくなるどころの騒ぎじゃなくなる。しかし、バイクに乗るわけではないらしい。話を聞くと、彼女は、さっきの俺のがむしゃらな演説にいたく感激したらしい。プロポーズの言葉として受け取る、とまで言った。そして、このバイクの鍵がある限り、どんな事があっても俺は彼女の元に戻ってくる。そのための記念のアイテムにしたいとのことだった。バイクの鍵のデザインを利用して、ちょっとしたチャームを作りたいらしい。私たちの絆が「鍵」なんてロマンチックじゃない?おいおい、俺、今日どうやって寮に戻るんだよ…。「近くに駅があるから。電車で帰って。」

  俺は押し問答の末、鍵の画像を彼女に送信する、という事で彼女に納得してもらった。完全なるコピー鍵は鍵屋もセキュリティ上作れないだろう。彼女は手芸も多少できるから、画像見て何とかしてほしい。だってバイクの鍵を返してもらわないと、俺が俺の寮に帰れない。バイクの鍵は取り返すのに時間がかかったが、逆にキャッシュカードはすんなり返してくれた。「私も決めたよ。うれしかった。あなたと静岡で生きていく。もう迷わないから。今日の事は…。プロポーズのくだり以外は忘れてね。また明日から、元気な私に戻るから。」

  玄関口で熱い抱擁をかわした。「もう私迷わない。あなたにどこまでも付いていく。」彼女は病み上がりの体にエネルギーを充填させ、相当な力で俺を抱きしめた。ちょっと痛いぐらいだった。もう、早く寝ろ。おかゆはまだ2膳あるから。そう言って、俺が彼女のドアを開けて、合鍵でドアを閉める頃には、夜のとばりがあたり一面覆っていた。
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