平成寄宿舎ものがたり

藤沢 南

文字の大きさ
上 下
23 / 39

パーティ当日

しおりを挟む
 パーティ当日。諸岡は、浴衣姿で。光村くんは和装のサムライ姿で参加した。土屋くんの姿はなかった。
「ミツ!グレイト!カタナ!サムラーイ!」
光村くんの横で嬉しそうにしている女の子が、彼が誘った子だった。コンスタンツ、愛称コニーの愛らしい美少女だった。確か女子学生寮の1階にいた子だ。
「ユーリ、可愛いよ。ソー キュート ジャパニーズガール!」
今更だったが、ジェレミーに言われて悪い気はしなかった。彼の隣にいる子が、彼の意中の女の子、女子学生寮2階のナオミさんだった。
「こんにちは、ユーリ。」
「こんにちは、ナオミ。」
諸岡はこの子とは打ち解けられなかった。彼女は、諸岡の前からジェレミーを連れ去って行った。そして2人はステージの前で良い席を確保したようだった。諸岡はその2人の姿を目で追っていたが、声をかけられてすぐ我に帰った。
「ユーリ、僕のこと覚えている?」
「ええ。」
その少年は、学生寮のキャンプに誘ってくれた少年だった。この彼も、ガールフレンドが既にいた。今日はその彼女と一緒にダンスパーティーに参加している。
『ふふ、私は所詮セカンドの女かしら。』
諸岡はそのダンスパーティーでも何人かの相手のいない男子生徒と踊ったが、みんな同じ顔に見えてしまい、誰が誰だかまったく印象に残らなかった。
「ええ、皆さん、楽しんでいますか?今日は日本のサイタマからはるばる来てくれた、仲間のフェアウエルパーティです。」
MCを務める男子学生寮の寮長、マックレガー先輩の軽快な語り口に、一同どよめきが起こった。
「では、今夜の主役である、日本のフレンズ達に、ステージに上がってもらいましょう。」

諸岡は身を固くした。ちょっと恥ずかしい気持ちになった。ステージに上がるときに私の隣には誰もいない。光村くんはちゃんとコニーがいるし、土屋くんは、…あ、そうか、ダンスパーティーにはいないんだっけ。
「ミスター、光村!」
「イヤァ!」
ドリンクの入ったグラスを高く掲げ、ミツ君はステージに上がった。手を繋いだままコニーも上がっていた。
「ネクスト、ミス、諸岡!」
「…はい。!」
ちょっと気圧されたものの、自分だって県費留学生なのだ。胸を張って堂々としていよう。
「ユーリ!」
ステージ目の前の椅子に座っている、ジェレミーとナオミが手を振ってくれた。諸岡は左手を控えめにひらひらさせて答えた。
「ユーリ、可愛いわね。」
ナオミさんがちょっと余裕を見せて褒めことばをくれた気がする。諸岡はステージに上がり、ペコンとお辞儀をした。隣にいる光村くんは満面の笑顔だった。そりゃそうだ。コニーなんて可愛い女の子を横に連れているんだから。

「ラスト、ミスター土屋!!」
「…!?」「!!」
光村くんも私も振り返った。あいつ、参加していないはずなのに。

「ドゥンドゥンドゥンドゥン…」
ステージの奥から、ベース音を響かせて、土屋くんが現れた。3人目の日本人の彼は、新撰組の法被姿でベースギターをドルゥンドゥルン響かせてステージ上で、1フレーズを弾き終えた。
「ツッチー、素敵!エクセレント!!」
コニーは光村くんと繋いだ手のまま、土屋くんに可愛い笑顔を見せていた。
「今日はなんと、ツッチーから、日本でもカナダでも有名なこの曲をプレゼントしていただきました。皆さん、一緒に歌いましょう!」
土屋くんは彼と仲良くなった音楽仲間とともに、北米でも日本でも大ヒットしたタイムスリップ映画のラストシーンで主人公が演奏する曲を弾ききった。諸岡もマイク片手に、その曲を歌い、光村くんとコニーは一本のスタンドマイクで仲良く歌っていた。
「なんて素敵な時間なんだろう…。」
諸岡は、浴衣姿を上気させて、その曲の終わった後に、光村くんとコニー、土屋くんと軽くハグを交わした。中学生時代の諸岡からは考えられないサービス、いや、大胆な行動だった。ステージ下の男子寮生、女子寮生からはやんやの喝采。もう少し、この人達と同じ時間を過ごしたい。もう少し、この人たちと一緒に勉強してみたい。有意義な高1の夏休みの1ヶ月だったが、諸岡にとっては物足りなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

七代目は「帝国」最後の皇后

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「帝国」貴族・ホロベシ男爵が流れ弾に当たり死亡。搬送する同行者のナギと大陸横断列車の個室が一緒になった「連合」の財団のぼんぼんシルベスタ・デカダ助教授は彼女に何を見るのか。 「四代目は身代わりの皇后」と同じ世界の二~三代先の時代の話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

北武の寅 <幕末さいたま志士伝>

海野 次朗
歴史・時代
 タイトルは『北武の寅』(ほくぶのとら)と読みます。  幕末の埼玉人にスポットをあてた作品です。主人公は熊谷北郊出身の吉田寅之助という青年です。他に渋沢栄一(尾高兄弟含む)、根岸友山、清水卯三郎、斎藤健次郎などが登場します。さらにベルギー系フランス人のモンブランやフランスお政、五代才助(友厚)、松木弘安(寺島宗則)、伊藤俊輔(博文)なども登場します。  根岸友山が出る関係から新選組や清河八郎の話もあります。また、渋沢栄一やモンブランが出る関係からパリ万博などパリを舞台とした場面が何回かあります。  前作の『伊藤とサトウ』と違って今作は史実重視というよりも、より「小説」に近い形になっているはずです。ただしキャラクターや時代背景はかなり重複しております。『伊藤とサトウ』でやれなかった事件を深掘りしているつもりですので、その点はご了承ください。 (※この作品は「NOVEL DAYS」「小説家になろう」「カクヨム」にも転載してます)

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...