平成寄宿舎ものがたり

藤沢 南

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私たち

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「も、元倉です。元倉尚美です。1年4組です。よろしくお願いします。」
「そちらのあなたは。」
「相田麻衣です。よろしくお願いします。1年6組です。」
「お二人さん、中学では部活は何やっていたの?元倉さんから聞こうか。」
「私は、英語部でした。でも、あまり英語はうまくならなかったです。」
「相田さんは?」
「テニス部です。私も、レギュラーは取れませんでした。」
そこで私達は目を見合わせた。お互い、勉強はできてもそれ以外の分野は大したことがないのだった。相田さんは少し微笑した。
「英語部とテニス部か…。」
「あ、でも、私。高校ではまだ英語部を続けるか決めていないです。」
「そうなの?ここは進学校だから、それなりに英語部はしっかりやるよ。」
「うち、片親で、お金に余裕がないんです。お金のかからなくて学業と両立できる部活は英語部ぐらいしかなかったんです。だから高校では、アルバイトをたくさんやって、兄からの仕送りをゼロにしようかとも思ってるんです。」

「へーぇ。」
いきなり身の上話になってしまった。しまった。ここの女の子たちはそれなりの家庭に生まれて、育ってきたのだろう。私の家の事情なんて理解してもらえないかもしれない。
「元倉さん、実は私もそのクチよ。」
足を組み替えて、三浦先輩が語り始めた。
「私も、家からの仕送りがあてにできないから、バイトばっかしている。」
他の先輩たちは、一斉に口を閉じた。何やら三浦先輩は訳ありのようだ。
「でも、お兄さんが仕送りしてくれるなんて、良いわね。」
「ふた月に一度、1万円だけです。彼も、愛知県で働きながら5人部屋で寮生活をしているんです。」
先輩方から『5人部屋!?』という驚きの声が上がった。
「…うらやましいわ。仕送りもだけど、そんなお兄さんがいて。私はそういう家族がいないから。」
一同黙ってしまった。三浦先輩は私の目をジッと見つめていた。重苦しい空気が流れた。

「…相田さんは、高校ではテニスをやるの?」
沈黙を破ったのは、柿沼先輩だった。話題は私の左側に座っていた相田麻衣さんに移っていた。
「はい、多分。」
相田さんは短く答えた。
「硬式テニスはそこそこレベルが高いから、頑張ってね。軟式はあまり人気がないから、ちょっと頑張ればレギュラーを取れるかもよ。」
運動系の部活の事情に明るいのは、名取先輩だった。「でも、陸上部はやる気ないかなー。一緒に走ろうよ。川越マラソンとかでは目立てるよ。」
「とりあえず、運動系の部活、いろいろ見てみます。」相田さんはそう言って、微笑みを名取先輩に返した。
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