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3月31日金曜 その1
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3月31日 金曜
春休みの真っ最中。
津山家の引越から、1週間が経った。この春休みの間に、津山家・保川家はじめいくつかの家族が、武蔵市から転出した。それと引き換えに、この武蔵市に転入して来る家族もいる。この春休みも、社宅のあちこちで、そんな光景が繰り広げられていた。
満川侑子は、昨日、新しい自転車を買ってもらった。満川母の計らいだった。津山君が引っ越してしまった後から、やはり元気の無くなってしまった愛娘に、前々から欲しがっていたおニューの自転車を買い与えて、気分転換をさせる事をはかった。彼女はとても喜んでいた。…最初にどこへ行こう。彼女は、慣らし運転を兼ねて、あえてQ街区へ行ってみた。何のために彼女に満川母が自転車を買い与えたのか。親の心子知らずとはよく言ったものだ。しかも自転車代は、母親のへそくりから出ていたのだ。
Q街区Q棟、201号。
もうきっと忘れる事はないだろう、初恋の男子の家の部屋番号。当然今は空き家だった。201号の出入口のある階段に、侑子は自転車を止めた。「ゆっこちゃーん」今でも彼の声が聞こえる気がする。彼がこの階段から降りて来る…そんな実現しない光景を想像していた。ほんとうに、輝いた日々だったんだ。いつまでも彼がここにいると思っていた自分の浅はかさ。
彼女は、そんな悲しい妄想を打ち消して、自転車に再びまたがった。
しかし、彼女の自転車は、Q棟の敷地内から出ていく事はなかった。やってきた引越屋のトラックが、先程の階段に止まったからだった。彼女は、その引越の様子を眺めていた。
「オーライ、オーライ。」
「タンスとか冷蔵庫とか大物は、とりあえず201号の入口にまとめて、小物は、家族でやるから。」
どうやら、ツー君のいた部屋につながる階段で引越があるらしい。満川侑子は、しばらくその光景を眺めていた。お手伝いの人数が少ないところを見る限り、転出ではなく、転入のようだ。誰かが引越して来るんだ。侑子は、自転車を邪魔にならないところに置いて、遠くからその家の様子を観察することにした。
その家族は、お父さん、お母さん、娘の3人世帯のようだった。家具は少ないようだ。あっという間に終わってしまい、3人の家族は、引越屋のトラックにペコンと頭を下げた。
親2人は、その後、どこかへ行ってしまった。侑子は、その家族がどの部屋に入るのか確認しそびれた。しかし、娘は、社宅前のベンチに座って、何やら作業をしていた。
春休みの真っ最中。
津山家の引越から、1週間が経った。この春休みの間に、津山家・保川家はじめいくつかの家族が、武蔵市から転出した。それと引き換えに、この武蔵市に転入して来る家族もいる。この春休みも、社宅のあちこちで、そんな光景が繰り広げられていた。
満川侑子は、昨日、新しい自転車を買ってもらった。満川母の計らいだった。津山君が引っ越してしまった後から、やはり元気の無くなってしまった愛娘に、前々から欲しがっていたおニューの自転車を買い与えて、気分転換をさせる事をはかった。彼女はとても喜んでいた。…最初にどこへ行こう。彼女は、慣らし運転を兼ねて、あえてQ街区へ行ってみた。何のために彼女に満川母が自転車を買い与えたのか。親の心子知らずとはよく言ったものだ。しかも自転車代は、母親のへそくりから出ていたのだ。
Q街区Q棟、201号。
もうきっと忘れる事はないだろう、初恋の男子の家の部屋番号。当然今は空き家だった。201号の出入口のある階段に、侑子は自転車を止めた。「ゆっこちゃーん」今でも彼の声が聞こえる気がする。彼がこの階段から降りて来る…そんな実現しない光景を想像していた。ほんとうに、輝いた日々だったんだ。いつまでも彼がここにいると思っていた自分の浅はかさ。
彼女は、そんな悲しい妄想を打ち消して、自転車に再びまたがった。
しかし、彼女の自転車は、Q棟の敷地内から出ていく事はなかった。やってきた引越屋のトラックが、先程の階段に止まったからだった。彼女は、その引越の様子を眺めていた。
「オーライ、オーライ。」
「タンスとか冷蔵庫とか大物は、とりあえず201号の入口にまとめて、小物は、家族でやるから。」
どうやら、ツー君のいた部屋につながる階段で引越があるらしい。満川侑子は、しばらくその光景を眺めていた。お手伝いの人数が少ないところを見る限り、転出ではなく、転入のようだ。誰かが引越して来るんだ。侑子は、自転車を邪魔にならないところに置いて、遠くからその家の様子を観察することにした。
その家族は、お父さん、お母さん、娘の3人世帯のようだった。家具は少ないようだ。あっという間に終わってしまい、3人の家族は、引越屋のトラックにペコンと頭を下げた。
親2人は、その後、どこかへ行ってしまった。侑子は、その家族がどの部屋に入るのか確認しそびれた。しかし、娘は、社宅前のベンチに座って、何やら作業をしていた。
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