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3月19日日曜 その9

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「次。グリーンパーク前よ。」
「…あ。」
ちょっとだけ眠った気がした。武蔵藤沢駅から10分だから、わずかな間だった。彼女は跳ねるようにしてバスから降りた。
「私の家、L街区。初めてよね。」
「うん。…やっぱりお邪魔するのはなんか恥ずかしいなぁ。」
ゆっこは今度は僕を叩いた。アッコを思わせるような背中への張り手だった。
「さっきの南友デパートでの勢いはどうしたの。私。あの時、ツー君の気持ちの強さに感激した。だから、私の家に来るぐらい、なんて事ないでしょ。私は、もうツー君を連れてくる事を恥ずかしいなんて思ってない。」
僕は目が覚めた。
「そうだな。これももらったしな。もう逃げないよ。」
そう言って、僕は左ほおを指差した。
「それでいいの。それでこそ私のツー君。」

なんだか背伸びしまくった、変に気合を入れ直した小学生カップルが、L街区にたどり着いた。

  僕の5年間過ごした社宅は、大きく4街区に分かれている。A街区、F街区、L街区、Q街区だ。全部で20棟からなる大規模な団地で、ゆっこの家はL街区のN棟だった。
「ここ、山の公園の目の前だったんだ。いいなぁ。」「ふふん。いいでしょ。」僕たち社宅の少年たちが、いつも遊び場にしていたのは「山の公園」という山の有る広い公園だった。この公園で野球をしたり、サッカーをしたり、夏には第三小学校名物の恒例行事「自転車点検」をやった。夏休みの初日に、この公園で自転車をPTAの役員さんに点検してもらう。そこで合格シールを貼ってもらわないと、その自転車には乗れない。
  そんな数々の思い出のある「山の公園」。僕たちQ街区からは離れていたので、ゆっこの家はうらやましい位置にあると言える。

「ただいま。」ゆっこが彼女の社宅のドアをノックした。
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