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機転

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父は天井を見返した。侑子はチャンス到来と見た。
「ただ、一回だけ、なんとかなるかも。」
「おお、それはいい。いつだ?」
「19日日曜日。私のエレクトーンの練習日。」
父親は口をあんぐりと開けた。エレクトーン他習い事をサボるのは満川家では厳禁とされている。

「休みに津山くんを呼び出すのか。」
「だってもう時間ないよ。24日に転校しちゃうでしょ。21日の祝日は、津山くんの送別会。私は呼ばれないけど、元4年3組のみんなで集まるって言ってた。18日土曜は津山くん、久保田園長先生とのお別れ会。」
「忙しい少年だな。津山くんの父親と一緒だな」
「学校のある日だって、彼の図書委員会はまだ後2日あるし。私じゃないメンバーと組むの。」
「その日、侑子が、図書委員会におじゃま出来ないのか。」
「そうすると、今週の書道教室とスイミングをサボる事になるよ。スイミングの補講は〆切すぎたから、もうずらせないよ。それに、彼の図書委員会の日は、5年1組に彼のファンの女子がいるから、彼目当てでその子がやってくるの。ちょっと厳しいかな。休日に彼を呼び出すしかないよ。」…ここは、保川さんに登場してもらった。ちょっとだけ私も迷惑したんだから、ちょっとだけ使わせてもらおう。

「…わかった。エレクトーンは休んでいい。今回だけだ。」
「それでも、津山くん、今言ったように相当に忙しいから、19日に彼に予定あってダメならもう無理だよ。」

…仕方ない、その時は、広島に送ろう。引っ越し当日の24日に渡すのはさすがに遠慮すべきだ。満川父はハラを決めた。

満川侑子は、父が部屋から出ていった後、一人ほくそ笑んでいた。
19日が空いた。まだノリが乾いていない手紙を開けて、メモを書いた。父親には相当にプレッシャーをかけたから、この件についてはもう侑子に口は出せないだろう。

『もしツー君、19日の日曜日空いていたら、渡したいものがあるから、会ってくれない?』

そのメモを手紙に添えて、再び手紙を封緘した。生乾きのノリのせいで、かなりゴワゴワになってしまったが、まあ仕方ない。
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