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ラブレター(下)

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「ツー君、やり直し。」彼女はもらったラブレターに赤ペンで修正を施した。ただ、全て彼の字の下に修正の文字を入れ、露骨な修正記号は避けた。彼がせっかく書いてくれた文字だから、それに修正を入れるのはかわいそうな気がしたからだ。

『満川侑子 さま
→津山孝典 さま

こんにちは。
いつまでも一緒に居られると思っていたけど、もうお別れなんですね。広島へ行っても、図書委員会をやるかどうか、今はわかりません。満川さんと一緒に活動した図書委員会より楽しい時間が過ごせるとは今は、思えないのです。

→そんな事はない。私以上の司書が現れると、ちょっと残念だけど。きっとツー君ならどこへ行っても楽しい図書委員会にできると思う。不安で仕方ないのはわかる。そしてそれを私にだけ打ち明けてくれたのね。ありがとう。でも、少しは楽しい事考えようよ。ツー君らしくもない。

誰にも隠してきたけど、僕は今、正直、不安でいっぱいです。

→つらい思い、ツー君もしてたのよね。私にだけ打ち明けてくれてありがとう。

広島に住んだ事はまだありませんし、友達も親戚もいません。この武蔵市と第三小学校では、満川さんはじめたくさんの人に助けられ、支えられて、楽しい時間が過ごせました。5年間。長かった。でも、いつもいつも楽しい時間だったというわけではなく、2年生の時は、僕の母が心臓を悪くして、救急車で運ばれるなど大変な時期がありました。でも、いつも第三小学校のみんなは僕を支え、応援してくれました。社宅の近所のおばさんにも、いろいろとお世話になりました。

→そんな大変な時期に、あなたは私の弟の孝太を、新聞配達の時に守ってくれた。忘れてた?私も満川家の家族みんなも、ツー君の事をその時から知ってたの。この話はいずれしたかったけど、きっとお父さんがツー君のお父さんに会社でお礼を言うから、内容はツー君のお父さんから聞いて。

みんなに恩返しも出来ないまま、去っていくのもつらいです。
→そんな事はない!!!ツー君のお陰で、どれだけの人が助かったか。孝太も、武田くんも、奥寺さんも…。

ただ、今、一番つらいのは、満川さんとお別れすること。これから、小6、中学入学、高校受験…そのぐらいまでは一緒にいたかったです。僕は、広島で満川さんの健康と健闘をを祈っていく事しか出来ない。でも、君なら、きっとどんな事もこなしていけると思います。

→それは私も。この武蔵市でツー君の健闘を祈ってる。私はそれ程優秀じゃないけど、どんな事も本気で取り組んでいこうとは思っているから。ツー君も頑張って。というか、今のままでいてくれれば何があっても大丈夫だよ。

大好きでした。     
→私も、ずっとずっと大好き。ツー君の事を。

お元気で。さようなら。
→ここ違う!!!なんで勝手に去っていくの、ばかにしないで!あなたが広島へ行こうが海外へ行こうが、私はずっとずっとあなたの友達でいるつもりだったのよ。ここだけやり直し。広島の住所と電話番号と、小学校の名前と、それからそれから…なんでもいいから、私に教えなさい。書き直して、持ってきなさい!

1987年3月13日   津山孝典 
1987年3月14日   満川侑子』

   世にもまれな連名のラブレターが出来上がった。でも、書き上げてから、急に不安になった。ツー君、広島行く時に、あえてみんなと縁を切ってしまうのかな。広島は遠すぎるし…。彼のことだから、もう第三小学校のことは振り返らないかも知れない…。
    それでもあえて、満川侑子はその綺麗な赤い文字が入れられたラブレターを丁寧に再封入した。私の気持ちも伝える。ツー君は、不安でたまらない気持ちを打ち明けてくれたのだから。
 しかし、いつ渡そうか…。もう彼と2人の時間はない。祝日の21日も彼の送別会らしい。
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