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僕たちの3月2日(上)

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    僕が、3組の落書きを笑い飛ばした翌日、「落書きを書いたのは奥寺だ」といううわさが流れていた。彼女は否定しつつもうろたえていた。証拠に、彼女の給食袋に蛍光色のチョークが付いていたこと。彼女のロッカーから蛍光色のチョークが出て来たこと。僕は、武田から状況を報告された。
「もう、そんなことどうでもいい。満川さんも別にいいって言っているから。メンドくさいから。コメント求められても困る。」
僕は、昨日で騒ぎが終わらなかったことに閉口した。もう3月なんだ。そっとしておいてくれ。
「奥寺さん、君じゃないことはわかっている。だから気にすんなよ。僕も満川さんもなんとも思っていないから。」
奥寺にも、声をかけておいた。でも明らかに世論は奥寺に不利だった。なんと言っても物的証拠だった。3組で奥寺が孤立しかかっていた。

「高野ちゃん、3組の落書き事件、聞いた?」
保川が、泣きそうな顔で、高野の元にやってきた。「私、津山くんに迷惑かけて転校するのは嫌。…彼、困ってないかしら。」
高野はめんどくさそうな顔で、保川に言った。「3組の転校生がやったって噂じゃん。証拠もあるみたいだし。ツーはあれで結構鈍感だから、大丈夫よ。気にしなくていいんじゃない。」

僕と満川と奥寺は、3月2日の放課後、図書室に集まった。
「…誓って私じゃないの。信じて。」
奥寺は泣きながら話した。「しかし、誰だ…。俺らは気にもしてないけど、ここまで大きな騒ぎになると、ちょっと厄介だな。」
「犯人探しより、奥寺さんをなんとかしてあげようよ。ツー君、3組に、信頼できる友達いるよね。」
満川は、始めて僕の事をツー君、と言った。この呼び方は、他の誰も使っていなかった。しかも、彼女は僕に、信頼できる友達がいるとまで断言した。もう満川が、僕の秘密云々が、どうたらこうたらでギクシャクしている時間はない。
「ああ。ゆっこちゃんもいるだろ。亘理わたりさん。」
僕も呼応するように、彼女の事をゆっこちゃん、って言った。妙な連帯感だった。ゆっこは僕を見つめて、笑った。潤んだ綺麗な瞳だった。
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