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扇町中学編
名古屋、広島、迫る旅立ち
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その頃、名古屋の転居先の社宅が決まった。
西山社宅…。
名古屋市名東区西山本町一丁目3022番地 西山社宅 7棟302号
父は頑張ってくれた。なんとしても名東区の社宅に転居したいという熱望は僕たちにも感じられた。そして今度は今のところと違い、8棟ある。武蔵市の20棟の社宅ほど大規模ではないが、それなりに大きな社宅であった。
そして迎えた私立・東名古屋高校の受験日。
父の仕事の都合もあり、名古屋市に2人で乗り込んだ。
前日のホテルで、父は言った。
「頑張れよ。孝典。そして、すまない…。」
なんとなく、父の気持ちが分かった気がした。父なりに、僕に対して後ろ暗いところがあったのかも知れない。僕は無言で笑顔を見せたにとどまった。なんと言っていいかわからなかった。
東名古屋高校の受験後、父の仕事が終わるまで、砂田橋の辺りをうろうろしていた。近くには川が流れ、綺麗な河川敷が整備されていた。
仕事帰りの父と名古屋駅で落ち合った後、無言で新幹線に乗った。父は少しばかり疲れているように見えた。父も急に転勤先が変更になり、いろいろ気疲れが多いのだろう。僕は無言で参考書を開いた。すぐに眠気が襲ってきた。
翌日、学校に行くと、廊下で深川が話しかけてきた。
「津山、昨日、秀和学院の受験にいなかったよね。」
「…いたよ。」
うちの中学の一定レベル以上の生徒が受ける、広島市内の私立の滑り止め高校だった。僕はとっさに返事をした。嘘の返事だった。
「いや。だって、私。受験番号あんたの次じゃない。空席だったから。」
「…そ、それは…」
これはもう白状するしかなさそうだ。愛知県の私立高校を受けていたことを。僕は「実は…」と言いかけたその時、
「おっとごめんあそばせ!!」
深川の後ろから、彼女の頭にゴミバケツがかぶせられた。彼女のサラサラとした黒髪に、ゴミがたくさん乗っかった。
「何すんのよ!」
負けん気の強い彼女の声は、深川の取り巻きBに向かって投げられた、しかし取り巻きBは動じない。
「キンシンチュウ、なんでしょー。また喧嘩して高校入試棒に振るのー??」
取り巻きBがせせら笑う。BのそばにはCとDがいる。「ほらっ、あんたたちも」
「深ちゃん、あんたが私にやってきた事でしょ。」Cが恨みがましく深川を見すえる。
「自分がやられるのは我慢できないんだ。人にはさんざん我慢させといて。」
Dも深川を冷たく睨みつけている。僕は鳥肌が立った。しかし、深川との会話を打ち切るにはいい機会だ。僕はさっさと逃げた。
僕が愛知県の高校入試でてんやわんやの最中に、どうも謹慎中の深川の立場が危うくなっているらしい。取り巻きたちがここぞとばかりに反撃したのだった。とくに取り巻きBは推薦で高校に合格したため、もう登校以外やる事はない。
西田と付き合っているAは別として、BはCとDとともに深川への反撃をし始めたようだ。
深川はかなりダメージを受けているらしいが、他のクラスメイトは見て見ぬふり、というか、そんなこの切羽詰まった時期に他ごとを抱える余裕はないようだった。先生も、いつものメンバーでふざけあっている、というような印象しかない。先生だって今の時期はとても忙しい。生徒たちの補習やら面接の練習やらでてんやわんやだった。
そして、卒業式を迎える。
西山社宅…。
名古屋市名東区西山本町一丁目3022番地 西山社宅 7棟302号
父は頑張ってくれた。なんとしても名東区の社宅に転居したいという熱望は僕たちにも感じられた。そして今度は今のところと違い、8棟ある。武蔵市の20棟の社宅ほど大規模ではないが、それなりに大きな社宅であった。
そして迎えた私立・東名古屋高校の受験日。
父の仕事の都合もあり、名古屋市に2人で乗り込んだ。
前日のホテルで、父は言った。
「頑張れよ。孝典。そして、すまない…。」
なんとなく、父の気持ちが分かった気がした。父なりに、僕に対して後ろ暗いところがあったのかも知れない。僕は無言で笑顔を見せたにとどまった。なんと言っていいかわからなかった。
東名古屋高校の受験後、父の仕事が終わるまで、砂田橋の辺りをうろうろしていた。近くには川が流れ、綺麗な河川敷が整備されていた。
仕事帰りの父と名古屋駅で落ち合った後、無言で新幹線に乗った。父は少しばかり疲れているように見えた。父も急に転勤先が変更になり、いろいろ気疲れが多いのだろう。僕は無言で参考書を開いた。すぐに眠気が襲ってきた。
翌日、学校に行くと、廊下で深川が話しかけてきた。
「津山、昨日、秀和学院の受験にいなかったよね。」
「…いたよ。」
うちの中学の一定レベル以上の生徒が受ける、広島市内の私立の滑り止め高校だった。僕はとっさに返事をした。嘘の返事だった。
「いや。だって、私。受験番号あんたの次じゃない。空席だったから。」
「…そ、それは…」
これはもう白状するしかなさそうだ。愛知県の私立高校を受けていたことを。僕は「実は…」と言いかけたその時、
「おっとごめんあそばせ!!」
深川の後ろから、彼女の頭にゴミバケツがかぶせられた。彼女のサラサラとした黒髪に、ゴミがたくさん乗っかった。
「何すんのよ!」
負けん気の強い彼女の声は、深川の取り巻きBに向かって投げられた、しかし取り巻きBは動じない。
「キンシンチュウ、なんでしょー。また喧嘩して高校入試棒に振るのー??」
取り巻きBがせせら笑う。BのそばにはCとDがいる。「ほらっ、あんたたちも」
「深ちゃん、あんたが私にやってきた事でしょ。」Cが恨みがましく深川を見すえる。
「自分がやられるのは我慢できないんだ。人にはさんざん我慢させといて。」
Dも深川を冷たく睨みつけている。僕は鳥肌が立った。しかし、深川との会話を打ち切るにはいい機会だ。僕はさっさと逃げた。
僕が愛知県の高校入試でてんやわんやの最中に、どうも謹慎中の深川の立場が危うくなっているらしい。取り巻きたちがここぞとばかりに反撃したのだった。とくに取り巻きBは推薦で高校に合格したため、もう登校以外やる事はない。
西田と付き合っているAは別として、BはCとDとともに深川への反撃をし始めたようだ。
深川はかなりダメージを受けているらしいが、他のクラスメイトは見て見ぬふり、というか、そんなこの切羽詰まった時期に他ごとを抱える余裕はないようだった。先生も、いつものメンバーでふざけあっている、というような印象しかない。先生だって今の時期はとても忙しい。生徒たちの補習やら面接の練習やらでてんやわんやだった。
そして、卒業式を迎える。
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