心から大切な君へ。

山茶花 緋彩

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1章

夢か現実か

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 部屋でうたた寝していたオレは、スマホの通知音に起こされた。
 眠たい目を無理やり開きスマホを見ると、メッセージをくれたのは由梨香だった。
 その瞬間一気に目が覚め、すぐに由梨香のメッセージを読む。


【(由梨香)透也、ラブレター嘘じゃん!笑
       けどありがとう、すごい嬉しい!】


 由梨香のメッセージは、こんなことで簡単にオレの胸を射抜いた。
 天使すぎるだろ、とつっこみたくなる。


【(オレ)サプライズだから笑
  オレの誕生日1月25日だからよろしく笑】


【(由梨香)早生まれなんだね!覚えとく!】


 軽い冗談のつもりで図々しいことを言ったが、由梨香の返信は肯定的だった。
 だがオレの誕生日はまだ結構先のことだし、由梨香は忘れてしまうかもしれない。
 あまり期待しすぎずに待っていよう。

 そしてまたオレは夢の中に引きずり込まれていった。
 そのとき、幸せな夢を見た。

 クラスの席替えが行われていて、くじ引きで決めると、なんと偶然由梨香と隣の席になれる夢だった。
 夢の中での彼女は一際可愛くオレに笑いかけた。

 これはきっとオレの願望がそっくりそのまま夢に出たのだろう。
 夢であることが悔やまれる。


 次の日の朝、雨音で目が覚めた。
気圧の変化にやられたのか、少しだけ体が重い。

 学校へ向かう途中も、オレはぼんやりと佐野さんのことを考えていた。
 この雨を見ていると、試合後に話した日のことを思い出す。
 カッコよかったって言われて、実は死ぬほど嬉しかったんだよな…。

 いつも通り学校に到着し、自分の席に座る。


「うっす安藤ー」


「おーっす木村ー」


 オレらがテキトーに挨拶を交わすと、青田が加わってきた。



「おい安藤木村、聞いてくれよ!今日席替えだって」


「「まじか!?」」


 
 オレと木村は声を揃えて言った。



「おう、委員長が言ってたから間違いねえ!」


「はぁーオレは憧れの横田さんの隣か斜め後ろがいいなぁ」



 木村がデカめの独り言を呟く。
木村は密かに、横田さんファンなのだった。
そして疑問に思った俺は木村に聞いた。



「なんで斜め後ろなんだよ?」


「えーだって隣だと緊張しちゃうじゃない?斜め後ろだったら程よい距離感だし、何より横顔とか見ててもバレないし!」



 コイツ…伊達に隠れファンやってる訳じゃねぇな。
そう言った木村の目はガチだった。



「はははウケる!木村きもー!」



 そう言って青田はバカ笑いしていたが、オレは妙に木村が言ったことに共感を覚えた。

 たしかに斜め後ろの方が好都合なことも沢山あるだろう。
 木村が言ったように授業中も見放題だし、見られていることに相手は気づかないし。



「でもやっぱ、オレは隣がいいなぁ…」



 気づくと声に出して言っていて、オレはハッと我に返る。



「えー誰と!?誰と!??」


「うぜぇ青田!聞くな!例えだよ例え」



 青田と木村はニヤニヤして顔を見合わせる。
最悪だ、好きな人などいないと公言していたのに。
誤魔化しはしたが、まだ2人はオレのことを疑うような顔で見ていた。

 そんなことを話していると、由梨香が教室に入ってきた。
 なんだか今日は元気がないように思えた。
なんかあったのかな…?

 つい由梨香のことを見すぎていると、一瞬目が合った。
 だが、すぐに逸らされてしまった。
オレ、気付かぬうちに何かしてしまったのか?

 耳を済ましていると、何やら横田さんと由梨香がニキビの話をしていた。


…あー、なるほどね?
つまり由梨香はニキビが出来たせいで元気がなくて、オレのせいではなかったと!
良かったー!!

 ニキビ1つでテンションが変わるなんて、女子って感じしてなんか良いな…。



キーンコーンカーンコーン



 今日の6限目は、青田の言った通り席替えだった。
今朝の夢が正夢になったらいいんだけどな。
まぁ人生そんな上手くいかないだろう。

 くじを引く順番がオレに回ってきて、微かな願いを込めながらくじを引く。
 せめて、なるべく由梨香の近くにいけますように。

 少しだけ期待しつつ、くじを引く。
22番…どこだ?
 黒板の座席表と照らし合わせ、22を見つけた。
とりあえず後ろの方か、まぁまぁ良かった。

 みんなが席の移動を始め、オレは教室の端っこで由梨香がどこに行くのかしばらく様子を伺う。

 由梨香が座った席を見て、信じられなかった。
だってそこは、23番の席。
紛れもなくオレの隣の席だったからだ。

 何かの間違いなのでは?と思い座席表を再度見るが、やはり由梨香がいるのは23番の席だった。

 まじか…夢が現実になりやがった。
いやまさか、これもまだ夢の中なんじゃないか?

 よく見ると、横田さんと瀬川さんが由梨香の前の席のようだ。
 仲の良い友人と近くになれて、由梨香は嬉しそうに笑っていた。

 オレもそろそろ、自分の席に行くか…と決心した時、なにやら由梨香は辺りをキョロキョロと見回していた。



「オレのこと探してる?」



 オレは冗談半分で由梨香に声をかけた。



「そうそう…って、え!?」



 「え!?」はこっちのセリフだ。
本当にオレのこと探してたのかよ、可愛いな…。



「オレ、由梨香と隣」



 驚いたように目を見開いて黙る由梨香。
やっぱり、オレのことを意識してくれてるのでは?と都合の良い解釈をしてしまう。



「卒業までこの席がいいなー、後ろの方だし」



 オレは本心からそう呟いた。
すると突如、オレの右側から甲高い声が響く。



「うわぁ今度は安藤くんが隣か、よろしくっ」



 声の方を見ると、白木がいた。
白木とは中学から一緒だったが、あまり話した記憶はない。



「え?あー、よろしく」



 突然声をかけられたオレは驚いて、上手く返事ができなかった。
 そんなオレを見て、白木は何故かニコニコしていた。

 放課後、木村に言われる。



「おい安藤の席ずるくねー?後ろだし、横田さんの斜め後ろだし。極めつけには、学年で1位か2位を争うくらい可愛い白木さんと隣かよ!ありえねー!」 



「…そうかぁ?」



 白木は、たしかに顔が整っていて中学からモテていた。
 いや白木より由梨香の方がどう考えても可愛いだろ、全てにおいて勝ってるだろ。
 心の中で、そんなことを思っていた。


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