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2章

流れる日々と彼

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「ごめん、少し到着遅くなっちゃったね」



 そう言いながら私は唯斗の家に入る。
唯斗はTVゲームをしていたようで、コントローラーが無造作に置いてあった。



「全然いいよ。唐揚げ一緒に作ろう、米は炊いた」



「えーっ!仕事できる男じゃん、やるぅー」



 そんな会話をしつつ、唐揚げを一緒に作る私たち。
手を動かしながらも、ふと、私は思った。

 私たちって昨日からセフレなんだよな…?
なんで和気あいあいと唐揚げを作っている…?

 傍から見ればカップルだが私たちは付き合っていないし、だけどそういう行為は昨日してしまった。



「…唯斗って彼女とか作らないの?」



「え?うーん…良い人がいればかな?」



 そんな曖昧な返事をされ、深掘りはできなかった。
完成した唐揚げを、2人で並んで食べた。
もちろん唐揚げはいつだって美味しい物だし、美味しいと言ったが、あまり味を覚えていない。



「さて、今日は何する?」



 イタズラに笑う唯斗の顔は、まさしく私を誘っていた。
 はぐらかすように、私は思いついたことを咄嗟に口走る。



「あ、そういえば口紅返して」



 唯斗はすんなり口紅を返してくれて、今度は忘れないようにちゃんと鞄の中に口紅を仕舞う。



「今日は昨日と違うお酒飲んでみる?」



 唯斗に提案され、私は飲みたいと言ってしまった。
一応未成年のくせに、私ったら何をしてるんだろう、と心のどこかで思っていたが、唯斗といるとなんだか調子が狂わされる。
 …唯斗が大人びているからだろうか、1つ上とは思えない色気がムンムンと私を蝕んでいく。

 私たちは近くのコンビニへ行き、各々で飲みたいお酒を買った。
 昨日は6%のお酒を飲んだので、私は5%のお酒を2つ買った。
 昨日よりゆっくり飲んで、昨日より多い量を飲むことににチャレンジするつもりだったのだ。

 唯斗はビールと5%の酎ハイ1缶を買っていた。


 家につくなり、唯斗はなぜか私にキスをしてきた。



「な、なに…」



 突然のことに驚く私を見て、唯斗は笑っていた。
この雰囲気作りの上手さはなんなんだろう。
経験の差なのか、もしくは産まれ持った才能なのか。



「今日金曜日じゃん。明日休み?」


「うん、明日は学校ないよー」



 そう、明日は休みなので、万が一泥酔してしまったとしても学校がないから大丈夫なのであった。

 1度体を重ねた相手だからなのか、唯斗の隣は妙に落ち着く空間だった。
 唯斗にもたれ掛かり、お酒を少しずつ飲む。
昨日のように一気には飲んでいなくても、私は徐々に理性を失っていった。



「…由梨香、かわいいね」



 そう言われ頭を撫でられた私は、たまらず唯斗にキスをしてしまった。
 酔うとたちまち貞操観念が崩れていくのがわかる。
だが、その感覚すらも心地良い…。

 私と唯斗はどんどんキスをする回数が増え、そのうち痺れを切らした唯斗が誘ってくるだろう。



「由梨香、ベッドいこ」



 …ほらね、言ってきた。
私はその言葉に素直に従い、ふらつく足をしっかりと1歩1歩踏みしめてベッドへ向かう。

 私がベッドに仰向けになるなり、唯斗は上に覆いかぶさってきた。




「…早く、脱がせて?」



 シラフの私が聞いたら発狂するであろうこのセリフも、酔っ払っていれば簡単に口に出来た。

 唯斗も、堰を切ったように私を貪る。
私にこんな一面があったなんて思いもしなかった。

 酔いながらもどこか冷静な私の頭は、なんとも言えない不思議な感覚だった。
 現実で唯斗に抱かれる私と、どこか遠くの方でそれを客観視している私がいて、なんだか行為に集中できずにいた。

 事が終わり、唯斗は一服しに換気扇の方へと向かう。
 私も服を着て口紅だけ塗ると、唯斗の元に向かう。
 


「ねえ、唯斗っていつからタバコ吸ってるの?」



「んー?高2くらいかなぁ、多分」



「不良だったの?」



「いやA町はわりと若い頃から吸ってる人多いんよ。多分だけど美姫も吸ったことあると思う」



 ふいに美姫の名前を出され、なぜか嫉妬した私はこう言った。



「…私も吸ってみたい」



「いいよ、こっちおいで」



 普通、未成年の女の子がタバコを吸うってなったら否定から始まるはずだろう。
 それでも唯斗は、優しくおいでと言ってくれた。

 苦く熱い煙が私の喉を通過したのが分かり、軽くむせる。



「…ゲホ、私タバコ吸っちゃってるよ」


「自分で吸いたいって言ったろ」


「うん…」



 タバコの煙は青白く揺れて換気扇へと吸い込まれていく。
 ほとんど吸わず、ただ燃えていくタバコを眺めた。


カシャッ


 ふいにシャッター音が響いて、唯斗の方を見る。



「由梨香なんかエモい感じになってる」


「ちょ、やめてよー」



 そう言いながら唯斗に見せてもらった私の写真は、なかなか良く撮れていた。
 艶のある長い髪と、白い肌に映える赤い唇、細い指で支えられたタバコは、今にも灰が落ちそうで。

 この頃の私は、愛に飢えていたのだろうか。
無償で誰かに優しくされたくて、唯斗はそれを叶えてくれる人だった。
例えそれが、偽りの愛だろうと別にどうだって良かった。

 玲音じゃだめなの?とも思ったが、この時は誰かと付き合うような気にはなれなかったのだ。
 そのくせ自分は愛されたい、という矛盾を抱える私には、唯斗との関係性がちょうど良かった。


 そして気がつけば私は、唯斗に甘えきっていた。
この関係性は、秋頃まで続いていた。
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