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1章

飾らずありのままで

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 1泊した母方の祖母の家から帰宅すると、私は部屋に籠ってある物を探していた。



「あれ、おかしいなぁ…ここにある思ったんだけど」



 まぁまぁ大きめの独り言をブツブツと言いながら部屋の中を彷徨い歩く姿は、きっと不気味だったに違いない。



「あ!あった、これこれ!」



 私が探していたのは、白紙のポストカード。
この100×148mmの中に、透也の姿を描くつもりでいた。

 水彩絵の具がいいか色鉛筆がいいか…あえてクレヨン?
 どんな画材を使うか迷ってなかなか決められなかったが、結局1番私が得意な水彩画に決めた。

 まずは絵の具の色の調節などに使うテキトーな紙を大量に用意して、その紙を何枚か使ってデッサンをしていく。

 さて、どんな透也を描こうか…。
なるべく鮮明に思い出せるものが良いので、制服姿にしよう。
 表情は、軽く微笑んだ感じで。



「そうだっ、私の席から見た透也にしよう!体は横向きで顔だけ正面に傾けてる感じで…っと」



 驚くほどサクサクと進む。好きな人を自分の好きな絵に描けると、こんなに捗るものなのか。
 時間を忘れ作業に夢中になっていると、突然電話の着信音が鳴った。
 スマホ画面を見ると、那奈からだった。



「もしもし!那奈あけおめ!」


『あけおめー!ねぇ今何してる?私、お正月めっちゃ暇でさぁ耐えられなくて電話しちゃった』


「私はね、透也の誕生日近いから似顔絵を描いてプレゼントしようとしてた!」


『えー!?すご!由梨香まじで絵描くの上手いもんね、酔いじゃん私も由梨香の絵欲しいくらいだわ』


「いやいや姐さん、褒めすぎですよー」



 那奈とこうしてゆっくり話すのは久しぶりだったので、私はテンションが上がった。



「那奈はさー、なんで彼氏とか好きな人できないの?
1回もそういう話聞いたことない」


『いや同じクラスの男子とか見てるとガキ臭くて…もっと落ち着いた大人の男と恋愛がしたいの、私』


「ふーん、そうなのかぁ」



 たしかに那奈は、容姿内面共に私や柚に比べてとても大人びている。
 考え方もしっかりしてるし、頭もいいし。
そりゃどう学年とかじゃ物足りないか、納得。



『10歳年上でもいい』


「いやさすがに上すぎやろ」


『出たー、由梨香のエセ関西弁』



 あははと2人して笑う。
那奈と話していると、やっぱり落ち着くなぁ。さすが親友!



『あ、てか描いてる邪魔しちゃってごめんね、そろそろお風呂入るし切るねー』


「いや全然気にしないで!お風呂いってらっしゃい!、じゃあねー」



 そう言って、電話を切る。
那奈の恋バナを聞けるのはいつになることやら…。

 私もお風呂を済ませ、頭のすっきりした状態でもう一度机と向き合う。
 なんとしても、1月25日までに完成させなくちゃ!



 その後3日かけて、ようやく納得のいくデッサンを終えることができた。
 我ながら、時間かかりすぎでは…?
デッサンの時点で凝りすぎたせいだ。

 今日はもう1月5日なので、残り日数は20日。
学校から出されている課題をやりつつ絵を描かなければいけないので、実質もっと時間が無い。



「しかも冬休み自体は14日までなんだから、ほぼ1週間しかないのか…間に合うか…?」



 これは、相当急ピッチで仕上げなければいけないかもしれない…。


 どれくらい時が過ぎただろう、私は1度落ち着いて背伸びをした。
 気がつけばもう外は暗くなっていて、カーテンの隙間から星空が見えている。



「ん~~~~…っ、肩凝ったぁ」



 ふと部屋の時計を見ると、時刻は午前2時を回ろうとしていた。
 嘘でしょ?私、何時間机と向き合い続けていたの…。

 その日は一旦寝ることにした。
明日また頑張ればいい。

 透也を描く時の私の集中力は半端なかった。
この調子でいけば、すぐ完成しそうだなんて考えながら眠りについた。


 次の日からも私はひたすら描き続けた。

 男子の制服や教室の机がどんな色だったか、色々考えながらパレットに色を広げていく。
 水彩画は、水と絵の具が混ざり合って淡くなっていくところが好き。
 水分の多いところは透明感たっぷりで、勝手にグラデーションになっていくところも好きだ。

 水彩画は油絵と違い修正や誤魔化しをするのが難しいので、慎重に色を重ねていく。

 …背伸びして上手くやろうなんて思わなくていい。
飾る必要なんてない、ありのままの透也を描こう。

 なんだかどこかのj-popの歌詞にありそうなことを考えながら、私は時間が経つのも夢中で透也の姿を描き続けた。

 そして、描き始めてからなんと3日と半日ほどで、私は透也の似顔絵を描きあげてしまった。
 我ながら、めちゃくちゃ完成させるの早かったなぁ。
 本当にこれで大丈夫なのか不安になる。

 ポストカードの中にいる透也は、紛れもない、私に微笑みかけてる時の透也そのものだった。



「…うん、上手く描けたよね?一応、那奈と柚に確認してみよう」



 この時私は、自分1人の目で見るよりも、複数人の目で見てもらい確信を持ちたかったんだと思う。
 ポストカードの中にいるのは、間違いなく透也だということを。

 スマホで写真を撮り、速攻で那奈と柚に送った。


【(私)ねぇこの絵の完成度、どう思う?正直な感想ちょうだい】


 2人にそれぞれ同じ文を送って、返信を待つ。
待っている間も、ソワソワして落ち着かなかった。

 ふいにスマホの通知音が鳴る。
開くと、先に返信をくれたのは柚だった。



【(柚)えーすごすぎ!どっからどう見ても安藤くんじゃん、画力やば!】


【(私)そう言って貰えて安心したー!笑
  透也実はもうすぐ誕生日なんだよね…!
  あと空いてるところに少しメッセージ書く予定!】


【(柚)早く渡して欲しい、安藤くんの反応気になる】



 とりあえず、柚の反応は良さげ。
褒めてもらえてよかった…!
 そう思っていると今度は那奈から返信が。



【(那奈)もう完成したの、早くない!?
           そんで、めちゃくちゃ上手だし!】


【(私)こんなんで大丈夫かなぁ??】


【(那奈)大丈夫でしかないでしょ!】



 良かった…2人とも似たような反応。
これで安心して、透也に渡すことが出来る。

 あとは、絵の具が乾いたら筆ペンでメッセージを入れるだけだ。
 なんて書けばいいかな…?

 無難に、Happybirthday! とか?
いつもありがとうとか書いちゃおう。


 私は、どうにかメッセージを書き上げた。
最後の仕上げを終えると、封筒にしまい込んだ。

 どうか、喜んで貰えますように…。
そう願いを込めて。


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