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第三章 学園編

セレスト

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「え~~~~っと」

 興奮の冷めやらぬ周囲と、思った以上に反応されたことにどうしようかと戸惑い顔のルカ。

 本来であればこれを収拾する側の教員も、生徒達と同じように熱狂の中にあって興奮顔を晒している。

 ルカも当然、注目されていた自覚もあった。

 だから、目立ちすぎないように先ほどの魔法ものだ。

 しかし、このような測定は初めてだったということもあり、勘でこれくらいか?と放った結果は今の通り。

 他をぶっち切っての最高点だった。

『まさか貫通するとは思わないしね?』

 かつて自らの地元の街を破壊したあの暴風の魔法ならば分かる。

 あれを放てば騒ぎになるのは分かっていたが、まさかいつもの通りに弱めのモンスターを狩るぐらいで、という感覚で選んだウィンドショットでこんな騒ぎになるとは。

 完全に予想外だった。

「静かになさってください」

 そんな中、よく通る綺麗な声が辺りに響く。

 決して大きくはない。

 しかし、誰が言ったのかわかるくらいに、それははっきりとルカの耳にも届いた。

「アルヴィナ……………」
「皆さん騒ぎたいお気持ちは分かります。ですが、今は試験中です。次に参りましょう」

 いかにも育ちの良さそうな、そんな言葉遣いと所作で皆に言い聞かせるアルヴィナ。

 その間近で彼女を見ていた生徒は、ぽーっと熱に浮かされたように頬を赤くしていた。

「えっと………皆さん?」

 騒ぐのをやめたかと思った皆が、今度はぼんやりとした様子でこちらを見ているのに気付き、困惑した様子のアルヴィナ。

 その表情も、他の誰かがやれば特別なものには見えなかっただろう。

 しかし、アルヴィナにかかれば、困り顔すら絵になってしまった。

 ルカに向いた熱狂の矛先が、アルヴィナに向かおうとする。

 と、そこに。

「次の測定者!」

 その頃にはようやく我に返ったリオンが声を張り上げると、生徒達はビクッと肩を跳ね上げ、わずかに残った測定者が所定の位置に移動していくのだった。


 ◇


「はぁぁぁぁぁ~~~~~、疲れたぁ」

 内臓がそのままはみ出てくるのではないかというほど年季の入った長いため息を吐くと、屋敷の自室の机の上で力なく伸びたルカ。

「お疲れ様でございました」

 側に控えたルドルフも、ルカのその様子に珍しいものを見るような表情をしながら労った。

 あの後、クラス分けのための試験については、最後に残った非魔法系の実技も予定通り実施された。

 当然、直前の魔法実技で高数値を出したルカとアルヴィナに注目が向けられたが、結果的には二人はそれぞれ平均的な数値に落ち着いた。

 それには周りも少し落胆するような様子もあったが、当たり前と言えば当たり前の結果ではあった。

 そもそも、貴族の間では魔法の才能を磨くべきだという風潮がある。

 それはこの国だけではなく、他国でも同様で、特権階級の子女はまず剣や槍といった武術よりも、魔法を学ぶ。

 なぜそうなのか。

 それは、かつてこの世を大いなる悪から救った異世界の勇者が、絶大な魔法の力を持っていたから。

 そう言い伝えられており、貴族の間ではその魔法の力により秀でていることがステータスの一つと捉えられていたのだ。

 そういった背景もあり、基本的には貴族は魔法の方が得意な者が多い。

 実際、アルヴィナについては弓を獲物に選んでいたが、他よりも少し優秀といった程度の結果で、魔法ほどのインパクトのある数値ではなかった。

 では、ルカはと言えば?

 ステータスに任せて剣を振り回した?

 否。

 魔法の時よりさらに手加減した、である。

 魔法を放ったときの感覚を慎重に思い出しながら、恐る恐る振り下ろした長剣。

 それは、直前にテストした同級生の残した傷よりかは深かったが、ターゲットを破壊し尽くしたりすることもなく、な結果に落ち着いた。

「普通にダンジョンに行った方が楽だったよ」
「左様でございますか。そこまで厳しい試験があるとは」

 ルドルフは何やら勘違いしたように難しい表情をしていたが、それを正すために言葉を重ねるほどの気力はルカに残っていなかった。

「セレスト、か」

 試験の終わりに、発表されたクラス分けの結果。

 スペリオル高一とされるクラスになったことへの期待と、不安がルカの小さな胸の中で渦巻いていた。

「ま、頑張るしかないよね~」

 そう言って、また机の上で身体を伸ばしたルカの顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。





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