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第一章 異世界転生編
ペロペロ草の真価
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「次は何を言い出すかと思えば」
早朝から自室を尋ねて来たかと思えばまた突飛な事を言い出した息子に若干の呆れ顔をするファリド。
そんな反応もどこ吹く風と澄ました顔をしているルカは、父によく見えるようにひと束の植物をむんずと掴んで頭上に掲げていた。
「ペロペロ草です。これで実験をしたくて」
事前申告、情報共有は大切。
それは今回の魔法の件でルカは十分に思い知っていた。
「ぺ、ペロペロ草?確かに特徴的な外見の草だけど、そんな名前はついてなかったと思うけど?」
「あ…そうだ。ペロペロ草は勝手に付けたんだった」
あれ?という顔をすると、完全に自分の中ではペロペロ草になっていた手の中の雑草を見るルカ。
それをまじまじと見つめていると、スキルが反応したのか鑑定結果が表示された。
名称:うずまき草
「うずまき草です」
「そうそう。それだ」
そういえば異世界人仕様で、触れた物の名称のアナウンスも頭の中で響いていた記憶があったが、完全にこれはペロペロ草だと思い込んでいたため、それも無視した状態だった。
「で、話を戻しますが父上。これを使って実験をしたくて。キッチンを使ってもいいですか?」
「キッチンを?うーん…。何のために?」
「実験です」
次は何をやらかすのか。
ファリドも気が気ではなかったが、キッチンならば目に届く範囲のことだ。
刃物や火の始末などはあるが、昨日モンスターが徘徊する森に探索に行ってきたことと比較すれば危険度は低い。
若干の不安を覚えたファリドだったが、探索との単純なリスクの比較で測ってしまい、許可を出した。
「良いよ。でも、リーナをそばに置くこと。いいね?」
「はい!ありがとうございます」
もう少し条件を出されると思っていたルカは、意外に早く許可が出たことに嬉しくなり、思わず大きな返事をした。
「じゃあ、申し訳ないけどリーナ。お願いできるかな?」
「かしこまりました」
一連のやり取りを部屋の後方、ドアの辺りで控えながら聞いていたリーナは、家長からの依頼に深く一礼し承諾した。
◇
「じっけん、じっけん!楽しい実験!」
昨日森に向かう前の時のような、テンションが上がりまくった声を出しながら、キッチンの台の上にペロペロ草を並べるルカ。
その様子をリーナは静かに見守っていたが、すでに色々とやらかしているルカの興奮している姿に一抹の不安を覚えた彼女は、思わず質問してしまっていた。
いつも黙して控える彼女にしては、非常に珍しい事だった。
「ルカ様、そちらは今何をしようとされているんですか?」
「ん?実験だよ」
先程彼の父親に同じような事を聞かれていた時にも答えていた内容。
しかし、何を成そうとして行う実験かは答えていなかった。
「あの……それで何か出来上がるんですか?」
「あ~、そうだね。明確な目標があるわけでは無いんだけどね。何か面白い薬品とかできないかなぁと」
「薬品………ですか」
危険な香りのするワードに、思わずゴクリとツバを飲み込むリーナ。
屋敷裏の訓練場での出来事も思い出した彼女は、引き攣った表情でルカを見つめてしまっていた。
「あれ?なんか恐がられてる?大丈夫、大丈夫!ただの雑草だよ?そんな爆発したりとかしないから!………多分」
最後は自信をもって言い切って欲しいです。
リーナは思わずそう口にしそうになったが、ルカの言うように実験の材料は雑草だ。
逆にそれで何ができるんだ、というところではあるが、大惨事になるような事もないだろう。
そうやって彼女は自分自身を納得させると、コクリと一度頷き、再び控える状態に戻った。
◇
「じゃあ、やっていきますかね」
まだルカの身長ではキッチンの作業台は高いため、木でできたステップ台の上に立つと、ペロペロ草と鍋と擂粉木にまな板と包丁、それにモンスターの魔石をキッチンの台の上に置き、どこから手をつけるかと掌をワキワキとさせるルカ。
「まぁ、まずは煮出してみようかな」
早速と包丁を手に取り、数本のペロペロ草をまな板の上に並べるルカ。
綺麗に頭を揃えると、小気味良いリズムでそれを刻み出した。
「これでよし、と」
5mm程度の荒めのみじん切りにペロペロ草を細かくすると、鍋にそれを投入する。
「タッタカタカタカタッタッター♪」
前世でお馴染みだった、お昼の料理番組のBGMを口ずさみながら実験を進めていくルカ。
トクトクトク、と鍋に水を入れるとマッチを使って竈門の炭に火を点けた。
「コンロがあればなぁ」
思わず、ノイの文明の低さにため息が漏れるルカ。
今目の前で実験用の鍋が乗っているのもレンガ造りの使い込まれた竈門だ。
カチッとツマミ一つで火が点いた前世の便利さが恋しい。
「まぁ、ないなら作ればいいんだけどね~」
今興味がある事が落ち着けば、次は。
そう思いながら、鍋をヘラでゆっくりと混ぜるルカ。
そうしてペロペロ草を煮出す事約10分。
その緑色が水に溶け出し、色が変わって来たところで鑑定を発動させてみた。
「鑑定」
名称:とある魔法薬になりかけの水
効能:なし
なんとも微妙な名前になっていた。
何かしらの薬にはなろうとしているが、何らかの要素が足りず、ただの色付きの水の域を脱していない。
「でも…」
自らの思考に答えるように、小さく呟くルカ。
「やっぱり間違ってなかった」
ただの雑草が、煮詰めただけでこんな鑑定結果になるはずがない。
自分の直感が結果に繋がりそうな予感に、鼓動が早まる。
「よーし!もっと試すぞー!」
俄然やる気が出て来たルカは、腕まくりをすると残りのペロペロ草を掴み、自らの頭上に掲げた。
◇
「す、すげぇもん作ってしまっただ」
なぜか訛った口調で呟いたルカは、鍋の中に満たされた綺麗な黄緑色の液体を見ていた。
名称:全能ポーション
効能:全ての基礎能力値を1ずつ上げる。効果があるのは1日1回まで。
最初に出来上がった時、その効能欄にある説明が冗談かと思って何度も鑑定を発動してしまった。
しかし結果はさきほどの通り。
1日1回という制限はあれど、破格の効果である。
何かしらの数値が瞬間的に上がるようなものができれば。
そんなよくあるような結果を期待していたが、今出来上がってしまったこれは、基礎能力値を1上げるとある。
つまりは永続的な能力値の上昇であり、一時的なブースト用のポーションとは訳が違う。
もし、このことが外部に漏れてしまえば、大きな騒動の種になりそうなほどの代物だ。
「案外簡単にできたんだけどな…」
煮詰める方法では名前が変わらず、それでは蒸留ではどうだと試したところ、明らかに残留する液の色が鮮やかに変わりだし、鑑定結果も×?&ポーションと、何かのポーションに成りかけていると期待していたが、まさか完成してみてここまでの事になるとはルカも想像していなかった。
「まずは、た、ためしてみようか」
しかし、目の前のポーションの危うさは分かってはいても、反対に高まり続けていた好奇心の疼きを抑えるには敵わなかった。
ゴクリ、と喉がなる。
震えそうになる手を押さえつけながら、木でできた古めかしい柄杓で薬液を掬う。
さて満を持してということで、ルカがそれを飲もうと口を大きく開けたところで横から声が掛けられた。
「あ、あのルカ様そんなものを飲んで大丈夫でしょうか?」
「うぇい!?」
遠慮がちに聞いてきたリーナだった。
極力後ろに控えて余計なことを言わない彼女だが、さすがに妙な液体を飲もうとしたルカを静止せねばと思ったのだろう。
実験に夢中で今の今まで彼女の存在を忘れていたルカは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「だ、大丈夫、大丈夫!飲んでも大丈夫ていう結果もでてるからさ!」
「そ、そうですか?」
やたらと語調の強いルカに気圧されながらも、疑うような視線を向けるリーナ。
それもそうであろう、自分が側についていたにも関わらず、変な薬液を飲んでルカが体調を崩してしまった、ということになってはファリドやエレーナにも申し訳が立たない。
「でしたら、その薬液を私が飲んでも問題ないということですね?」
「え?」
まさかそんな返事がリーナから来るとは思っていなかったルカが一瞬目を丸くするが、今し方飲んで大丈夫といったのは自分である。
しかし、こんなある意味で危険な代物を、リーナであっても飲ませる事は出来ない。
「あー、いや、止めといたほうがいいかな?これ筋肉が付きやすくする薬だから。リーナがムキムキになっちゃうかも?」
苦しい言い訳だとルカは思ったが、とっさにこれ以上の事は思い浮かばなかった。
「ムキムキ、ですか?それは………」
「嫌だよね!?じゃあ、いきまーす」
「あっ!」
ムキムキになると言われて喜ぶ女性は多くはないだろう。
その言葉にリーナが怯んでいる間にルカは好奇と見て、持ったままだった柄杓に口に付け、ぐいっとあおった。
苦い。
途轍もなく苦い液体が喉から食道にかけて流れていき、胃へと降りていく。
鑑定でこの効能を知っていなければ、絶対に飲み切ることはなかっただろう。
しかし、その苦痛な体験を経て得られる効果は絶大だった。
ゆっくりと胃へと到達していた薬液が、ルカの身体に浸透したのか、例の音声が頭の中で響いた。
《全ステータスが1上がりました》
………………。
苦しそうな顔をしていたルカがぴたりと
無表情になる。
心配そうに横で見ていたリーナは、その様子にさらに焦った表情になったが、ルカがその後に急に腕を天井に突き上げたのを見ると目を丸くして固まってしまった。
「しゃゃゃゃあああああ!!!」
渾身の歓喜がルカの口から迸る。
リーナがぽかんとその様子を見ていたが関係ない。
今はこの喜びを噛み締めようと、しばらく腕を天に掲げるルカであった。
早朝から自室を尋ねて来たかと思えばまた突飛な事を言い出した息子に若干の呆れ顔をするファリド。
そんな反応もどこ吹く風と澄ました顔をしているルカは、父によく見えるようにひと束の植物をむんずと掴んで頭上に掲げていた。
「ペロペロ草です。これで実験をしたくて」
事前申告、情報共有は大切。
それは今回の魔法の件でルカは十分に思い知っていた。
「ぺ、ペロペロ草?確かに特徴的な外見の草だけど、そんな名前はついてなかったと思うけど?」
「あ…そうだ。ペロペロ草は勝手に付けたんだった」
あれ?という顔をすると、完全に自分の中ではペロペロ草になっていた手の中の雑草を見るルカ。
それをまじまじと見つめていると、スキルが反応したのか鑑定結果が表示された。
名称:うずまき草
「うずまき草です」
「そうそう。それだ」
そういえば異世界人仕様で、触れた物の名称のアナウンスも頭の中で響いていた記憶があったが、完全にこれはペロペロ草だと思い込んでいたため、それも無視した状態だった。
「で、話を戻しますが父上。これを使って実験をしたくて。キッチンを使ってもいいですか?」
「キッチンを?うーん…。何のために?」
「実験です」
次は何をやらかすのか。
ファリドも気が気ではなかったが、キッチンならば目に届く範囲のことだ。
刃物や火の始末などはあるが、昨日モンスターが徘徊する森に探索に行ってきたことと比較すれば危険度は低い。
若干の不安を覚えたファリドだったが、探索との単純なリスクの比較で測ってしまい、許可を出した。
「良いよ。でも、リーナをそばに置くこと。いいね?」
「はい!ありがとうございます」
もう少し条件を出されると思っていたルカは、意外に早く許可が出たことに嬉しくなり、思わず大きな返事をした。
「じゃあ、申し訳ないけどリーナ。お願いできるかな?」
「かしこまりました」
一連のやり取りを部屋の後方、ドアの辺りで控えながら聞いていたリーナは、家長からの依頼に深く一礼し承諾した。
◇
「じっけん、じっけん!楽しい実験!」
昨日森に向かう前の時のような、テンションが上がりまくった声を出しながら、キッチンの台の上にペロペロ草を並べるルカ。
その様子をリーナは静かに見守っていたが、すでに色々とやらかしているルカの興奮している姿に一抹の不安を覚えた彼女は、思わず質問してしまっていた。
いつも黙して控える彼女にしては、非常に珍しい事だった。
「ルカ様、そちらは今何をしようとされているんですか?」
「ん?実験だよ」
先程彼の父親に同じような事を聞かれていた時にも答えていた内容。
しかし、何を成そうとして行う実験かは答えていなかった。
「あの……それで何か出来上がるんですか?」
「あ~、そうだね。明確な目標があるわけでは無いんだけどね。何か面白い薬品とかできないかなぁと」
「薬品………ですか」
危険な香りのするワードに、思わずゴクリとツバを飲み込むリーナ。
屋敷裏の訓練場での出来事も思い出した彼女は、引き攣った表情でルカを見つめてしまっていた。
「あれ?なんか恐がられてる?大丈夫、大丈夫!ただの雑草だよ?そんな爆発したりとかしないから!………多分」
最後は自信をもって言い切って欲しいです。
リーナは思わずそう口にしそうになったが、ルカの言うように実験の材料は雑草だ。
逆にそれで何ができるんだ、というところではあるが、大惨事になるような事もないだろう。
そうやって彼女は自分自身を納得させると、コクリと一度頷き、再び控える状態に戻った。
◇
「じゃあ、やっていきますかね」
まだルカの身長ではキッチンの作業台は高いため、木でできたステップ台の上に立つと、ペロペロ草と鍋と擂粉木にまな板と包丁、それにモンスターの魔石をキッチンの台の上に置き、どこから手をつけるかと掌をワキワキとさせるルカ。
「まぁ、まずは煮出してみようかな」
早速と包丁を手に取り、数本のペロペロ草をまな板の上に並べるルカ。
綺麗に頭を揃えると、小気味良いリズムでそれを刻み出した。
「これでよし、と」
5mm程度の荒めのみじん切りにペロペロ草を細かくすると、鍋にそれを投入する。
「タッタカタカタカタッタッター♪」
前世でお馴染みだった、お昼の料理番組のBGMを口ずさみながら実験を進めていくルカ。
トクトクトク、と鍋に水を入れるとマッチを使って竈門の炭に火を点けた。
「コンロがあればなぁ」
思わず、ノイの文明の低さにため息が漏れるルカ。
今目の前で実験用の鍋が乗っているのもレンガ造りの使い込まれた竈門だ。
カチッとツマミ一つで火が点いた前世の便利さが恋しい。
「まぁ、ないなら作ればいいんだけどね~」
今興味がある事が落ち着けば、次は。
そう思いながら、鍋をヘラでゆっくりと混ぜるルカ。
そうしてペロペロ草を煮出す事約10分。
その緑色が水に溶け出し、色が変わって来たところで鑑定を発動させてみた。
「鑑定」
名称:とある魔法薬になりかけの水
効能:なし
なんとも微妙な名前になっていた。
何かしらの薬にはなろうとしているが、何らかの要素が足りず、ただの色付きの水の域を脱していない。
「でも…」
自らの思考に答えるように、小さく呟くルカ。
「やっぱり間違ってなかった」
ただの雑草が、煮詰めただけでこんな鑑定結果になるはずがない。
自分の直感が結果に繋がりそうな予感に、鼓動が早まる。
「よーし!もっと試すぞー!」
俄然やる気が出て来たルカは、腕まくりをすると残りのペロペロ草を掴み、自らの頭上に掲げた。
◇
「す、すげぇもん作ってしまっただ」
なぜか訛った口調で呟いたルカは、鍋の中に満たされた綺麗な黄緑色の液体を見ていた。
名称:全能ポーション
効能:全ての基礎能力値を1ずつ上げる。効果があるのは1日1回まで。
最初に出来上がった時、その効能欄にある説明が冗談かと思って何度も鑑定を発動してしまった。
しかし結果はさきほどの通り。
1日1回という制限はあれど、破格の効果である。
何かしらの数値が瞬間的に上がるようなものができれば。
そんなよくあるような結果を期待していたが、今出来上がってしまったこれは、基礎能力値を1上げるとある。
つまりは永続的な能力値の上昇であり、一時的なブースト用のポーションとは訳が違う。
もし、このことが外部に漏れてしまえば、大きな騒動の種になりそうなほどの代物だ。
「案外簡単にできたんだけどな…」
煮詰める方法では名前が変わらず、それでは蒸留ではどうだと試したところ、明らかに残留する液の色が鮮やかに変わりだし、鑑定結果も×?&ポーションと、何かのポーションに成りかけていると期待していたが、まさか完成してみてここまでの事になるとはルカも想像していなかった。
「まずは、た、ためしてみようか」
しかし、目の前のポーションの危うさは分かってはいても、反対に高まり続けていた好奇心の疼きを抑えるには敵わなかった。
ゴクリ、と喉がなる。
震えそうになる手を押さえつけながら、木でできた古めかしい柄杓で薬液を掬う。
さて満を持してということで、ルカがそれを飲もうと口を大きく開けたところで横から声が掛けられた。
「あ、あのルカ様そんなものを飲んで大丈夫でしょうか?」
「うぇい!?」
遠慮がちに聞いてきたリーナだった。
極力後ろに控えて余計なことを言わない彼女だが、さすがに妙な液体を飲もうとしたルカを静止せねばと思ったのだろう。
実験に夢中で今の今まで彼女の存在を忘れていたルカは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「だ、大丈夫、大丈夫!飲んでも大丈夫ていう結果もでてるからさ!」
「そ、そうですか?」
やたらと語調の強いルカに気圧されながらも、疑うような視線を向けるリーナ。
それもそうであろう、自分が側についていたにも関わらず、変な薬液を飲んでルカが体調を崩してしまった、ということになってはファリドやエレーナにも申し訳が立たない。
「でしたら、その薬液を私が飲んでも問題ないということですね?」
「え?」
まさかそんな返事がリーナから来るとは思っていなかったルカが一瞬目を丸くするが、今し方飲んで大丈夫といったのは自分である。
しかし、こんなある意味で危険な代物を、リーナであっても飲ませる事は出来ない。
「あー、いや、止めといたほうがいいかな?これ筋肉が付きやすくする薬だから。リーナがムキムキになっちゃうかも?」
苦しい言い訳だとルカは思ったが、とっさにこれ以上の事は思い浮かばなかった。
「ムキムキ、ですか?それは………」
「嫌だよね!?じゃあ、いきまーす」
「あっ!」
ムキムキになると言われて喜ぶ女性は多くはないだろう。
その言葉にリーナが怯んでいる間にルカは好奇と見て、持ったままだった柄杓に口に付け、ぐいっとあおった。
苦い。
途轍もなく苦い液体が喉から食道にかけて流れていき、胃へと降りていく。
鑑定でこの効能を知っていなければ、絶対に飲み切ることはなかっただろう。
しかし、その苦痛な体験を経て得られる効果は絶大だった。
ゆっくりと胃へと到達していた薬液が、ルカの身体に浸透したのか、例の音声が頭の中で響いた。
《全ステータスが1上がりました》
………………。
苦しそうな顔をしていたルカがぴたりと
無表情になる。
心配そうに横で見ていたリーナは、その様子にさらに焦った表情になったが、ルカがその後に急に腕を天井に突き上げたのを見ると目を丸くして固まってしまった。
「しゃゃゃゃあああああ!!!」
渾身の歓喜がルカの口から迸る。
リーナがぽかんとその様子を見ていたが関係ない。
今はこの喜びを噛み締めようと、しばらく腕を天に掲げるルカであった。
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