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第一章 異世界転生編

いざ、探索へ

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 ルカの家がある小高い丘の上から見下ろせる場所に「駆け出しの森」という場所があった。

 その名の通り、駆け出しの冒険者が探索するのにちょうど良い弱いモンスターが棲んでおり、浅い場所では薬草採取なども可能だ。

 ぱっと見たところはごくごく普通の森で、冒険者を中心に人の出入りも多いことから自然と安全な通り道が出来上がっている。

 まずは「駆け出しの森」で修行しろ。

 これがこのあたりの冒険者の常識だった。

「とうちゃ~く!」

 その「駆け出しの森」に着き、年齢相応の可愛い声を上げるルカ。

 普通、いかに初心者向けのフィールドであっても、最初は緊張するものである。

 しかしルカの雰囲気からはそれは全く感じ取れず、むしろ好奇心に目をランランとさせていた。

「ルカ様、くれぐれも前には行かれませんよう」

 胸当てと細剣とヘッドガードという、軽装備に身を包んだルドルフが横で注意を促した。

 彼の格好も今からモンスターを倒すような冒険に行くとは思えない簡素なものだったが、これが彼のフル装備だった。

 スピードと魔法を組み合わせた、魔法剣士。

 それがルドルフの戦闘スタイルだからだ。

「あ~、わかってる。わかってるけど、ウズウズするんだよ~」

 その場でぴょんぴょんと何度もジャンプし、探索をしたいとアピールするルカ。

 その様子は玩具を前に我慢させられている子供そのものだった。

「わかりました。では参りましょう」

 ルカのその子どもらしい仕草に苦笑しながら、ルドルフは森へと歩を進めていった。


 ◇


「これがいやし草。そして似た見た目をしていますが、すぐ右にあるのがしびれ草です」

 森へと立ち入り5分ほど歩いたところ、まだ弱いモンスターもあまり出てこない浅いエリアでルドルフは地面を指差しながらルカに説明していた。

 冒険者であれば魔物討伐。

 そんなイメージがあるかもしれないが、採取や採掘といった依頼も少なくない。

 むしろ駆け出しの時は最悪の事態を避けるために、薬草などの採取の依頼のほうが多くなっている。

 そのため初心者用の依頼とも言える薬草採取を、オリエンテーションとして解説するのがセオリーとされていた。

「ふんふん」

 興奮が落ち着いたのか、ルドルフの説明を聞きながら真剣な表情で頷くルカ。

 冒険者は基本、実地で見て、聞いてスキルを磨いていく。

 一度でルドルフの言うことを吸収しようと、地面にしゃがんで二つの植物を手に取り見比べていた。

「それぞれポーション、しびれ薬と活用の方法はありますが、ともにその汁に効力があります。ですので、採取の際はできるだけ傷つけず、根は引き抜かずに残したまま取ってください」
「根を残すのはなんで?」
「それは、この二種ともが強い生命力があり、しばらく放っておくとまた生えてくるからです」
「あ、なるほど!」

 疑問に思ったことはすぐに質問するルカに、ルドルフもしっかりと理由を添えて説明する。

「じゃあさ、こっちは?」
「それはただの雑草ですね」
「えー?こんな変わった形をしてるのに?」

 ルカがしゃがんでいたあたりから少し離れたところの、杉のような巨木の根元。

 そこにペロペロキャンディのような特徴的な形をした葉っぱの植物がポツンと生えていた。

 これにはなにかある。

 そう思ってルカがルドルフに質問を投げたが、ただの雑草という回答だった。

 しかしそこは昆虫愛という変態的なスキルを持つ彼である。

 常識は常識。

 だが常識にとらわれない方法で、隠れた効果や効能が得られるのでは。

 そうルカの直感が告げていた。

「持って帰ってもいい?」
「え、ええ。それは問題ありません。しかし、本当にただの雑草ですよ?」
「うん、大丈夫」

 取るに足らない植物だと伝えているつもりのルドルフだったが、何かの確信を得ているかのように雑草を摘むルカの様子に首を傾げる。

「ちなみに、ポーションを作る時とかってどうしてるの?」
「はい?それは製造の方法という意味ですか?」
「うん」

 思わぬ方向の質問に、右に傾けていた首を逆に傾けて疑問顔のルドルフ。

 ルカが何を求めて質問してきているのか分からなかったからだ。

「私も薬師ではありませんので詳しいことは。ただ、作っている様子を見たところでは、基本的にすり潰したものをそのまま混ぜたり、漉したり、それをさらに熱したりといった具合でしょうか」
「ふんふん」

 何か今の説明で納得する部分でもあったのか、頷きながら手に持った葉っぱを裏返したり、匂いを嗅いだりするルカ

「あの………」
「ならさぁ」

 今の質問に何の意味が、と質問しかけたルドルフを遮るように言葉を重ねるルカ。

「は、はい」
「蒸留って分かる?」
「蒸留?なんでしょう?私は聞いたことが…」

 冒険者時代、色々な国を巡ってきたが、それでも聞いたことのない言葉。

 この話の流れであれば、薬を作ることに関係しているのであろう。

 そういう想像はルドルフにもできたが、その意味については皆目検討がつかなかった。

「あ~。じゃあ、遠心分離も分からないよね?」
「はい…そちらも」
「ふんふん」

 またしても何か納得するように頷くルカに、疑問の色を深めるルドルフ。

 いったいどこから仕入れた知識なのか。

 喉元まで出かかった質問を、彼はとっさに飲み込んだ。

 少し離れているが、魔物がこちらに接近してくる気配を感じたからだ。

「ルカ様、私の後ろに」

 瞬時に表情を引き締め、自らを盾にするような位置取りをするルドルフ。

 短い言葉での指示が、彼の緊張を物語っていた。

 それに対してルカはゆったりと落ち着いていた。

 臨戦態勢をとろうとはしているが、ずっと持っていたペロペロ草(ルカが勝手に今付けた)を背中のリュックにゆっくりと丁寧に仕舞い込んでいたのだ。

「あのルカ様…」
「あ、うん。ルドルフの後ろね。でも、その魔物ってまだ少しでしょ?」
「え!?ええ…」

 ルドルフはまだどこに何がいるかも言っていない。

 しかし、鬱蒼とした茂みの中に向けるルカの視線は迷いがなく、魔物の気配が分かっているかのようだった。

「ルカ様、どういうことです?気配察知のスキルをお持ちなのですか?」
「ん?いや、スキルではなくてまほ………なんでもない」

 魔法とほぼ言ってしまっていたが、とっさに口を噤むルカ。

「魔法ですか?」
「いや!いやいや。魔法じゃないよ、魔法じゃ。聞き間違えじゃない?モンスターかなぁって思ったのは、ルドルフが真剣な表情になったからで。それに慎重そうだから早めに言うかなって!」

 あからさまに早口になって言うルカは怪しさ満点だったが、そうやってやり取りをしている間に件のモンスターが近くまでやってきたため、ルドルフはそれ以上追求することなく、迎撃の構えをとった。

 その様子にホッと胸を撫で下ろしたルカだったが、実際のところは言いかけたように魔法を使っていた。

 それも常時発動という高等技術も駆使して。

 先ほどの訓練所での試射の時は三属性使えると話をしたが、咄嗟にボロを出してポンポンとそれ以上の属性を使ってしまうかも知れない。

 厄介ごとを招かないためにも、魔法の技量の部分もできるだけ伏せておきたい。

 そんなルカの考えがあったのだ。

「来ます!」

 そんな風に考え事をしていると、いよいよモンスターが近くまで迫ってきたようである。

 少し緊張したルドルフの声があたりに響くと、茂みが揺れて何かが勢いよく飛び出してきた。




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