上 下
94 / 109

第94話 あ、あれは…キング!?

しおりを挟む
ゴートデビルを倒した信之達は、再度四階層を確認する。

「枯れ木に、乾いた土地…。三階層とは打って変わって死んだ大地という感じか。」

「あんまり長くいると気分も落ち込んじゃいそう…。」

イリスは不快そうな表情をしながら呟く。
どうやらこの雰囲気が苦手のようだ。

「さっきの山羊の悪魔もかなり強かったし、慎重に進んだ方がいいわね。」

「…僕もそう思います。」

「火山マップなら、ピッケルで太古のかたま…」

「ゴホンッ!!確かにここはあまり雰囲気も良くないし、ある程度探索したら気が滅入る前に現実の世界に戻った方が良さそうだな。それにソフィアの言う通り慎重に進んでいこう。」

奏が何かを言おうとしたところを遮る信之。

「うんうん!まずは経験値が美味しいメタル系のモンスターを探さなきゃね!」

「…前回がメタルクイーンだったので、今度こそはキングが出るかもしれませんね…。」

経験値に期待するイリスと、名前の方で期待をする蒼汰。

「蒼汰、期待するだけ無駄だぞ。あいつらは絶対に期待を裏切ってくる。俺はわかっているんだ…。」

「…信之兄さん、毎回期待して裏切られた結果、期待することをやめてしまったのですね…。」

信之は、今までの経験から期待するなと言いながら遠い目をする。
そんな信之を見て、過度な期待はしないように心がけようと思った蒼汰であった。

「蒼汰、蟲を出して辺りを警戒・探索することはできるか?」

「…はい、できます。」

「よし、なら蟲を放ってくれ。」

いつもは信之やイリスが探知魔法を使っているが、蒼汰の蟲がどれだけの精度があるか確かめておこうと考えた信之は、蒼汰に蟲を放つよう指示する。

蒼汰は、空気と魔力の揺らぎに敏感な蟲を大量に召喚して辺りに散らす。

「ひっ…。」

「…?」

蟲を召喚した蒼汰は、何か悲鳴のような声を聞き取った。
その方向を見るとソフィアが蒼汰から距離を取っていた。

「ソ、ソフィアさん?」

蒼汰が近づこうとすると、ソフィアは蒼汰から離れる。

「近づかないで!」

「…ぐはッ!」

ソフィアの本気の拒否に精神的にダメージを負う蒼汰。

「ご、ごめんなさい蒼汰。でも、まだ蒼汰の近くに蟲が飛び交っているから…。」

「…あ、すみません。すぐに離れるように命令します。」

ソフィアに言われ、蒼汰は周りを飛び交っている蟲に命令を出すと、蟲は蒼汰やソフィアから遠ざかる。

「ふぅ…。急に離れたりしてごめんなさいね、蒼汰。蟲もいないし、もう平気よ。」

「…よかった。すみません、目の前で蟲を出してしまって。」

自分が嫌われたのではないかと不安に思っていた蒼汰は、ソフィアが蟲が嫌なだけで離れただけだとわかり安堵する。

「蟲を出すときは言ってね?突然召喚するから驚いてしまったわよ…。もう少しでコレを使うところだったわ。」

ソフィアは赤と緑のスプレー缶を取り出した。
それは現実世界でハエを殺す、あの殺虫スプレーであった。

「…また、ハエですか…。蠅王、あなたは本当に嫌われ者ですね…。」

蠅王の腕輪をさすりながら悲しい気持ちになった蒼汰であったが、蟲の探知に反応があり、すぐに気持ちを切り替えた。

「…信之兄さん、あっちの方向にモンスターの反応があると蟲が教えてくれました。」

「わかった。蟲を通してどのようなモンスターか確認することはできるか?」

「…集中すればできますね、やってみます。」

蒼汰は目を閉じて、蟲が見ている光景を確認する。

「…丸い球体に鈍色で頭には…王冠!?」

「な、なんだとッ!期待を裏切られ続けていたが、とうとう本物が出てきたのか!?」

蒼汰の情報に興奮を隠せない信之。

「それは間違いなくキングなのか!?」

「…姿かたちは間違いなくキングですね。とうとう出てきたんですね。」

「ここにきて本物を出してくるとは…。よし、みんな急いでキングのところに向かうぞ!」

「はーい!」

「なんだかよくわからないけど、信が興奮しているという事はかなり経験値がもらえるモンスターという事かしら?」

「行ってみよ~!」

「わふぅ!」

信之達はキングだと思われるモンスターの元へと向かった。

「おぉ…これこそ探し求めていたキング!」

「これは本物だね!」

目の前のスライムは信之が想像していた通りのモンスターであった。

「ぷよぷよしてるわね。メタルクイーンとかは形状がいびつで液体のような姿だったけれど、今回はまるで違うわね。」

「さわりた~い!」

「くぅ…。やっと、悲願のキングに会うことが…うぅう…。」

「な、何で泣いているのよ。ちょっと気持ち悪いわよ…。」

探し求めていたキングに会うことが出来て涙を流している信之。
その姿を見てドン引きするソフィア。

そんな状況の中、奏はふとイリスを見ると、かなり動揺していることに気付く。

「イリスねぇ、どうしたの~?」

「ん?イリス、どうした?」

信之もイリスが動揺していることに気付き、声をかける。

「あ、えと、その…鑑定であのスライムを確認したんだけど…信くんは見ない方がいいよ!」

「ん?鑑定?そういえばまだキングの事を確認していなかったが…ちょっとまて、イリス。嘘だろ?」

鑑定していなかったことに気付いた信之は、イリスの言葉にまさかと思いながらも鑑定を使用する。

ーーーーーーー
(名)
ミミックスライム

(概要)
対象が期待する人物・モンスターと全く同じ姿になることが出来るスライム。

本当のキングじゃなくて残念だったね!
ねぇ、今どんな気持ち?
ーーーーーーー

「きえええぇええええい!!!」

信之は死刻を取り出して、絶空をミミックスライムに向けて放つ。
明らかにオーバーキルのダメージを受けて消滅するミミックスライムを見ながら鑑定の内容を作った人物は絶対に殴ると心に決めた信之であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんきに冒険始めました!

おむす微
ファンタジー
色々とこじらせた、平凡な三十路を過ぎたオッサンの主人公が(専門知識とか無いです)異世界のお転婆?女神様に拉致されてしまい……勘違いしたあげく何とか頼み込んで異世界に…?。  基本お気楽で、欲望全快?でお届けする。異世界でお気楽ライフ始めるコメディー風のお話しを書いてみます(あくまで、"風"なので期待しないで気軽に読んでネ!)一応15R にしときます。誤字多々ありますが初めてで、学も無いためご勘弁下さい。  ただその場の勢いで妄想を書き込めるだけ詰め込みますので完全にご都合主義でつじつまがとか気にしたら敗けです。チートはあるけど、主人公は一般人になりすましている(つもり)なので、人前で殆んど無双とかしません!思慮が足りないと言うか色々と垂れ流して、バレバレですが気にしません。徐々にハーレムを増やしつつお気楽な冒険を楽しんで行くゆる~い話です。それでも宜しければ暇潰しにどうぞ。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...