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番外編
自覚しろ1
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「旭陽……」
「あ?」
「な……なんで怒ってるんだ?」
「それが分かってねえからじゃねえの」
「えぇ……」
眉を垂らした晃が、情けない顔と声で表情を伺ってくる。
大抵は愛らしさが勝つが、今日は不快感が打ち消されてくれない。
顔を寄せてきた晃の前に手を差し出す。
きょとんとして更に近寄ってきた額を指で弾けば、鈍い衝撃音が大きく空気を揺らした。
「いっ、!」
晃の顔が仰け反った。
人間なら吹っ飛ぶだけの力だったはずだが、流石に耐えたか。
痛い、と反射的な声を発しかけて、ぎゅっと口を引き結んでいる。
今痛みを訴えたら、ますます痛覚を刺激されるだけだと理解しているらしい。
そこまで察するくせに、おれが不機嫌な理由には気付かねえんだからなあ。
相変わらず妙なところで鋭いくせに、同じだけ鈍いやつだ。
さて、どうしてやるか。
考えながら視線を投げれば、晃が可笑しな表情で唇を歪めた。
おれが晃を見たことへの喜びと、不愉快にさせてる理由が分からない悲しさ……ってところか。
そこで喜んでるのが露骨に出るところ、心底気に入ってんだぜ。
だが素直で愛らしい部分こそが気に食わない気分の時もある。
「旭陽、」
情けない表情のまま、キスしたいと言いたげな目をして晃が顔を近付けてくる。
眉を上げてやれば、拒まれていると理解して更に口角を下げた。
「あさひ……」
るせえな。
「その口で触れてくんな」
物欲しげに開いている唇をなぞり、強く爪を立てた。
晃が目を丸くして、おれをまじまじと見つめてくる。
ああ、ショック受ける必要がねえのは自覚してんだな。
散々毎日あれだけおれを好きに暴いといて、今更不安になるようなら躾直してやろうと思ったんだが。
「……くち?」
「そう言ってんだろ」
無抵抗の唇を、人差し指と中指で挟んでやる。
ぎりぎりと力を込めれば、薄らと傷付いて血が滲み出した。
指を退けて顔を近付ければ、晃が大きな瞳を瞬かせる。
「動くなよ」
何か尋ねてくるより先に釘を刺して、柔らかな唇に噛み付いた。
「ッん゛……っ」
痛みに肩を揺らした男が、反射的に顔を反らしそうになって堪える。
えらいじゃねえか。今逃げてたら、暫く触れるの禁止するとこだったぜ。
「ん……」
褒美に髪を撫でてやる。
緊張していた瞳が解け、心地良さそうな吐息が溢れた。
晃が気を抜いたタイミングで、唇を噛み切る。
「ッぃ゛、っ」
体が跳ねそうになって辛うじて押さえ込むのを横目で見ながら、傷口に唇を押し付けて血を吸い上げた。
「っぁ……さ、ひ……」
「晃」
何事かと目を白黒させている男の疑問符は無視して、ひらりと片手を閃かせてみせる。
数秒後に、白い腕が上がってきた。
おれの要求に気付いたらしい。
当然、何されるのかも理解してるよなァ?
分かってて差し出してきてんだろ。
自分の痛みよりも、おれの望みを優先する。
そういうとこ、変わってねえよな。
晃自身の欲を押し通してくることを覚えても、変わらない部分も多い。
それも気に入ってる要因ではある、が。
おれ以外にまで甘さを振り撒く癖、いい加減取り除けよ。
「おれ以外に触れる指なんざ、必要ねえよなあ?」
「ッい゛ィ、っ!」
思いきり白い指に噛み付いてやれば、晃が押し殺した悲鳴を溢した。
別に千切れちまってもいい。魔法で生やしゃいいんだし。
ギリギリと歯を食い込ませていく。
口腔に溢れ返る血を嚥下すれば、おれの唇と喉に強い視線が向けられた。
「……なあに興奮してんだよ、ばか」
「っ……だ、って、」
丁子染に、苦痛以上の欲が宿っている。
見れば、さっきまでは大人しかった晃の下腹部が膨らんでいた。
晃の血を飲み込む仕草に煽られてんのか?
……ったく。おれなら何でも好きだし興奮するんだよなァ、晃は。
そんなだからいつも、おれも不快が続かねえんだわ。
呆れ顔を作って、膝で軽く股座を押し上げてやる。
微かに息を飲んだ男が、眉を下げた顔で物言いたげな表情をした。
さっきと似た顔だが、欲情してんのが目に出てんだよ。
肩を押してやれば、抵抗する気配もなく晃があっさりとソファに倒れ込んだ。
おれより細い体に乗り上げ、身を倒して胸板を合わせた。
服越しだと体温も肌の感触も伝わってこねえ。
そのはずなのに、晃の鼓動が高鳴ってんのはいつも伝わってくる。
「で? 何に興奮してんだ」
晃の唇に滲んだ血を、指先でそっと掬い取る。
赤く染まった自分の指を伸ばした舌で拭えば、男の喉を鳴らす音が聞こえてきた。
足りねえよ。
その程度の興奮じゃ、おれの不愉快はまだ拭われきらねえ。
「だ、って……お前の中に、俺の……」
「いつも下からたらふく飲ませてきてんだろうが」
「そ、それとはまた違うだろ! あれは……! ……いや、いつものが凄いことしてる、けど……」
反射的に否定しようとして、顔を赤らめて口籠もっている。
おまえの照れ顔、ほんとかわいーなァ。
「あきらぁ」
「あさひ、……っ、ん」
不快に渦巻いていた胸が鎮まり、気分が良くなってくる。
頬へ手を添えれば、自然な動きで晃が顔を持ち上げた。
どちらからともかく、そっと唇が触れ合う。
「ッン……、」
がり、とさっきと同じ場所に歯を立ててみた。
一瞬肩を揺らした男は、臆さずに舌を潜り込ませてくる。
おれからも舌で触れてやれば、即座に強い力で絡め取られた。
「あ?」
「な……なんで怒ってるんだ?」
「それが分かってねえからじゃねえの」
「えぇ……」
眉を垂らした晃が、情けない顔と声で表情を伺ってくる。
大抵は愛らしさが勝つが、今日は不快感が打ち消されてくれない。
顔を寄せてきた晃の前に手を差し出す。
きょとんとして更に近寄ってきた額を指で弾けば、鈍い衝撃音が大きく空気を揺らした。
「いっ、!」
晃の顔が仰け反った。
人間なら吹っ飛ぶだけの力だったはずだが、流石に耐えたか。
痛い、と反射的な声を発しかけて、ぎゅっと口を引き結んでいる。
今痛みを訴えたら、ますます痛覚を刺激されるだけだと理解しているらしい。
そこまで察するくせに、おれが不機嫌な理由には気付かねえんだからなあ。
相変わらず妙なところで鋭いくせに、同じだけ鈍いやつだ。
さて、どうしてやるか。
考えながら視線を投げれば、晃が可笑しな表情で唇を歪めた。
おれが晃を見たことへの喜びと、不愉快にさせてる理由が分からない悲しさ……ってところか。
そこで喜んでるのが露骨に出るところ、心底気に入ってんだぜ。
だが素直で愛らしい部分こそが気に食わない気分の時もある。
「旭陽、」
情けない表情のまま、キスしたいと言いたげな目をして晃が顔を近付けてくる。
眉を上げてやれば、拒まれていると理解して更に口角を下げた。
「あさひ……」
るせえな。
「その口で触れてくんな」
物欲しげに開いている唇をなぞり、強く爪を立てた。
晃が目を丸くして、おれをまじまじと見つめてくる。
ああ、ショック受ける必要がねえのは自覚してんだな。
散々毎日あれだけおれを好きに暴いといて、今更不安になるようなら躾直してやろうと思ったんだが。
「……くち?」
「そう言ってんだろ」
無抵抗の唇を、人差し指と中指で挟んでやる。
ぎりぎりと力を込めれば、薄らと傷付いて血が滲み出した。
指を退けて顔を近付ければ、晃が大きな瞳を瞬かせる。
「動くなよ」
何か尋ねてくるより先に釘を刺して、柔らかな唇に噛み付いた。
「ッん゛……っ」
痛みに肩を揺らした男が、反射的に顔を反らしそうになって堪える。
えらいじゃねえか。今逃げてたら、暫く触れるの禁止するとこだったぜ。
「ん……」
褒美に髪を撫でてやる。
緊張していた瞳が解け、心地良さそうな吐息が溢れた。
晃が気を抜いたタイミングで、唇を噛み切る。
「ッぃ゛、っ」
体が跳ねそうになって辛うじて押さえ込むのを横目で見ながら、傷口に唇を押し付けて血を吸い上げた。
「っぁ……さ、ひ……」
「晃」
何事かと目を白黒させている男の疑問符は無視して、ひらりと片手を閃かせてみせる。
数秒後に、白い腕が上がってきた。
おれの要求に気付いたらしい。
当然、何されるのかも理解してるよなァ?
分かってて差し出してきてんだろ。
自分の痛みよりも、おれの望みを優先する。
そういうとこ、変わってねえよな。
晃自身の欲を押し通してくることを覚えても、変わらない部分も多い。
それも気に入ってる要因ではある、が。
おれ以外にまで甘さを振り撒く癖、いい加減取り除けよ。
「おれ以外に触れる指なんざ、必要ねえよなあ?」
「ッい゛ィ、っ!」
思いきり白い指に噛み付いてやれば、晃が押し殺した悲鳴を溢した。
別に千切れちまってもいい。魔法で生やしゃいいんだし。
ギリギリと歯を食い込ませていく。
口腔に溢れ返る血を嚥下すれば、おれの唇と喉に強い視線が向けられた。
「……なあに興奮してんだよ、ばか」
「っ……だ、って、」
丁子染に、苦痛以上の欲が宿っている。
見れば、さっきまでは大人しかった晃の下腹部が膨らんでいた。
晃の血を飲み込む仕草に煽られてんのか?
……ったく。おれなら何でも好きだし興奮するんだよなァ、晃は。
そんなだからいつも、おれも不快が続かねえんだわ。
呆れ顔を作って、膝で軽く股座を押し上げてやる。
微かに息を飲んだ男が、眉を下げた顔で物言いたげな表情をした。
さっきと似た顔だが、欲情してんのが目に出てんだよ。
肩を押してやれば、抵抗する気配もなく晃があっさりとソファに倒れ込んだ。
おれより細い体に乗り上げ、身を倒して胸板を合わせた。
服越しだと体温も肌の感触も伝わってこねえ。
そのはずなのに、晃の鼓動が高鳴ってんのはいつも伝わってくる。
「で? 何に興奮してんだ」
晃の唇に滲んだ血を、指先でそっと掬い取る。
赤く染まった自分の指を伸ばした舌で拭えば、男の喉を鳴らす音が聞こえてきた。
足りねえよ。
その程度の興奮じゃ、おれの不愉快はまだ拭われきらねえ。
「だ、って……お前の中に、俺の……」
「いつも下からたらふく飲ませてきてんだろうが」
「そ、それとはまた違うだろ! あれは……! ……いや、いつものが凄いことしてる、けど……」
反射的に否定しようとして、顔を赤らめて口籠もっている。
おまえの照れ顔、ほんとかわいーなァ。
「あきらぁ」
「あさひ、……っ、ん」
不快に渦巻いていた胸が鎮まり、気分が良くなってくる。
頬へ手を添えれば、自然な動きで晃が顔を持ち上げた。
どちらからともかく、そっと唇が触れ合う。
「ッン……、」
がり、とさっきと同じ場所に歯を立ててみた。
一瞬肩を揺らした男は、臆さずに舌を潜り込ませてくる。
おれからも舌で触れてやれば、即座に強い力で絡め取られた。
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