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二人

第51話 魔王と生贄の、先

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 調査が一段落した頃、家臣たちの進言を受けた。
 贄様を、公式に民へお披露目しては如何ですか、と。

 今回、旭陽は直接勇者の元へ召喚魔法で呼び出された。
 何故俺を直接呼び出さなかったのかといえば、それは城にかけられている防衛魔法の効果であるらしい。
 「城に在るべき存在」として認識している魔族が多い存在は、城と共に膨大な防衛魔法の恩恵を受けられる。
 歴史上においてすら、城内で死者が早々出ていない理由の一端だ。

 民に「魔王城に存在すべき人間」として広く知られていれば、外部からの召喚魔法に影響を受けることはなかった。
 逆に言えば、このままだと万が一の際には再び同じ事態になりかねない。

 段々不機嫌になっていく俺に怯えながら、それでも家臣たちは代わる代わる説明を続けてくれた。
 別に彼らに怒っていたわけではないんだけどな。

 自分の知識不足に怒っている俺を見て、旭陽が変わりに是を告げた。
 それからは……うん。
 代々の魔王の正装があまりに似合わない俺に、衣装関連に携わる魔族が走り回ることになったりと忙しなかったんだが……

 旭陽は笑いすぎだったと思う。仕方ないだろ、今までも魔王が身長も体格もずば抜けすぎてたんだ。
 俺は人型の中では平均的――より多少低いくらいだ。
 おかしい、地球じゃ平均程度だったのに……体格はともかく。
 魔族、全員デカすぎないか?
 二メートル超え多すぎだ。


 昨日までは大騒ぎだったが、何とかギリギリ間に合った。
 特注品になった俺と、元から用意されていたお揃いの衣装を身に纏った旭陽が、並んでバルコニーに出る。

 ざわめいていた空間に、一瞬痛いほどの沈黙が広がる。
 無数の視線が俺と旭陽に突き刺さった。

 薄く笑って、重なっている俺たちの手を持ち上げて見せる。

「――魔王様!」
「伴侶様!」

 ざわ、と大きく群衆の波がうねった。
 誰かが上げた声に、他の民が音を被せる。
 喜びの声が空間を埋め尽くして、空気が揺れるほどの音になった。

「……おれはいつから晃の伴侶になったんだ?」

 鼓膜をびりびりと震わせる歓声の中、旭陽の低い笑い声だけははっきりと聞こえてくる。
 ああ、それは俺も今初めて聞いてちょっと驚いてるんだけどな。

 繋いだ手を下ろして、腰を抱き寄せる。
 衆前で密着した俺たちを見て、ぴたりと民の声が止む。

「どんな呼び方だって良いだろ。……旭陽が俺のものであることに、変わりはない」

 額をこつりと触れ合わせて、囁き声を返した。
 旭陽が肩を竦め、見慣れた皮肉げな笑みを浮かべる。

「……まあ、それもそうだな」

 否定ではなく、肯定が紡がれる。
 言葉が鼓膜に触れた瞬間、弧を描く唇を塞いでいた。

「ッん……ぁっ、ア……っ」

 ぶわりと、さっき以上の歓声が眼下の大衆から湧き上がってきた。
 見渡す限りを埋め尽くす民たちに祝福されながら、旭陽の口腔を味わう。

 低い声が上擦り、甘く喉を震わせる。
 俺の中に全て取り込んで、がくりと震えた腰を更に強く抱き寄せた。

「ッあ、さひ……っ」
「ンっ、ぅ、ふぁ……っ?」

 何度も口付けを交わしながら、頬に手を添える。
 長い睫毛が震えて、雫を滲ませた瞳が俺を見た。

「好き」

 舌を絡めながら、拙くなる声で囁く。
 黄金が甘く蕩けて、俺の舌先に吸い付いた。

「知ってる」

 背中に両腕が回って、旭陽から抱き締められる。
 幸福だけに満たされた胸を抱え、俺も強く抱き返した。

 うん。知ってた。
 お前がずっと俺の恋心を察して手を出してきてるって、昔から知ってた。

 酷いおとこだって思ってたけど、俺も十分酷いな。
 自分が優位になった時点で、すぐに俺がいないと生きられない体に作り変えようとしたんだから。

 でも旭陽は、受け入れてくれた。

「旭陽」
「ンだよ」
「すき」

 もう一度、蜂蜜のように甘ったるい声で囁く。

「……晃」
 すり、と項を撫でながら旭陽が俺を呼んだ。

「もっかい」
 俺と同じくらい甘い色を乗せた黄金が、擽ったそうに細まった。

「すきだよ、旭陽」

 求められるだけ何度でも囁いて、また唇を重ねた。
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