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暗雲

第45話 言葉を奪う

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「っぁ゛ああ゛ぁあッ!」

 久々に牙を突き立てた体が、大きく床の上で跳ね上がった。
 一気に股座が濡れ、布が吸い込みきれなかった分の精が染み出してくる。

 腕を掴もうとしてきた手を逆に捕まえて、頭上で両手を束ねさせた。
 指が届ききらない太い手首を纏めて握った時、まだ再会から間もない頃に何度もこうして押さえ付けたことを思い出す。
 最初に縋られた日からは、もう随分とこんな拘束の仕方はしてこなかったのに。

「っは、ハアッ、ア゛……っ!」

 一気に肌を色付かせた体は、想定していたよりも激しく息を切らしている。
 暫く吸血していなかったからか。
 体に浸透しきっているスライムの媚毒との相乗効果か。

 予想以上の反応に、思わず手が止まる。
 頭が冷えそうになった瞬間、荒い呼吸の下から微かな笑い声が聞こえた。

「ッつ゛ア、ッハ、ははっ……! そ、れで……っ? どうすっ、んだよ……ッ、……轡でもッ、噛ませてみる、か?」
「……旭陽」

 まだ黙らないのか。
 顔を歪めて見下ろしても、嘲笑の形に歪んだ唇は揺るがない。
 体も指先も、唇だって強制的な発情に震えているくせに。瞳だけはまだ冷静な理性を保っている。

「それ、とも――“もう一人の、召喚された魔力持ち”として、囮に出してみる、か?」

 おと、り……?
 切れ切れに紡がれた言葉の意味が分からなくて、一瞬呆けてしまった。

 いや、分からなかったんじゃない。理解したくなかっただけだ。
 思考が停止する。でも旭陽は、そのまま固まっていることすら許してくれない。

「い、いぜ……好、きに、しろよ。……お前に、も、都合、ッ……いい、だろ」

 快感に震えている肩を揺らして、旭陽が笑う。
 都合? 都合ってなんだ?
 動かない頭を必死に回転させようとしている俺に、優しいとすらいえる声がかけられる。

「相打ちに、でも、なりゃ……もっ、う、何も、悩みの種は、なくなる……楽、だろう?」

 服が擦れる感覚にも辛そうに顔を歪めながら、どろりと絡み付くような声音が囁いた。

 もう、憎くて堪らない男への恋心で悩まなくて済むぞ。
 言葉にされなくとも、嗤う瞳が甘言の含む意図を物語っている。

「――――!!」

 カッと頭に血が昇って、旭陽の下肢を掴んだ。
 抵抗は、ない。

 身に纏っている衣服をビリビリに破いてやっても、制止すらしてこない。
 俺が前を寛げれば漸く眉を動かしたが、やっぱり何も言葉は出てこなかった。
 強く自分の唇を噛み締めた拍子に、牙で傷が付いて一筋の血が流れ落ちる。

「……あき、」

 ずっと揺るがなかった黄金が、初めて僅かな揺らぎを垣間見せた。
 起き上がろうとした体を強引に床へ縫い止める。

 触れもしていない場所に押し付け、力尽くで引き裂いた。

「ッが、は――ッつアぐ……ッァ゛、ああ゛ア……、ッ゛!」

 背筋を跳ね上げた褐色に、ぶわりと冷や汗が滲み出す。
 一瞬で焦点を失った瞳に涙がせり上がり、決壊したように溢れ出した。

「っぁ゛、かっ、アく……っ」

 挿入前から苦しそうだった呼吸を一気に見失って、はくはくと唇が空ぶっている。
 過剰な刺激と痛苦に喘ぐ旭陽を裏切って、体は悦んで俺に絡み付いてきた。

 噴き上がった大量の精液が、殆ど着崩していない俺に当たった。
 旭陽自身の体を濡らしながら、俺の服にも大きな染みを作っていく。

 肉璧は吸血の影響で蕩けている。
 でも旭陽の意識が追い付いていない所為か、隘路はがちがちに強張ったままだ。
 相反する状態の場所へ強引に押し入り、行き当たった壁にも無理矢理先端を押し付ける。

「ッヒぐっぅ゛ア゛ああっ! ぃッゥ゛うう! ッィ、た、ぁ゛、きらッ、ァぎ……っ!」

 びしゃびしゃと白濁を撒き散らしながら、旭陽が大きく首を振った。
 同時に施される愛撫すらない状態で、穿たれる法悦と引き裂かれる激痛に挟まれて今にも意識を飛ばしそうだ。

「っぁ゛、ひっ……ァ゛っ……ぐ……っ……ッ」

 ぐら、と黄金が揺らいだのが分かった。
 瞼が震えながら下がっていく。

 完全に瞳が隠れる直前、無理矢理結腸を抉じ開けた。
 気持ち良いのか、怒っているのか。
 自分でもぐちゃぐちゃな衝撃に身を任せ、熱い濁流を注ぎ込む。

「~~~~ッあ゛あァァあ゛あ゛ーーッッ!!」

 殆ど閉じていた瞳が大きく見開かれて、喉を傷め付けるような咆哮が上がった。
 がくんがくんと揺れる腰を引き寄せ、俺の質量によって膨らんでいる腹に掌を押し付ける。

「ッァっヒぃッ、イ゛! ぃ゛ッぅっ」

 ぷしゃりと透明の液体を吹いた場所に爪を立て、指先に意識を集中させる。
 バチッ、と鋭い音が鳴った。

「ッイぁ゛ぁあア゛ッ!」

 汗に塗れた褐色が床の上でのた打ち回り、俺の手によって強引に抑え込まれた。

 暴れる足を掴み、乱暴に引き寄せる。
 太股を牙で突き破れば、ひゅっと息を吸い損ねた音がした。

「ーーッぃ゛、ァ、ぁう゛、うっ……! ッゃ゛、ぅ、あ……っ」

 ぶしゃぶしゃと噴き上がる精液は、栓が壊れた水道のように勢いの弱まる気配がない。
 酷い絶頂を繰り返し続けている体が、どうにか息を吸い込もうとして胸板を大きく上下させていた。
 左胸に牙を押し当て、紅潮している肌を貫く。

「あ゛あ゛ぁぁあ゛ア゛ーーーッッ!!」

 床の上をビチビチと飛び跳ねる体を押さえ付け、自分が刻んだ傷に舌を這わせる。

「ッあ゛ヒッ、ひっ、あ゛、ア゛っ、」

 ひゅ、ひゅ、と危うい呼吸が仰け反った喉から細く漏れている。
 がりがりと床を引っ掻いている手を拘束したまま、喉に歯で噛み付いた。

 また腹の奥深くへ押し込んで、込み上げる熱を吐き出していく。

「ッ゛、ッつ゛、!」

 声なく悲鳴を漏らして、旭陽がどろりと白濁を零した。
 逞しい体が痙攣しながらのたうつ度に、腹に収まりきらなかった俺の精がアナルから僅かずつ溢れ、シーツの水溜まりを広げている。

「ッ相打ち、とか……逃がすわけ、ないだろ……っ! お前は、俺のものだッ!」

 ぐらぐらと揺れる視界を無視して、ガタガタと震えが止まらない体を力任せに穿つ。
 喉仏に噛み付き、血を滲ませた傷口に舌を押し込む。

「…………ッ゛、……っ゛……!」

 悲鳴を上げる力も残っていないのか、引き攣った音だけが聴覚に触れた。
 痙攣する腸壁を押し拡げて、収まらない欲の奔流を叩き付ける。

「おま、えが……ッ旭陽、だけが、俺の……っ!」

 俺の、唯一欲しいものなのに。

 詰る言葉は、音としては零れなかった。

 だって俺は、ここまで言われてもまだ「危ないから人間を探し出して殺そう」とは言えない。
 直接何か害を加えられたわけじゃないのに、殺害を目論んで策を弄する者なんて居ないと思ってしまう。
 他人の都合で呼び出されただけで、知りもしない相手を殺そうとする人間なんて居るはずがないと思っている。

 どうして俺は、未だに人間を手放せずにいるんだろう。

「ッぁ゛、……ァ゛ひ……ッ゛、っ――!」

 小刻みに震える体を抱き締め、白に塗れた腹筋に牙を立てる。

 痙攣を大きくする男に口付けようとして、殆ど意識がない虚ろな瞳に目が向く。
 ぶるりと震えた唇は、結局何処にも触れられずに自分で噛み締めることになった。
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