上 下
18 / 107
日常

第16話 予想外の願い事

しおりを挟む
「っ……ぅ……」

 薄い唇を噛み締めて泣き声を殺す旭陽。
 真っ赤に染まった顔は、どう見ても羞恥によるものだ。

 ちらりと見下ろした下肢は、量を増した透明の液体に塗れて震えている。
 少量ながら、白も混じっているようだった。
 初めて見る表情に見惚れながら、旭陽にも羞恥なんて感情あったんだな、なんて頭の隅に過ぎった。
 悪かったとは僅かたりとも過ぎらない。充実感はたっぷりと感じている。

 ……大丈夫か、俺。
 そりゃ手心とか加える必要はない相手だけど、それにしたって日々欲がエスカレートしていってないか。

「そんなに嫌だったか?」

 自分の感情に危機感を覚えて、何も考えずに尋ねてしまった。
 途端、旭陽の眼光が鋭くなる。長年見慣れていた、獣じみた獰猛な目付きだ。

 あ、やばい。

「~~やめろっつっただろうがッッ!!」

 怒号と共に、腹部に重い蹴りの一撃が叩き込まれた。

「――――ッ゛……!? ……っ!!」

 予想外に痛くて、旭陽の両手を掴んだまま身悶えしてしまう。

 嘘だろ!?
 この馬鹿みたいに頑丈な体にこれだけ痛いと思わせるって、人間が繰り出して良い一撃じゃないぞ!
 魔王の贄が強化されるのって、体力だけじゃなかったのか? 攻撃面まで強化してどうするんだよ……!

「本気で嫌がってるかどうかの区別も付かねえのか、お前は……!」

 悶えている俺に、旭陽がもう一撃食らわせようとする。
 咄嗟に浮いている足を掴み、ぐいと押し上げて旭陽の胸板に太腿を押し付けさせた。

 ああ、腹が立つ。俺のなのに、反抗どころか攻撃してくるとか。
 じくじくと痛む腹が怒りを連れてくる。
 でも同じだけ、興奮もしていた。

「っぅ、く……っ」

 肌が擦れ合う感触に、旭陽がぶるりと身を震わせた。
 その耳元に口を近付け、そっと囁く。

「さっきが本気で嫌なら……今までは、全部嫌じゃなかったってこと?」
「っ!? そ……ういう意味、じゃ……ッ、ン!」

 乱れる吐息を抑えずに吹き込んだ言葉に、逞しい肩が跳ねた。
 否定の声を遮ろうと、形の良い耳に舌を這わせてみた。
 案の定、最後まで言い切れずに目を瞑って快感に耐えている。

 心底嫌なことは物理的に排除しようとするだけの力が残ってると、旭陽は今し方自分で証明した。
 それなのにいつも俺が触れても振り払おうとするくらいで、明確な攻撃はさっきが初めてだ。
 つまり、いつもは嫌がってても心底からの拒否じゃないってことだよな。そういうことだよな……!?
 まあイきすぎてぐちゃぐちゃになってる時は、本気で嫌でも力が出ないのかもしれないけど。

 少なくとも、今はそうじゃない。

「っふ……ぅ、あッああっ……ッ」

 ――ああ、やっぱり。

 耳の孔に舌を突っ込んで掻き回すと、旭陽が嫌がって顔を振ってくる。
 両手と片足を捕まえているとはいえ、残った片足だけで簡単に人間を吹っ飛ばせる男だ。
 でもそうしてはこない。
 心の底から拒絶してるわけではない、ってことだ。

 まあ人間相手だと、どれだけ頑張っても俺にされるのと同じだけの快感は味わえないだろうし。
 旭陽自身は屈辱でも、体はもう俺に犯されないと満足できないって、頭の何処かで理解してるのかもしれない。

「ッぁ、やめっ、晃! 見っ――ッ、……触、んな……ッ」

 片足を上げさせていることで、ひくつくアナルが俺の前に晒されている。
 顔を近付ければ、吐息が触れただけで旭陽の腰が震えだした。

 ああ、見るだけじゃ済まないって理解してるのか。
 でもさ、そういうのはお強請りの言葉にしか聞こえないんだって。

「ッあ、あぅっ!」

 ひくひくと誘ってきている場所へ舌を差し込むと、震えていた腰がびくりと跳ねた。
 熱い腸壁に舌を擦り付け、唾液を内部に流し込んでいく。

「っぅ、んンあっ……あッ、ぁ、んうっ! ひあ……っ」

 ナカにたっぷりと唾液を流し込み、入口に唇を押し付ける。
 昨日のことを思い出したのか、体内を舐られる感覚に耐えていた男の呼吸が跳ねた。

 警戒して身を固くしている旭陽の中でぐるりと舌を回転させ、一度深く押し込んでから引き抜く。

「っンぁうッ」

 甘い声で啼いた男に笑って、掴み続けていた両手を離した。

「っ……あき、ら?」

 旭陽が頭上を見上げ、突然の解放に目を丸くする。
 答えは返さず、すぐにまた太い手首を掴み直した。

「旭陽、挿れて欲しい?」
「っは、はぁっ……、あ?」

 両腕を旭陽の背面に回させながら尋ねると、呼吸を整えようとしている男が不可解げに眉を寄せた。
 手首の腫れ具合を撫でて確かめ、両手が後ろに回っている状態でまた手枷を嵌めさせる。

 腕に気を取られているうちに、またアナルへ顔を寄せた。
 気付いた旭陽が小さく息を飲む。

「ッ、まっ……!」

 鋭い制止の声。
 無視して牙を突き当て、溢れ出した血を喉奥に流し込む。

「あ゛あアア゛あぁッッ!!」

 もうすっかり性感帯の一つと化した場所へまた直接催淫効果を注がれて、連日の行為で掠れたままの声が悲鳴を上げた。
 ぶしゃりと噴き上がった白濁が、俺の服にも飛んで染みを作る。

「っあ、はっ、はあっ、ぁっ、アッ! あうッ、んぅうっ! っ、た……ッ、ま、た、ぁっ……!」

 ぶわりとまた黄金に涙が浮かんで、ぼたぼたと溢れ出した。
 また噛んだ、と泣きながら呻いている。
 思わず宥めるように目尻へ口付けを落としていた。

 一瞬、旭陽の肩から僅かに力が抜けた。
 それも、頬や耳にキスしながら首筋へと移動していくまでのことだったが。
 すぐにまた全身を緊張させて身を捩っている。

「ぁっ、はあっ、ゃっあぅ……っ」

 また吸血されると思ったのか、首を振って制止してきた。

「俺に噛まれるのは、嫌か?」

 やっぱり暴力的ではない否定だ。
 それ、感じすぎて力が出ねえの? それとも、頭は嫌がってても体が欲しがってる?
 後者を期待しながら声をかける。まだ理性は残っているように見えるから、今はすぐに否定されるだろうけど。

 そう予想していたのに、即座の拒否が返ってこない。
 見下ろす先の黄金は、何処か困惑した様子で揺らいでいた。

「……旭陽?」

 重ねて声をかければ、びくりと肩が揺れた。

「っあ……き、ら……ッ」

 ぶるぶると全身を震わせながら、何処か不安そうな目で旭陽が俺を見上げてくる。
 どうしたと言葉で尋ねる変わりに、肩口へと歯型を残してやる。

「ぃ゛っ……!」

 牙以外で噛み付いた時には痛覚は消えない。突然の痛みに旭陽が低く唸った。
 既に淫毒の回り始めている体は、それすらも悦んで大量の先走りを溢れさせているが。

「どうなんだ、旭陽」

 会話どころではない状態だと理解した上で、意地悪く尋ねた。
 涙に濡れた黄金が俺を見上げて、肩口へと額を押し付けてくる。

「っ……?」
「……っく、な……」

 驚きに俺が動きを止めると、完全に俺の肩口へ旭陽の顔が埋まった。

 表情の見えなくなった男が、途切れ途切れに呻く。

「ッ……い……く、なっ……ぃ、挿れてい、からっ……! も、っおいて、いくな……!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結済】悪役令息に転生したので死なないよう立ち回り始めたが何故か攻略対象達に執着されるように

なつさ
BL
前世でプレイしていたBLゲーム世界に転生。よりによって残忍な殺され方をする悪役令息『エヴァ・ヴィリエ』になってしまった!逃げようとするが突然現れた妖精に物語をねじ曲げると殺されると脅されてしまう。当初の悪役令息を演じつつも上手いこと逃げる準備をしていたのだが段々攻略対象達の様子がおかしくなってきて・・・あれ、もしかして逃げられない? 表紙の文字のレイアウト&デザインは66様(@YSuDddQacltKeyA)ありがたきです...!

日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの
BL
日乃本帝国。日本によく似たこの国には爵位制度があり、同性婚が認められている。 ある日、片田舎の男爵華族・柊(ひいらぎ)家は、一通の手紙が原因で揉めに揉めていた。 それは、間もなく成人を迎える第二皇子・日乃本 義(ひのもと ただし)の、婚約者選定に係る招待状だった。 参加資格は十五歳から十九歳までの健康な子女、一名。 日乃本家で最も才貌両全と名高い第二皇子からのプラチナチケットを前に、十七歳の長女・木綿子(ゆうこ)は哀しみに暮れていた。木綿子には、幼い頃から恋い慕う、平民の想い人が居た。 「子女の『子』は、息子って意味だろ。ならば、俺が行っても問題ないよな?」 常識的に考えて、木綿子に宛てられたその招待状を片手に声を挙げたのは、彼女の心情を慮った十九歳の次男・柾彦(まさひこ)だった。 現代日本風ローファンタジーです。 ※9/17 少し改題&完結致しました。 当初の予定通り3万字程度で終われました。 ※ 小説初心者です。設定ふわふわですが、細かい事は気にせずお読み頂けるとうれしいです。 ※続きの構想はありますが、漫画の読み切りみたいな感じで短めに終わる予定です。 ※ハート、お気に入り登録ありがとうございます。誤字脱字、感想等ございましたらぜひコメント頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

【完結】水と夢の中の太陽

エウラ
BL
何の前触れもなく異世界の神という存在に異世界転移された、遠藤虹妃。 神が言うには、本来ならこちらの世界で生きるはずが、まれに起こる時空の歪みに巻き込まれて、生まれて間もなく地球に飛ばされたそう。 この世界に戻ったからといって特に使命はなく、神曰く運命を正しただけと。 生まれ持った能力とお詫びの加護を貰って。剣と魔法の世界で目指せスローライフ。 ヤマなしオチなし意味なしで、ほのぼの系を予定。(しかし予定は未定) 長くなりそうなので長編に切り替えます。 今後ややR18な場面が出るかも。どこら辺の描写からアウトなのかちょっと微妙なので、念の為。 読んで下さってありがとうございます。 お気に入り登録嬉しいです。 行き当たりばったり、不定期更新。 一応完結。後日談的なのを何話か投稿予定なのでまだ「連載中」です。 後日譚終わり、完結にしました。 読んで下さってありがとうございます。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

幸せにするので俺の○○になってください!

田舎
BL
異世界転生で盗賊団の頭になっちゃった主人公(攻)が 自分の部下に捕まった猫科の獣人君に一目惚れ! 無傷で彼を助けるため(もとい嫁にしたくて)奴隷にしてしまった…!? 一目惚れ執着攻め×強気受け(猫科獣人※ほぼヒト) 基本攻め目線です。 ※無理矢理(複数×受け含む)の性交有り。 受けが攻めに一目惚れされてから不憫に拍車がかかりますが愛はあります。(一方的な)

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

処理中です...