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光り物だらけで売れない道化師…しかし、大事にはされている

救援の決断

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「…おい、お前ら…こんなとこでいちゃいちゃしなさんな…」


こっちに来たギルドマスターが呆れた表情を浮かべながらため息混じりにつぶやく。


たっ…たすかったぁぁっ…!


「い…いちゃいちゃなんてしてないっすよっ…」


めちゃくちゃドキドキ冷や汗かいたけどっ。


「側から見てたら誰もがそういうだろうさ…」


そんな奴がいたらいっぺん眼球取り替えてこいって言ってやりたい…


「…まぁとりあえずあれだ…お前らに頼みたいことができた」


マスターからは気不味そうに…しかし、真面目な雰囲気を出しながら話し始めた。


「頼みたい事?」


「…グラムのとこの子がな…目を覚ました」


「ッ!?」


まさかの事実。


こんな早くに目が覚めるとは思っていなかったからだ。


「だが、寝かせつけた…理由はわかるだろ?」


「…恐怖…もしくは腕が亡くなっていた事によるパニックですか?」


コクリとうなづくマスター。


「ご名答。もちろん、体に染み付いた恐怖もあるだろうが……腕が無くなっていた事に気がついてさらに暴れ出しちまってな……まぁ、目が覚めたら腕がないんだから仕方ないが……んで、乱暴だが私が寝かしつけた」


「…それって寝かしつけたと言うより気絶させた…」


相変わらず暴力的だなぁ…この人…


「細かい事はいいんだよ細かい事は……ただ、少し話も聞けてね……その結果、すぐにでも動くべきかと思ってお前らに声をかけたわけだ」


…“俺達”に…か…


「…緊急事態ってわけですか」


「…ぁぁ…事によっちゃ、マルチポイズンスライムとやりあう可能性がある」


「…っ…それはっ…!?」


俺は咄嗟に大声を出しそうになった。


あまりにも早すぎるからだ。


対策なんて何もできてないってのにっ…


「あたしだって、早すぎると思うさ。だが、行動できる時に動かないわけにはいかない…詳しい話は奥で」


クイクイッと扉を指さした。


どうやらこの先の話は秘密って感じのようだ…


「…」


「…はぁ…しかたないわねぇ…」


俺とマリーナはひとまず話を聞くためについていった。


「………ところでよ、シャール」


ふと、小声でマスターが話しかけてきた。


「…人の恋路に口を出すつもりはないが…忠告だけはしとく」


いきなりなんだこの人…?


「は…はぁ?」


「…マリーナはやばいと思うぞ…色んな意味で…」


「…いや、やばいって…そもそもそんな関係ですら…」


「…あー…だからこそ余計にかぁ…」


「??」


マスターが額に手を当てながらつぶやく。


よくわからんが、どうやら俺とマリーナで悩んでいるようだ。


「…まぁ…あれだ……寝込みとか夜道には気をつけろよ?」


「…はぁ?」


「後食事にもだ、わかったな?」


「えっ?…ぁ…は…はぁ…?」


とりあえず頷く俺。


その背後では、うっとりと獲物を見定めるマリーナが俺を見ている事に気が付かぬまま……


マスターは終始、いつかやらかすわ…これ…と、心の中で呆れていた。


◇◇◇◇◇◇


「…は?、グラムパーティーが生きてるかもしれない?」


マスターの部屋に集められた俺たちは、目を覚ました彼女から得た情報を聞かされた。


「…最初のうちは落ち着いていたからね…すぐに聞きたい事を問いかけれたのがよかった」


「…その結果、生存の可能性があると?」


「…冗談でしょぉ?」


マリーナが、そんな可能性を信じているのかと問いかけた。


あの毒を調べたマリーナがそう言うんだから可能性は本当に低いのだろう。


正直言って、俺も同じ意見だ。


新人とはいえ、グラムがそばにいてあの子はあれ程の重傷を負った…たとえ生きていたとしても、流石に時間がかかり過ぎている。


「確かに、捕食されたりあの毒のような何かにやられていれば命はないだろう」


「普通はそうだ」


「だが、彼女の話では怪我人は多かったらしいが毒を主に喰らったのは少なかったらしい」


毒を負った人は少ない?


「…つまり、毒による被害者は少ない可能性があると言う事でしょうか?」


「その通りだ、エリナ」


「…毒攻撃が主ではないのか?」


「…強い毒だからこそ、そう易々とは使えない…とか?」


「詳しいことはわからん…それを聞こうとしたときにはパニック状態になったからね……聞けた範囲じゃ、毒攻撃というより単純な物理技で暴れられたらしい…」


その“暴れた”の度合いによっては話は変わってきそうだが…


毒を受けていないなら生存率はグッと上がるだろう。


「だが、それでも無事の可能性が低いのは変わらないだろう?」


エバンスの問いかけに俺が答えた。


「ん~、怪しいとこだな…嫌な言い方をするが、スライム種は基本少量の“食事”で事が足りる……基本サイズなら、1人の人間を食すのに5匹くらいかなぁ……」


「…マルチポイズンスライムのサイズ次第…というわけか」


ダメージを与えるだけ与えてその場をさる。


毒がないなら免れた奴がいてもおかしくはない…


「毒ではなく、物理ダメージによる怪我人が多数…捕食されていないかもしれないとなれば…動ける理由にはなりそうだな…」


「…だが、危険な事には変わりはない…だろう、マスター?」


「ぁぁ…最悪の場合、マルチポイズンスライムと鉢合わせになる可能性がある…そうなれば戦闘になる可能性が高い」


「…だから勇者を筆頭としたパーティー…しかも聖女がいる僕らが選ばれたわけですか…」


そう。


マスターから説明を聞いているのは俺たちだけだった。


つまり、現時点においてマルチポイズンスライムに出せる手札は俺たちだけというわけだ。


「…無理を承知で頼みたい。救助隊として行動を頼めないだろうか?」


「…」


エバンスは口に手を当てながら考える。


「…シャー」


「自分で判断しろ、勇者。俺たちはそれに従う」


俺はエバンスが聞いてくる前に、決断権を投げつけた。


「…しかしだな」


「アホか。いつもの余裕がある時ならまだしも、これは“パーティーにとって”もっとも重要な決断だろ。ならそれを決めるのは、リーダーのお前だ。その他を置いているはずがない」


多少誤魔化したり、裏があったりするのは事実だが、エバンスの決定に全て任せるつもりだ。


いや、そうでなくては困る。


「……わかった。俺達はこれから救助に向かう…各自、準備を進めてくれ。1時間後には出発だ」


「了解」


エバンスの言葉を合図に、俺達は各々に動き出した。


まぁ、必要な道具とかそれぞれ違うし、時間がかかるからな。













結果として、部屋内にはマスターと俺だけになった。


えっ?


準備はいらないのかって?


俺に必要なものなんて今以上の力ぐらい…はい、すみません調子乗りました。


てか、必要なもんは常に準備してあるからな。


余分な持ち運びは邪魔になるだけだ。


「…アンタは準備はしないのかい?」


マスターが聞いてきた。


「…道化師に何の準備をしろっていうんですか…大抵道具要らずな、手前の体が道具だみたいなクラスですよ?……まぁだからこそ、最弱クラスとも言われるんですが…」


「…皮肉なもんだね…道具が自分の体である以上、他に比べて限界値が低い……戦士とかも同じようなもんなのに……本当に冒険者には向かないようなクラスなんだろうね、道化師は…」


「まぁ…否定はできないっすねぇ」


「…だが…それも変わるかも…いや、まだわかんないねぇ…」


「…はい?」


「何でもないよ。さて、準備が整っているなら英気でも養っておきな。今から向かうのはいつもの場所じゃなく、未知のモンスターが徘徊する場所なんだからねぇ」


「…了解」


俺はとりあえず美味いもんでも食っておこうかなぁと、食堂に向かった。










「…今回、シャールがいなければ確実に若い1人の冒険者を失っていた……そこをどう活かすかだね」


マスターは1人、そんな事を呟きながら仕事に戻る。


彼女は冒険者を辞めたものだが、彼女の戦いは終わってない。


彼女には彼女なりの戦いがこの後待っているのだから。
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