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光り物だらけで売れない道化師…しかし、大事にはされている

調査開始

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淀んだ空気が漂い、黒々とした木々が生茂るドローヌ沼地…


俺たちは目的地のエリアに来ていた。


「…相変わらず淀んだ場所だよな…ここ…」


「…あまり気持ちいい場所ではありませんね…」


「あら、私は結構好きよっ?」


「えっ…まじかっ」


「えぇ。だって、こういう場所なら邪魔が入りづらいでしょ?魔術の研究も愛の営みも…ね?」


「…ぁ…愛の営みっ…///」


妖艶に微笑むマリーナと、顔を真っ赤にしながら俯いているエリナ。


クラスだけでなく、性格もほんと対照的な2人だわ…


でも、意外なことに仲は悪くない。


むしろ、仲がいいんだよなぁ。


いや、仲がいいのは良い事なんだけどねっ?


「…そ…そんな破廉恥な言葉をお昼まにっ……///…ちなみにっ…ぁ…愛の営みというのはっ…?///」


「ふふっ、それはねぇ」


…何やら聖女に教えるべきではないことを話そうとしてるんですが?


大丈夫?


教会から変なこと教えるなって苦情こない?


「…その辺で」


おっと、保護者の介入が入りましたー。


「え~、いいとこなのにぃ~」


「聖女様には、まだ早すぎる」


「早いって言っても、エリナだって年頃の娘よ?そのうち経験することなんだから、変に隠さなくたって」


「駄目だ」


「…もぅ…リメルダはほんと頭が硬いわねぇ…」


やれやれと、首を振るマリーナ。


彼女からすれば、性知識だろうが早く学び、自分の糧にすべきだと考えているんだろう。


対して、リメルダは必要以上に早い段階から学ぶ必要はない、むしろ悪化する可能性が高いと考えている。


…まぁ、どっちが正しいなんて言えないわな。どちらも正しいんだから…


「ふふ…彼女たちはいつも賑やかだね」


ボケーと眺めている俺にエバンスが話しかけてきた。


「…勇者様として、幼気な聖女様に性知識を教えようとしている魔女様を止めなくていいのか?」


「僕が出る必要はないよ、リメルダが止めるからね…それに、マリーナだってそこらへんは意識して話すからね…そうそうまずい事にはならないさ……それに、遅かれ早かれ知る事になるなら信頼できる仲間から聞いておいた方が安心だからね」


「…まぁ…違いないな…」


俺もその言葉には同意的だった。


というのも、冒険者である女性の人数はかなり多い。


ミランダさんみたいに気が強い女性なら問題はないんだけど…中には世間知らずな人もいたりする。


…そんな人たちを狙って、手を出そうとする連中がいる。


…ただのナンパ目的から奴隷としてさらう目的まで幅広い…


そういう意味では、マリーナなのような信頼できる仲間から少しずつでも学んでおくのも有りだ。


…まぁ、その仲間内で手を出すみたいな事もあったりするから、一概には大丈夫とは言えないんだけど…


「…おまえらー、おふざけはその辺にして先に進むぞー」


…とりあえず、ここでぐだぐだしてても仕方ないし、先に進むか…


◇◇◇◇◇



俺達は被害にあった村に来た。


「…思った以上に…酷いな…」


確かに村があったのだろう…此処には…


…しかし、今ではもはや過去の遺物。


土は荒れ、家は最低でも半壊……もはや最近まで人が住んでいたとは思えない光景だった。


…村人らしき人たちは、必死に廃材の撤去を行ってるけど…すぐに復興は望めないだろう。


「…これは予想以上…だね…」


エバンスすら、絶句するほどの始末だ。


「…ポイズンスライムじゃ…こうはならないな…」


「…ちなみに、ポイズンスライムなら何匹いればこれだけの被害を出せるんだい?」


「…絶対とは言えないけど…少なくとも数千匹はいるだろうな…」


「す…数千…ですかっ?」


「…ポイズンスライムはスライム種の下級……スライム種の下級は弱い……訓練を受けたことがない大人…10を超えた子供であっても、武器に当たるものがあれば倒せるほど……」


リメルダは口に手を当てながら呟いた。


「その通り……ポイズンスライムが毒を使うと言っても、微弱な毒…しかもスライム種の下級だから村人だって桑なりスコップなり、そこら辺の角材でも倒せるだろうさ……変に強力な個体が現れない限りはな…仮に無抵抗だったとしても、ポイズンスライムの脅威度で考えればここまでの被害を出すには数千匹は必要だと思う…もしかしたら、足りないくらいだ…」


「…やはり、マルチポイズンスライムが現れたからと考えるべきでしょうね…」


…決して甘く見ていたわけじゃないが…嫌な予感はなかなか外れないもんだな…


「…とにかく、村人の手伝いをしよう」


「…いいのか?」


「かまわないさ。僕らは今調査に来ているんだ…村人からモンスターについて聞くのも立派な仕事だよ……まぁ、その過程で復興の手伝いなんかをしても文句を言われるいわれはないさ」


「ふふっ…では、私は医療場に向かいますね。治癒魔法を必要とされる方はたくさんいらっしゃるでしょうから」


「お供いたします」


「僕は代表として村長に挨拶に向かうよ。それからみんなと合流かな」


「なら、シャールと私で村の中を見回りかしら」


「まぁそうなるな」


マリーナの魔術があれば、廃材を一気に燃やしたりするなんかはお手の物だろうしな…


…俺?


俺はそんな高度なことできないからな。


…せいぜい村人に混じって廃材を撤去していくぐらいだ。


「うん。では、またあとで」


活動方針が決まった俺たちはそれぞれ行動に移った。


◇◇◇◇◇


マリーナと2人で村の中を見回れば、手伝いがそこら中でいるような状態だった。


…これは、一緒に行動するよりばらけた方がいいかもな…


「…マリーナ、とりあえず廃材置き場に向かってくれ」


「んっ、廃材置き場に?」


「ああ。廃材を燃やすのか、使い回すのかわからないけど、かなりの量があるだろうし…マリーナの魔術なら燃やすのも移動させるのもできるだろ?」


「…そうね…確かにその方がいいかもしれないわね……シャールはどうするの?」


「俺は村の中を見回って見て、手助けが必要なら手助けしていく感じかな…どれだけ力になれるかわからないけど…」


「…貴方なら問題無いでしょうに……わかったわ。私の魔術が必要ならすぐに呼びなさいよ」


「あぁ、わかってるよ」


「…なら、いいけれど…じゃぁ行ってくるわ」


そして、マリーナと俺は別れ、村の中を探索する。


道の真ん中にある廃材をどかしたり、廃材に埋もれた道具を取り出したりと村人に協力していく。


…中には、廃材の下敷きになっていた遺体を運び出したり…


…どれだけ悲惨な状態なのかを身をもって理解しながら着々と作業を進めていった。


「…すまねぇなぁ、冒険者の兄ちゃん…こんなに手伝わせちまって…」


「いえ、気にしないでください…俺にできることをしているだけですから」


体格の良い男性…たぶん農作業で鍛えられたんだろう。


一緒に廃材をどかしていた村人の人が声を掛けてきた。


「…本来なら、村で取れた自慢の農作物を振る舞うところなんだがな…」


「…こんな状況ですからね……どんなモンスターだったんですか?…俺たちはマルチポイズンスライムとしか情報を聴けていないんですが」


「…ありゃ化け物だ……思い出すだけでも体が震えてきやがるっ…」


僅かにだが、確かにこの人の体が小刻みに震えていた。


「…無理には聞きませんが…」


「…いや、情報は大切なんだろ…?」


「…大切ではあります」


「…なら、俺たちゃぁあんたらに話す義務がある……うまく伝えられるかは不安だが……まず、あのモンスターはポイズンスライムなんかじゃ無い」


「…ポイズンスライムじゃ…ない?」


「見た目が違うとかそんなんじゃ無いぜ?…俺たちも村に近寄ってきたモンスター達を追っ払うこともあるからな………幸いこの辺りには弱いモンスターしかいないから俺たちでもなんとかなってた…追い返したモンスターの中にはもちろんポイズンスライムも…な」


「…実際に対面して見て…あきらかに両者が違いすぎる…と?」


「あぁ……今回襲ってきたやつの毒がすごい強いっ………家みたいに大きかったが、見た目はポイズンスライムに近かったからな…毒なんて平気だろって、飛んできた毒の塊を避けもせずに浴びちまった奴がいたが……」


「…」


「…死んじまったよ……そいつの場合は全身モロに浴びたからな……一気に体中に毒がまわったんだろ……浴びてすぐに苦しそうにもがき出してな……モンスターが通り過ぎた後も、必死に治療したが…そのまま生き絶えちまった…」


「…お悔やみ申し上げます」


「…そう言ってもらえるだけでもありがたい………とにかくっ、あのモンスターとポイズンスライムを同列に考えちゃいけねぇっ…じゃなきゃ待ってるのは死だけだからよ…」


「…貴重なお話、ありがとうございます…他に何か気づいたこととかありますか?」


「…気づいたことと言われてもな……」


「なんでもかまいません。例えば、妙な動きをしていたとか」


「…そういやぁ……妙に震えてた気もするな」


「震えてた?」


「ほら、スライムならよくプルプルと震えてるだろ」


…確かに、スライム種の動きを思い出すと震えてたな…


あれは、体の大半が液体であるため、少し動くだけでも振動してしまうんだったかな。


「まぁ大きさが大きさだからな…普通に震えていたのが大きく見えただけかもしれないが……素人な俺が見て、気がついた点と言えばそれくらいだな…こんなので良かったのか?」


「…はい、ありがとうございます」


「…まぁ、役に立ったってならいいんだけどよ……しかし何でこんなこと聞いてんだい?兄ちゃん、もしかして錬金術師とか、魔法使いみたいな頭を使うクラスか何かかい?」


「…いえ、ただの道化師ですよ」
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