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光亡き獣と元同僚の女騎士団長

危険な事は見るのも味わうのも…おじさんだって嫌ですよ?

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「…本当にあるのか?」


疑うように、そして戸惑うように問いかけてくる副団長様。


まぁ、無理もありませんよね。


普通に考えて、案があるとは思えない状況ですし。


ただまぁ、あるんですけどね。


「えぇ、あるっちゃありますね」


「…それも、いくつか…ですよね?」


とさらに追撃する騎士団長様。


いやいや…お見通しってのはマジ怖いなぁ…


…何でこんな見透かされてるの…おじさん?


「…何でもお見通しってのは怖いもんですねぇ…」


頭の中を覗き込まれてるみたいでちと怖いですわ。


「…では、何故あんな提案を?」


当然の質問ですね。


自分で言っといてなんですが、あんな言い方から始まれば疑いが生まれても仕方ありません。


まぁそこがおじさんの狙いなんですが…


「まぁ……強いて言うなら、1番簡単だから…ですかね」


「…簡単?」


「えぇ、もろもろ簡単なんですよ。報告内容も、行動も含めて全て」


「……はぁ?」


「…倉庫……いや、あの簡易作業場でお話ししたじゃないですか?。皆さんはスタート地点にすら立つことが出来ていないって」


「…あぁ、あの話か…」


「えぇ、その話ですよ。ちなみに副団長様はこの後どうするおつもりでした?」


「え……まぁ…調査のために」


「この森に入ると?」


と、クイクイッと腕を動かし背後の森を親指で指差す。


「…」


沈黙。


半分正解で半分外れ…ってとこかねぇ?


…まぁ、実際のところ何もわかっていない2人からすればそれしか取れる選択肢はないんですが…


だけど、彼らは無知ではなく、この森に入る危険さを経験則からか無意識に理解出来ている。


だから迷いが生まれている感じですかねぇ…


「大当たり…って感じで考えときましょうか。てかまぁ、止めはしませんが……まぁ、そこは既にわかってると思いますんで、改めておじさんみたいなのから言われるまでもありませんね…」


「……では一体何しにここに…?」


これまた当然の質問。


「様子見…ですかね」


隠す必要もないですし、答えましょうか。


「様子見?」


「……それが、貴方の考える案に繋がっていると?」


「まぁ、そんな感じですかね」


「具体的には?」


「…そもそも、この森に入って何を探すって言うんです?」


「「…」」


…まぁだんまりになりますよねぇ~…


「この暗い森…いや、暗黒みたいな空間に足を踏み入れて無事に目的を達成する…いやいや、それよりも無事で帰って来れるかも怪しいくらいですかねぇ~…」


「…」


おじさんの言い方の問題で、よく緊張感がないと言われがちなんです、伝わるか心配でしたが…


…2人の様子からして、言いたい事は伝わってるみたいなんで…このまま続けましょうか。


「無駄な行動…とは言いませんが……いくら実力があったとしても、自分以上の相手がいないとは言い切れず、さらには死んでしまう可能性が低いとも言い難い……なんせ、数多の国が満足に開拓出来ない場所の1つ…“光なき森”ですからねぇ」


「……回りくどい事は無しでお願いします」


「別に回りくどくしてるわけじゃ……いや、そう捉えられてもおかしくないかもですかね……とりあえず、要点だけまとめるなら安全かつ十分な言い訳にもなる“何もせず、帰る”が妥当じゃないかって話ですよ」


そう。


この森に連れてきたのは、中に入ってもらうためではないんですよ。


まぁ…


とんでもない場合だったら、おじさんは入るつもりでしたけどね?


そうじゃなけりゃ、おじさんだって入りたくないですし…


…んんっ、とりあえず連れてきた目的としては、口実作り。


なんせ、場所が場所ですから…


近づいて、中には踏み入れないと認識してもらい、調べようがない事を理解してもらうためだったってわけですよ。


…まぁその他にもあるんですがね。


とにかく、こう言った事は口や紙で伝えるだけじゃ伝わらないもんですから。


「……森に近づき、調べようとしましたが…中は名前の通り光はなく……もし、無理矢理にでも踏み込んだ場合のリスクを考慮すれば、ただの損失にしかならない……そう言いたいのですね」


「おっ、話が早くておじさん助かりますよ」


流石騎士団長様。


まとめるのがお上手っ。


「…確かに…お前の言う通り、このままでは探索などままならず、ただの犬死……そうならない可能性が無いわけではないが……可能性の方が高い……愚直な行動にしかならない…そういう事か?」


さらには納得するかのように、冷静に分析する副団長様。


「えぇ……ちなみに、この森にいる存在が外に出て来ないのは何故かご存知で?」


「…あぁ……何故出てこないか知っていると?」


「えぇ、知ってますね。ちなみに、正しく表現するなら出てこないんじゃなくて、“出る必要が無い”だけなんですよ」


と、おじさんが見つけた答えの1つを語り出します。


まぁ、そんな意外な発見というわけじゃありませんが…


「出る必要が無い…だと?」


「ここだけに限った話じゃありませんが……少なくともこの森の中で1つの生態系が成り立ってるんです。つまり、この森の中だけで1つの小さな世界が完結している」


特にこの森は、その部分に、特に顕著だって感じでしょうか。


「…」


「だから出る必要が無いんです……なんせ、食べ物から繁殖まで、この森の中で完結している。そんな空間があるなら、わざわざ自分達にあってない場所に出てくるとかないでしょ?」


「…まぁそれは……なら、この森は安全だと?」


「何をもって安全というかによりますがね……出る必要が無いとは言いましたが、出てこれないわけでは無いんですよねこれが…出てくる事があるとするなら…自分達の世界を脅かすナニカが発生した場合でしょうかねぇ」


「……確かに…」


人間も同様に、脅かされれば牙を剥く。


それはモンスターや動物も同じですよねぇ。


「…あぁ~ちなみにですがぁ~、今立ってるここ…本来ならデッドゾーン一歩手前なんですよ」


「「ッ!?」」


と、突然のおじさんのカミングアウトに一気に体を硬直させちゃう2人。


まぁ、無理もないですよね。


一歩進めば死が目の前にあるって遠回しに言ってるようなもんですし。


「……おっ…お前は私達をころ」


「あぁー…勘違いしないでくださいねっ?。あくまでここは一歩手前…もし、そういうつもりならデッドゾーンとか関係なく、森の中に突っ込みますよ…たぶん」


「…たぶんて…」


「いやだって…そんなつもりはありませんし?。まぁ、この一歩手前まで連れてくるのは目的でしたがね」


「……」


「副団長…諦めてください……アーノルドはこういう人ですので……」


「…この男は正気なのですか?」


酷くない?


「さぁ…それは私にも……ただ、これがいつも通りとだけはいえます」


「ねぇちょっと?。流石におじさんも傷つきますからね?」


おじさんのハートはガラス並みですよ?


「事実を述べてるにすぎません……それで?。この行為には一体どんな意味があったと?」


「んー……何と言いましょうか…本来なら、この森の怖い部分を実感してもらい、証拠にしてもらおうかと思ったんですが……」


「…?。貴方の思い通りにはならなかった…そう言いたいのですか?」


と、不思議そうに…


まぁ、その通りなんですが…


「……ちなみに、今は何か感じますか?」


「感じる?」


「えぇ…自分を死に追いやるような…そんな殺気とかですよ」


「……いえまったく…あるのは、この森を前にして感じる恐怖感だけです」


なるほどなるほど。


「…ですよねぇ……本来なら、この近さなら威嚇されてもおかしくないんですよねぇ…ここ」


「ッ…!?」


ようやく…まぁおじさんがぼやかしたのはありますが、言いたいことを理解してくれたご様子。


「なのに全くそんなそぶりがない…さて…これをどう判断しましょうか…」


これはおじさんもちょっと冷や汗が…


何たって、1つの世界のバランスが崩れている…


その事自体に目を逸らすつもりはありませんし。


「…単に威嚇するモノがいなくなった…だけではなくてか?」


副団長様の考え…


まぁ…その可能性はなきにしもあらずですが…


「…まぁ違うでしょうね……さっきも言ったように、この森は1つの生態系…1つの世界になってます。そのバランスが変わることなんて稀で、普通はあり得ませんね」


「…変わる事があるとしたら?」


「…既存のルーティンを崩してまで、対応しなければならないほどの何かがあった……そう考えるのが無難かと」


人間の歴史に当てはめるなら、革命とか戦争とか…


まぁ、それこそ取り上げれば無限にありますね。


「…それが、私達が調査しにきた理由と繋がっている…」


「断言は出来ませんが……可能性は高いでしょうね。……あっ、ちなみにですがデッドゾーンには絶対入らないでくださいね?」


「…あ…あぁ…だが、何故だ?。監視するモノがいないならば…今は別に注意する必要など」


「逆ですよ」


「…逆?」


「…確かに、一見そう見えますが…逆に言えば彼らは“敏感になっている”。いつもなら見逃す事も…見逃さない恐れはありますねぇ…」


デッドゾーンといえどまだアウトってわけじゃありません。


いやまぁデッドゾーンなんで、もう相手側の領域なんですが…


何もないならば見逃すこともあります…何もないならば…ですがね?


「……」


そう説明すれば、一歩下がる副団長様。


動きからして無意識にだろう。


大方、踏み込んだ場合どうなるか…イメージしてしまい、体が勝手に反応したってとこですかね。


騎士団長に関しては…心配なしか。


しっかりと足に芯が通ってるご様子で。


「……さっき、私は多少なりとも殺気を放ちました…それには反応しなかったように思いますが…」


「えぇ、その通りです。反応してませんでした…だから、こちらも気がつく事が出来たわけです」


「…アーノルド、貴方…私を利用しましたね?」


「…さぁ、何の事やら…」


おっと、これはやばいかねぇ?


マジでヤれかねませんよ…おじさん。


「…まぁ、いいでしょう……ちなみに、こういった事は良くある事なんですか?」


「…んー…滅多に起こりませんね」


「…滅多にという事は、過去に似た事が?」


「えぇ、だいたい聞いた内容とも合致するので同様の事かと」


「…つまり、最初から知っていた…と?」


「知っていた…は否定しますよ…ここまで来てようやく、過去の事例と似ていると確信した…ただそれだけです」


これはマジで本当。


だって、遠くから見たらただの森ですしね。


確証になる証拠がなかったから、可能性とまりだっただけの話です。


…まぁ、今でも物的な証拠はありませんが…


この状況がそうだと言わざるを得ないですねぇ。


「…」


「…まぁとりあえず、一旦ここから離れましょうや。飲みながらでも、状況の説明をしますんで」


「…飲みながら…?。仕事中ですが…?」


「お堅いこと言わずに…気分を変えて話すってのは大事な事ですよ」


「…しかし、お酒は…」


「飲まれないほど飲まなければいいんですよ…まぁ…ここから離れれば否応無しでも飲みたくなりますから」


「…?」


「ささっ、早く早く。なんなら、交流を深めるって意味も込めて騎士団皆さんをお呼びしても大丈夫ですから」


と2人の背中を押しながら、その場を後にしようと…


「…あっ、忘れるとこだった」


「…?」


おじさんは振り返ると…


「…あー皆、すまんがちょっとだけ採取させてくださいねぇ~」


と“誰かいるかわからない森”に向けて一声かけ、指先に魔力を集め魔法陣を描き…


ある小瓶に、魔法陣から取り出した目的の“光”を集めていく。


「…よし、こんなもんですかねぇ」


「…それは…?」


「ままっ、これも後々説明しますよっ。んじゃ、飲みに行きましょうや」


と、改めて2人の背を推すようにその場をさって行くおじさん達。











森の奥。


いざという場合に備え、ほとんどの気配を消していた“彼ら”からの視線を背中に浴びながら…





…ふぅ…危ない危ない…


まさに間一髪ってやつでしたね。
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