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決戦の舞踏会
02.つかの間の休息1
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「でも」
とフィリップ様が憂鬱な口調で声を上げた。
「このままでは、第三の選択肢を考えねばならないね」
私はフィリップ様に尋ねた。
「とおっしゃいますと?」
「父上は私が王都に戻っても、キャサリン妃と宰相を断罪しないかも知れない」
王が王妃を寵愛してるのは間違いないのだが、私が見る限り王とフィリップ様の関係はそう悪くはなかった。
王は自らの後継はフィリップ様であると明言している。
フィリップ様は王太子として最高の環境が整えられた。
期待の分だけ強いプレッシャーもあっただろうが、決して粗略には扱われていなかった。
ただ公け以外の目の届きにくいところで王妃から地味な嫌がらせはされてきたし、命の危険にも晒されていたが、それでもあの王妃と宰相がフィリップ様を殺せないくらいには彼は守られてきた。
フィリップ様の一歳半下の第二王子ロバート殿下は我が儘なガ……いや、溌剌としたやんちゃな御子様で、私の目から見れば王の器ではない。
別段王も王の器ではないので、『王の器とは何か?』と考えるとむなしくなるが、フィリップ様の方が全ての面において優れている。
王は第二王子を可愛がっているが、フィリップ様を押しのけてまで王にしたいと彼自身が望んでいるとは、私は思えない。
王宮の魔法騎士だったといえ近衛でもない一騎士なので、王は遠くからお見かけするだけだった。
不敬ではあるが率直に言うと私にとって王は「何考えてるのかよく分からない人」という印象のお方だ。
だが近衛から王は意外と評判が良く、彼らが「お優しい方だ」というのを聞いたことがある。
フィリップ様もこうおっしゃった。
「宰相は父上の幼い頃からの親友で、王妃は父上の初恋の人。父上はお優しい方だ。彼らの罪を暴けば、死罪は免れない。彼らの命を助けることは王とて出来ない。だから彼らを哀れまれて、事件そのものを闇に葬るおつもりかもしれない」
「いやでも、そんなことをしたらスロランもロママイも黙っちゃいませんよ」
とサーマスが言う。
「うん――。それでもね、自らの手で愛する者の命を奪うのは、怖いことだと思う。苦しいことだと思う」
フィリップ様はご自分の手を見つめる。
「だからそうなる前に父上は二人を止めなければいけなかった。それが出来なかったなら、王は裁かねばならない。それが王に与えられた使命だ。逃げてはいけない」
「…………」
アルヴィンはフィリップ様を面白そうに見つめている。
フィリップ様は決意を込めて言った。
「もし父がこの件を隠蔽するつもりなら、私は彼の退位を求める」
***
王都までの道中、私とアルヴィンは同室を宛がわれた。
これが十代なら規律正しく別室になるだろうが、我々はもう二十代も後半である。婚約の関係だが、すでに夫婦と見なされていた。
婚約して良かったなと思うことである。
忙しい私とものすごく忙しいアルヴィンが、二人だけで話せるという機会はこの寝る前のわずかな時間しかない。
「で、一体ダンジョンに何をしに行ったんです?」
私はダンジョン行きの理由を問い質した。
ずっと聞きたかったが、いろいろ忙しくて聞きそびれていたのだ。
「魔石をとってきた」
という答えだった。
「魔石、ですか?」
「リーディアの身を飾るものが欲しかったんだ。王都に行ったらせっかくだから君のドレスや宝飾品を作ろうと思っている」
純度の高い魔石は宝石のように美しい。アルヴィンは魔石を使った宝飾品を作らせるつもりらしい。
高価な贈り物を貰うことには引け目を感じるが、私はドレスのことは何も分からないし、辺境伯の婚約者としてみすぼらしい恰好は出来ない。
アルヴィンの気遣いは願ってもないものだった。
私は「それはどうもありがとうございます」とアルヴィンに礼を言った。
アルヴィンは私の返事に微笑んで、額にキスしてきた。
「そうか、喜んで貰えて良かった。実はもう仕立屋には依頼済みなんだ。王都に着いたらすぐに採寸して仕立ててくれる手筈になっている」
「アルヴィンは、楽しそうですね」
騎士団にいた頃、女性の付き添いで仕立屋に行く男性騎士達はよく「つまらない」とこぼしていた。
だから男性にとってドレスというのは退屈だと感じるものだと思い込んでいたが、アルヴィンは上機嫌だ。
「リーディアにずっと贈り物がしたかったのに、今まで機会がなかったからな」
「いや、誕生日のプレゼントはもらいましたよ、鍋」
結局焦げ付きにくくて丈夫な大きな鍋はアルヴィンが買ってくれたのだ。使いやすいので愛用している。
「鍋もいいが、もう少し恋人らしいプレゼントが贈りたかったんだ」
と言い返された。
話が終わると、アルヴィンは私の頬に手を添えて言った。
「リーディア、いいか?」
アルヴィンはそれまでとは違う艶っぽい声色で私を誘いかけてきた。
「ええ……」
私はこの声に恥じらいながら、頷いた。
アルヴィンと私はこのところ毎晩、「夜の営み」というやつをしている。
我々は王太子であるフィリップ様をお守りするという重要な使命があり、任務遂行のために自分を最善の状態に保たねばならない。
だから本来、セックスなんてしている場合ではないんだが、心身共に疲弊する毎日だ。
夜のセックスはそんな我々のちょっとしたお楽しみであった。
とはいえ、翌日に疲れを残すわけにはいかない。
我々は時間を三十分だけと決めてこれを行っている。
すぐにベッドに移動して、私達は行為を始めることにした。
何せ三十分である。少しの時間も無駄には出来ない。
0分。
ベッドサイドに置いた三十分の砂時計をひっくり返すことから、セックスが始まる。
「リーディア……」
アルヴィンは私を抱きしめて、名を呼び、キスをする。
唇に触れるだけのキスは次第に深くなる。何度も角度を変えてキスされ、舌に舌を絡ませ、歯列をなめる。
猫でも撫でるみたいな手つきも、掻き抱くような激しさになり、私の全身に触れてくる。
「アルヴィン……」
私達は抱き合いながら互いの服を脱がし合った。
服も行為をしやすいように脱ぎやすいナイトガウンにしている。初冬となりめっきり寒くなったので本当はもっと厚手の服をもこもこ着て寝たいが、我慢している。
ただ愛撫で体は熱くなってきている。そこまでの寒さは感じない。
私はチラリと砂時計に視線をやる。
――ここまで三分。
とフィリップ様が憂鬱な口調で声を上げた。
「このままでは、第三の選択肢を考えねばならないね」
私はフィリップ様に尋ねた。
「とおっしゃいますと?」
「父上は私が王都に戻っても、キャサリン妃と宰相を断罪しないかも知れない」
王が王妃を寵愛してるのは間違いないのだが、私が見る限り王とフィリップ様の関係はそう悪くはなかった。
王は自らの後継はフィリップ様であると明言している。
フィリップ様は王太子として最高の環境が整えられた。
期待の分だけ強いプレッシャーもあっただろうが、決して粗略には扱われていなかった。
ただ公け以外の目の届きにくいところで王妃から地味な嫌がらせはされてきたし、命の危険にも晒されていたが、それでもあの王妃と宰相がフィリップ様を殺せないくらいには彼は守られてきた。
フィリップ様の一歳半下の第二王子ロバート殿下は我が儘なガ……いや、溌剌としたやんちゃな御子様で、私の目から見れば王の器ではない。
別段王も王の器ではないので、『王の器とは何か?』と考えるとむなしくなるが、フィリップ様の方が全ての面において優れている。
王は第二王子を可愛がっているが、フィリップ様を押しのけてまで王にしたいと彼自身が望んでいるとは、私は思えない。
王宮の魔法騎士だったといえ近衛でもない一騎士なので、王は遠くからお見かけするだけだった。
不敬ではあるが率直に言うと私にとって王は「何考えてるのかよく分からない人」という印象のお方だ。
だが近衛から王は意外と評判が良く、彼らが「お優しい方だ」というのを聞いたことがある。
フィリップ様もこうおっしゃった。
「宰相は父上の幼い頃からの親友で、王妃は父上の初恋の人。父上はお優しい方だ。彼らの罪を暴けば、死罪は免れない。彼らの命を助けることは王とて出来ない。だから彼らを哀れまれて、事件そのものを闇に葬るおつもりかもしれない」
「いやでも、そんなことをしたらスロランもロママイも黙っちゃいませんよ」
とサーマスが言う。
「うん――。それでもね、自らの手で愛する者の命を奪うのは、怖いことだと思う。苦しいことだと思う」
フィリップ様はご自分の手を見つめる。
「だからそうなる前に父上は二人を止めなければいけなかった。それが出来なかったなら、王は裁かねばならない。それが王に与えられた使命だ。逃げてはいけない」
「…………」
アルヴィンはフィリップ様を面白そうに見つめている。
フィリップ様は決意を込めて言った。
「もし父がこの件を隠蔽するつもりなら、私は彼の退位を求める」
***
王都までの道中、私とアルヴィンは同室を宛がわれた。
これが十代なら規律正しく別室になるだろうが、我々はもう二十代も後半である。婚約の関係だが、すでに夫婦と見なされていた。
婚約して良かったなと思うことである。
忙しい私とものすごく忙しいアルヴィンが、二人だけで話せるという機会はこの寝る前のわずかな時間しかない。
「で、一体ダンジョンに何をしに行ったんです?」
私はダンジョン行きの理由を問い質した。
ずっと聞きたかったが、いろいろ忙しくて聞きそびれていたのだ。
「魔石をとってきた」
という答えだった。
「魔石、ですか?」
「リーディアの身を飾るものが欲しかったんだ。王都に行ったらせっかくだから君のドレスや宝飾品を作ろうと思っている」
純度の高い魔石は宝石のように美しい。アルヴィンは魔石を使った宝飾品を作らせるつもりらしい。
高価な贈り物を貰うことには引け目を感じるが、私はドレスのことは何も分からないし、辺境伯の婚約者としてみすぼらしい恰好は出来ない。
アルヴィンの気遣いは願ってもないものだった。
私は「それはどうもありがとうございます」とアルヴィンに礼を言った。
アルヴィンは私の返事に微笑んで、額にキスしてきた。
「そうか、喜んで貰えて良かった。実はもう仕立屋には依頼済みなんだ。王都に着いたらすぐに採寸して仕立ててくれる手筈になっている」
「アルヴィンは、楽しそうですね」
騎士団にいた頃、女性の付き添いで仕立屋に行く男性騎士達はよく「つまらない」とこぼしていた。
だから男性にとってドレスというのは退屈だと感じるものだと思い込んでいたが、アルヴィンは上機嫌だ。
「リーディアにずっと贈り物がしたかったのに、今まで機会がなかったからな」
「いや、誕生日のプレゼントはもらいましたよ、鍋」
結局焦げ付きにくくて丈夫な大きな鍋はアルヴィンが買ってくれたのだ。使いやすいので愛用している。
「鍋もいいが、もう少し恋人らしいプレゼントが贈りたかったんだ」
と言い返された。
話が終わると、アルヴィンは私の頬に手を添えて言った。
「リーディア、いいか?」
アルヴィンはそれまでとは違う艶っぽい声色で私を誘いかけてきた。
「ええ……」
私はこの声に恥じらいながら、頷いた。
アルヴィンと私はこのところ毎晩、「夜の営み」というやつをしている。
我々は王太子であるフィリップ様をお守りするという重要な使命があり、任務遂行のために自分を最善の状態に保たねばならない。
だから本来、セックスなんてしている場合ではないんだが、心身共に疲弊する毎日だ。
夜のセックスはそんな我々のちょっとしたお楽しみであった。
とはいえ、翌日に疲れを残すわけにはいかない。
我々は時間を三十分だけと決めてこれを行っている。
すぐにベッドに移動して、私達は行為を始めることにした。
何せ三十分である。少しの時間も無駄には出来ない。
0分。
ベッドサイドに置いた三十分の砂時計をひっくり返すことから、セックスが始まる。
「リーディア……」
アルヴィンは私を抱きしめて、名を呼び、キスをする。
唇に触れるだけのキスは次第に深くなる。何度も角度を変えてキスされ、舌に舌を絡ませ、歯列をなめる。
猫でも撫でるみたいな手つきも、掻き抱くような激しさになり、私の全身に触れてくる。
「アルヴィン……」
私達は抱き合いながら互いの服を脱がし合った。
服も行為をしやすいように脱ぎやすいナイトガウンにしている。初冬となりめっきり寒くなったので本当はもっと厚手の服をもこもこ着て寝たいが、我慢している。
ただ愛撫で体は熱くなってきている。そこまでの寒さは感じない。
私はチラリと砂時計に視線をやる。
――ここまで三分。
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