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戦いを終わらせる者
16.戦いの終わり2
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アルヴィンは私を敵から守る様に抜き身の剣をひっさげ、私の隣に立った。だが……。
「ぐっ……」
「アルヴィン!」
崩れ落ちるアルヴィンを私はあわてて抱きとめた。
アルヴィンが使ったのは、闇属性の強化魔法。
通常の数十倍の速さで動けるが、反動として、しばらくまったく身動きが出来なくなるというものだ。
アルヴィンは直後に行動不能に陥った。
彼が倒したのは十五名。
半数近いやからがまだ残っている。
騎士団に裏切り者がいるのは騎士団長も分かっていた。
特に副団長には強く警戒していたのだが、「怪しいから」という理由で彼を排除することは出来ない。
王太子殿下の警備はセントラルの騎士達が担当するため、副団長はメンバーに加えねばならなかった。
それでも残る騎士団員はなるべく信用出来る人間を選抜したのだが、直前に副団長に入れ替えられてしまったようだ。
残りの連中も暗殺計画の共犯者だ。
「早くやっちまおう」
焦る彼らは抜刀し我々を取り囲む。もう悠長に隣国の仕業に見せかける余裕はないらしい。
「……だ」
アルヴィンが何か呟いたが、かすれた小声でうまく聞き取れない。
「アルヴィン?」
「大丈夫だ、リーディア。すぐ、に……皆が……来る……」
「皆?」
「ぶもー」と猛る雄牛の鳴き声。
「ウル?」
ウルとケーラが、もう成長して結構デカイ仔牛が。ノームやブラウニーが、森や畑で時々見かける変な生き物達と共にこっちに走ってくる。
「パパラー」と空に高らかとラッパの音が鳴り響いた。
別の方角から五百近い騎兵が駆けてくる。
掲げられた旗は。
「ロママイ!」
「おーい、フィリップ!無事か?」
「リオ従兄上!?」
フィリップ様の従兄でもあるロママイ国王太子の一行だった。
「王子様ー!リーディア様ー!伯爵様ー!」
そして南部軍と西部軍が、異変に気付いて大慌てでやってくる。
***
副団長達は駆けつけた者達によって捕縛された。
スロラン国の辺境伯は熱心な戦争推進派で、副団長は南部の一部地域の支配権を渡す代わりに王太子殺しを持ちかけたらしい。
スロランの王太子は戦争反対派。
かれらも自国の王太子が邪魔だったのだ。
キラーニーの従兄弟は、やはり王妃派に懐柔されていたらしい。
キラーニーを殺して自分が辺境伯に成り代わるつもりだったようだ。
アルヴィンはこの動きを察知し、布石を打つためにロママイに向かった。
ロママイは自国の王家の血を引くフィリップ様に王位を継いで貰いたい。それにロママイとスロランはかつてエヴァンジェリスティ王女と当時王子だったスロラン王の結婚が破談になってから、疎遠な関係が続いていた。
講和条約締結に駆けつければ、三国の融和に繋がるとアルヴィンはロママイを引っ張り出した。
フィリップ様がロママイ側に書状を書き、それをアルヴィンが名代として届けたのである。
アルヴィンの画策では大臣一人ぐらい連れてこられれば御の字程度だったようだが、同行をして来たのは、ロママイの王太子だった。
「おかげで間に合わなくなりそうだった」
とアルヴィンはため息をつく。
「大事な従弟の一大事だ。私が行かないとね」
どこかフィリップ様に似た顔でリオ王太子は笑った。
リオ王太子はフィリップ様の八つ年上。フィリップ様は彼を兄と慕っている。
隣国の王太子が証人なのだ。さすがの王妃もうやむやには出来ない。
「スロランの王太子殿下もご無事で良かった」
と年長であるリオ王太子はスロランの王太子をねぎらう。
「ありがとうございます」
「ここで会えたのも神のお導きだろう。三国には様々な出来事があったが、次代の我々は互いに手を取り合い、融和を目指そう」
「ええ」
「共に平和を」
三人の王太子は固く、誓い合った。
ちなみにスロランの王太子と最も近しい国は、この二国ではない。アルヴィンの支配するゴーランと国境を接する西の国である。西の国はスロランの王太子に対し、彼を自国に留学させるなど早くから友好関係を築いている。
アルヴィンはこの西の国経由でスロランの王太子の情報を得ていた。
つくづく抜け目ない男である。
そして抜け目ないことはもう一つ。
「アルヴィン、ありがとうございます。念のために持たせて貰った例のアレ、役に立ちました」
私はこっそりアルヴィンに礼を言う。
「それは良かった」
「ですが、すっかり色を失い、崩れてしまいました」
「それは仕方ない。あれは役目を果たしたんだ」
私がアルヴィンから「念のために」と渡されたのは、光属性の魔石だ。
私は王太子暗殺未遂事件で、魔力を貯めておく体内の貯蔵庫のような場所を損傷した。
私は魔力を貯めておくことが出来なくなり、結果として大魔法の行使が出来なくなった。
魔石は魔力を補うものである。
私は、アルヴィンから持たされた魔石を使い、あの光弾を放ったのだ。
魔石は非常に高価なので、実に勿体ない使い方だが、命には代えがたい。
あの時駆けつけた者達は、妖精や精霊の姿を見た。
「大勢の精霊をリーディア様が召喚して、逆賊を退治したらしい」
「さすが国一番の魔法騎士様だ」
まったくもって事実無根だが、まことしやかにそう囁かれるようになった。
レファの変化した姿も多くの人に見られた。
だがこの南部は鹿が神の使いとされている。
レファは「神使様だ。南部に神使様が現れた」と拝まれるくらいありがたがられた。
ライカンスロープ、獣化の魔法使いの血統が生き残っていたことは驚きと喜びで迎えられた。
勇気の具現。
魔法使いにとって、ライカンスロープは一つのあるべき理想の姿なのだ。
その力でレファはキラーニーを助けた。
南部の人々は、レファを「南部の恩人」と褒め称えた。
「ぐっ……」
「アルヴィン!」
崩れ落ちるアルヴィンを私はあわてて抱きとめた。
アルヴィンが使ったのは、闇属性の強化魔法。
通常の数十倍の速さで動けるが、反動として、しばらくまったく身動きが出来なくなるというものだ。
アルヴィンは直後に行動不能に陥った。
彼が倒したのは十五名。
半数近いやからがまだ残っている。
騎士団に裏切り者がいるのは騎士団長も分かっていた。
特に副団長には強く警戒していたのだが、「怪しいから」という理由で彼を排除することは出来ない。
王太子殿下の警備はセントラルの騎士達が担当するため、副団長はメンバーに加えねばならなかった。
それでも残る騎士団員はなるべく信用出来る人間を選抜したのだが、直前に副団長に入れ替えられてしまったようだ。
残りの連中も暗殺計画の共犯者だ。
「早くやっちまおう」
焦る彼らは抜刀し我々を取り囲む。もう悠長に隣国の仕業に見せかける余裕はないらしい。
「……だ」
アルヴィンが何か呟いたが、かすれた小声でうまく聞き取れない。
「アルヴィン?」
「大丈夫だ、リーディア。すぐ、に……皆が……来る……」
「皆?」
「ぶもー」と猛る雄牛の鳴き声。
「ウル?」
ウルとケーラが、もう成長して結構デカイ仔牛が。ノームやブラウニーが、森や畑で時々見かける変な生き物達と共にこっちに走ってくる。
「パパラー」と空に高らかとラッパの音が鳴り響いた。
別の方角から五百近い騎兵が駆けてくる。
掲げられた旗は。
「ロママイ!」
「おーい、フィリップ!無事か?」
「リオ従兄上!?」
フィリップ様の従兄でもあるロママイ国王太子の一行だった。
「王子様ー!リーディア様ー!伯爵様ー!」
そして南部軍と西部軍が、異変に気付いて大慌てでやってくる。
***
副団長達は駆けつけた者達によって捕縛された。
スロラン国の辺境伯は熱心な戦争推進派で、副団長は南部の一部地域の支配権を渡す代わりに王太子殺しを持ちかけたらしい。
スロランの王太子は戦争反対派。
かれらも自国の王太子が邪魔だったのだ。
キラーニーの従兄弟は、やはり王妃派に懐柔されていたらしい。
キラーニーを殺して自分が辺境伯に成り代わるつもりだったようだ。
アルヴィンはこの動きを察知し、布石を打つためにロママイに向かった。
ロママイは自国の王家の血を引くフィリップ様に王位を継いで貰いたい。それにロママイとスロランはかつてエヴァンジェリスティ王女と当時王子だったスロラン王の結婚が破談になってから、疎遠な関係が続いていた。
講和条約締結に駆けつければ、三国の融和に繋がるとアルヴィンはロママイを引っ張り出した。
フィリップ様がロママイ側に書状を書き、それをアルヴィンが名代として届けたのである。
アルヴィンの画策では大臣一人ぐらい連れてこられれば御の字程度だったようだが、同行をして来たのは、ロママイの王太子だった。
「おかげで間に合わなくなりそうだった」
とアルヴィンはため息をつく。
「大事な従弟の一大事だ。私が行かないとね」
どこかフィリップ様に似た顔でリオ王太子は笑った。
リオ王太子はフィリップ様の八つ年上。フィリップ様は彼を兄と慕っている。
隣国の王太子が証人なのだ。さすがの王妃もうやむやには出来ない。
「スロランの王太子殿下もご無事で良かった」
と年長であるリオ王太子はスロランの王太子をねぎらう。
「ありがとうございます」
「ここで会えたのも神のお導きだろう。三国には様々な出来事があったが、次代の我々は互いに手を取り合い、融和を目指そう」
「ええ」
「共に平和を」
三人の王太子は固く、誓い合った。
ちなみにスロランの王太子と最も近しい国は、この二国ではない。アルヴィンの支配するゴーランと国境を接する西の国である。西の国はスロランの王太子に対し、彼を自国に留学させるなど早くから友好関係を築いている。
アルヴィンはこの西の国経由でスロランの王太子の情報を得ていた。
つくづく抜け目ない男である。
そして抜け目ないことはもう一つ。
「アルヴィン、ありがとうございます。念のために持たせて貰った例のアレ、役に立ちました」
私はこっそりアルヴィンに礼を言う。
「それは良かった」
「ですが、すっかり色を失い、崩れてしまいました」
「それは仕方ない。あれは役目を果たしたんだ」
私がアルヴィンから「念のために」と渡されたのは、光属性の魔石だ。
私は王太子暗殺未遂事件で、魔力を貯めておく体内の貯蔵庫のような場所を損傷した。
私は魔力を貯めておくことが出来なくなり、結果として大魔法の行使が出来なくなった。
魔石は魔力を補うものである。
私は、アルヴィンから持たされた魔石を使い、あの光弾を放ったのだ。
魔石は非常に高価なので、実に勿体ない使い方だが、命には代えがたい。
あの時駆けつけた者達は、妖精や精霊の姿を見た。
「大勢の精霊をリーディア様が召喚して、逆賊を退治したらしい」
「さすが国一番の魔法騎士様だ」
まったくもって事実無根だが、まことしやかにそう囁かれるようになった。
レファの変化した姿も多くの人に見られた。
だがこの南部は鹿が神の使いとされている。
レファは「神使様だ。南部に神使様が現れた」と拝まれるくらいありがたがられた。
ライカンスロープ、獣化の魔法使いの血統が生き残っていたことは驚きと喜びで迎えられた。
勇気の具現。
魔法使いにとって、ライカンスロープは一つのあるべき理想の姿なのだ。
その力でレファはキラーニーを助けた。
南部の人々は、レファを「南部の恩人」と褒め称えた。
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