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戦いを終わらせる者
09.栗のスープとじゃがいものパンケーキ
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「…………」
その後、サーマスは何事か考え込んでいる様子だった。
私はやることが山ほどあるので、部屋を出る。
「リーディア、一緒に行っていいかな」
とフィリップ様が付いてきた。
「構いませんが、畑仕事ですよ」
「えっ、畑仕事?リーディアが?やるの?」
かなり驚かれてしまった。
フィリップ様を野良仕事用のチェニックとズボンに着替えさせ、畑に行く。
「リーディアさん、どうしたの?」
とノアがやってくる。
「実は色々あって、少し宿屋を休業することになったんだ」
「えっ!」
「急ですまないね。今日の昼から宿屋は休みだ。いつ戻ってこれるか分からないから、全部収穫してしまおうと思ってね」
「僕も手伝うよ」
「ありがとう、ヨアヒム、この子はノア、私の弟子なんだ。ノア、この子はヨアヒムだ。あー」
何て説明すれば良いんだろう。
「……私が王都に居た頃の上司の息子さんだ」
うん、嘘は言ってない。
「初めまして、ヨアヒムだ」
「ノアと言います。初めまして」
二人は挨拶を交わし、最初はかなりぎこちなかったが、農作業をしているうちに次第に打ち解けたようで、二人で助け合いながらどんどん収穫していく。
「ヨアヒム君はそっち持って」
「うん、分かった。ノア」
「じゃあ先に戻っているよ、後は頼んだよ、ノア、ヨアヒム」
「はーい、任せて、リーディアさん」
私は一足先に収穫した野菜を持ってキッチンに行く。
そのまま保管出来るものは貯蔵庫に、調理が必要なものは綺麗に洗ってオイルや塩に漬ける。
それと平行して昼食の準備にかかる。
屋外の見回りから戻ったレファが声を掛けてきた。
「手伝います、リーディアさん」
「じゃあ、レファは栗を剥いてくれ」
あらかじめ水につけておいて柔らかくした栗の皮むきを頼んだ。
調理は絶対任せられないが、レファは栗の皮むきが上手い。
昼食は栗のポタージュスープ。それにじゃがいものパンケーキに、収穫したばかりのラデッシュとルッコラと生ハムのサラダ。
薄切りにした玉葱をコクが出るように多めのバターを入れて炒め、そこにむいた栗を入れてまた少し炒める。後は水とチキンのブイヨン、ローリエを入れて二十分ほど煮込む。
その間にすりおろしたじゃがいもを布巾で搾り、搾った汁は捨てずに少し置く。上澄みだけを静かに捨てると底に澱粉が残る。
布巾の中のじゃがいもとみじん切りした玉葱、卵に塩胡椒を澱粉と混ぜ合わせるとタネの用意が出来上がる。
さて焼こうかという時にノアとフィリップ様が戻ってきた。
「リーディアさん、何してるの?」
「じゃがいものパンケーキを焼くんだよ」
「うわぁ、僕あれ好きなんだ。手伝うよ、やらせて」
「じゃあ頼むよ」
フィリップ様が驚いた様子で、私とノアを見た。
「えっ、リーディア、彼はまだ小さいだろう」
「九歳です」
「なのに、火を使わせるのか?」
私に代わってノアが答えた。
「うん、まだ小さいから火を使って良いのは、リーディアさんが側に居る時だけなんだ」
「ヨアヒムもやってみるかい?」
声を掛けるとフィリップ様は驚愕した様子で目を見開く。
「えっ、わっ、私が?」
「無理にとは言わないが……」
「ううん、やってみたいけど、良いのか?」
サーマス達はフィリップ様に料理なんぞはやらせないらしい。
「ノアが教えてくれますよ」
「リーディアさん、任せて。ヨアヒム君、まずフライパンを火にかけて……」
「うっ、うん」
二人でおっかなびっくりパンケーキを焼き始めた。
「おい、パンケーキを作るのか?手伝わせろ」
私、ノア、レファと、彼らが警戒しない面子が揃っていたせいだろう。キッチンにブラウニーが姿を現した。
「では余っている牛乳でチーズを作ってくれないか?報酬はパンケーキ一切れ」
「よし、分かった」
そのまま消えると思ったが、ブラウニーはフィリップ様を見上げ、とことこと彼の元に駆けていく。
フィリップ様は王家の直系。強い魔力を持っている。彼はブラウニーを見て、絶句した。
「えっ」
ブラウニーは帽子を取ると、フィリップ様に向かってお辞儀する。
「初めまして、王子殿下。お目にかかれて光栄です」
「えっ、王子様?」
ノアはあんぐり口を開けた後、あわてて、フィリップ様に向かってお辞儀する。
「えっと、すみません。僕、何も知らなくて……どっ、どうかご無礼をお許し下さい」
フィリップ様は苦笑した。
「そんなかしこまらないでくれ。今の私はただのヨアヒムだ。それよりパンケーキが焦げてしまうよ。どうすればいい?」
「あっ、本当だ。すぐにひっくり返して、ヨアヒム君。……そう呼んでいいの?」
ノアの問いにフィリップ様は笑顔で頷いた。
「もちろんだ」
フィリップ様は十五歳で、ノアは九歳。
歳も離れているし、身分はまったく違うが、気が合うらしい。
レファは昨日の騒ぎからずっと付き合っているが、まだ詳しいことは説明していない。
フィリップ様が王子と聞いても、
「王子様でしたかー」
とあまり気にしていない様子だった。
気を取り直して料理の続きをしよう。
煮えた栗を裏ごししてピューレ状にする。そこに生クリーム、すりおろしたナツメグをほんの少し加え、塩胡椒で味を調える。一煮立ちしたら栗のポタージュスープの出来上がりだ。
昼時になり休業を知らずやってきたお客は、申し訳ないが断ることにした。代わりに軽食に出来るようサンドイッチと作りたてで暖かいじゃがいものパンケーキを渡す。
昼食は無人の食堂で取った。サーマスも呼び、一同揃って食事をする。
もちろんキャシーもミレイも一緒だ。
「えっ、このパンケーキ、フィ……ヨアヒム様が作ったんですか?」
とサーマスが本気で驚いている。
「そうだよ。まだ一人では作れないし、ノアが焼いたのよりは形も悪いけど」
「初めてにしてはヨアヒム君は上手だったよ」
そう褒めるノアを、サーマスはたしなめるように言った。
「君、失礼な口を聞くな。この方は……」
余計なことを言い出したサーマスを止める。
「口を慎め、サーマス。彼はヨアヒムだ」
「リーディア、でも……」
「でもじゃない。ヨアヒムが彼を友達と認めているんだ」
フィリップ様がサーマスに呼びかける。
「エミール、ノアは幼いがリーディアの弟子だそうだよ」
「リーディアの弟子?」
「私もリーディアの弟子になりたい。叶えば彼は兄弟子だろう?」
フィリップ様はそう言って笑った。
「まあそうかも知れませんが……」
サーマスが丸め込まれそうになっている。
「おい、変なところで納得するな。ヨアヒムには然るべき魔法の師がいるでしょう」
フィリップ様はこの国の魔法研究所の所長から魔法を習っている。
「魔法研究所の所長は自分よりリーディアの方がずっと魔法の力に優れていると言っていたよ。リーディアは魔素の本質、森羅万象に触れることが出来る者だと。それは魔力を失っても何ら変わりなく、リーディアは世界そのものと繋がっているって」
「すごいや、リーディアさん」
ノアが目をキラキラさせて歓声を上げ、私は過分な褒め言葉に恥ずかしくなる。
「この食堂はとても居心地が良いね。何というか、暖かみがある」
フィリップ様がほどよいタイミングで話題を変えてくれて助かった。
「テーブルクロスやランチョンマットに花の刺繍が刺してあるんだね。素朴だけどとても丁寧な刺繍だ」
「ヨアヒム、これはキャシーさんが刺したんだ」
「そうなのか?素晴らしい」
「お母さんは売れっ子の刺繍職人なの」
とミレイが得意気に教える。
「ふふふ、ありがとう。でも私の刺繍が売れるのは、この家のお陰よ。お店の雰囲気を気に入った人が買っていってくれるんです」
「なるほど……」
デザートはカラミンサやスクテラリアといった秋のハーブを乾燥しておいたものをブレンドしたハーブティーと、林檎のコンポート。
和やかに食事を終え、使い終わった食器を持ってキッチンに戻る。
ノアやフィリップ様、レファに何故かサーマスもキッチンについてきた。いや、サーマスはフィリップ様の護衛だから側に居なければならないか。
「リーディアさん」
呼びかけられて振り返った先には、意外な者の姿があった。
森の妖精ノームである。彼らは森に住んでいて、ここには滅多なことでは来ない。
「えっ、また別の妖精がきた?」
「あのちっちゃい奴、妖精か?」
フィリップ様とサーマスが慌てふためいている。
サーマスは高位貴族の出身で魔力が強い。少し抜けているところはあるが、優秀な魔法騎士だ。
実家はあの聖女リーディアの末裔らしい。
私はノームに声を掛けた。
「どうしたんだね、ここに来るなんて珍しい」
「王子様がいらっしゃっているとブラウニーから聞きましたので、参りました」
そしてノームは小さな袋から赤い実を取り出して、私に差し出した。
「王子様にお渡ししたいものを持ってきました。体から悪いものを取り除く、毒消しの実です」
「そんなものがあるのか。ありがとう」
私はノームから小さな赤い実を受け取った。
「リーディア、私にも見せてくれ」
フィリップ様に見せると、フィリップ様は「ありがとう、ノーム」とノームに礼を言い、興味津々で、「妖精のくれた実か、食べてみたいな」と言い出した。
「いけません。毒味がすんでからです」
アルヴィンに鑑定してもらい、その後なら食べてもいいが、今は駄目だ。
「あのー、リーディアさん」
とレファは会話に入ってくる。
「私は毒か否かは匂いで分かります。それは毒ではないです。よろしければ私が毒味しましょう」
「いいのか?」
「いいですよ。これは森の奥で時々見つかる実です。野生動物がうっかり毒を食べてしまった時は、この実を食べて治すんです。ノーム、一つくれ」
レファはノームに言った。
「いいですよ。ライカンスロープさん」
レファはパクッと実を食べて顔をしかめる。
「大丈夫か?」
「酸っぱくて美味しくないです」
「私も食べてみる」
とフィリップ様は毒消しの実を食べた。
その瞬間、彼は「うっ」と胸を押さえて倒れた。
その後、サーマスは何事か考え込んでいる様子だった。
私はやることが山ほどあるので、部屋を出る。
「リーディア、一緒に行っていいかな」
とフィリップ様が付いてきた。
「構いませんが、畑仕事ですよ」
「えっ、畑仕事?リーディアが?やるの?」
かなり驚かれてしまった。
フィリップ様を野良仕事用のチェニックとズボンに着替えさせ、畑に行く。
「リーディアさん、どうしたの?」
とノアがやってくる。
「実は色々あって、少し宿屋を休業することになったんだ」
「えっ!」
「急ですまないね。今日の昼から宿屋は休みだ。いつ戻ってこれるか分からないから、全部収穫してしまおうと思ってね」
「僕も手伝うよ」
「ありがとう、ヨアヒム、この子はノア、私の弟子なんだ。ノア、この子はヨアヒムだ。あー」
何て説明すれば良いんだろう。
「……私が王都に居た頃の上司の息子さんだ」
うん、嘘は言ってない。
「初めまして、ヨアヒムだ」
「ノアと言います。初めまして」
二人は挨拶を交わし、最初はかなりぎこちなかったが、農作業をしているうちに次第に打ち解けたようで、二人で助け合いながらどんどん収穫していく。
「ヨアヒム君はそっち持って」
「うん、分かった。ノア」
「じゃあ先に戻っているよ、後は頼んだよ、ノア、ヨアヒム」
「はーい、任せて、リーディアさん」
私は一足先に収穫した野菜を持ってキッチンに行く。
そのまま保管出来るものは貯蔵庫に、調理が必要なものは綺麗に洗ってオイルや塩に漬ける。
それと平行して昼食の準備にかかる。
屋外の見回りから戻ったレファが声を掛けてきた。
「手伝います、リーディアさん」
「じゃあ、レファは栗を剥いてくれ」
あらかじめ水につけておいて柔らかくした栗の皮むきを頼んだ。
調理は絶対任せられないが、レファは栗の皮むきが上手い。
昼食は栗のポタージュスープ。それにじゃがいものパンケーキに、収穫したばかりのラデッシュとルッコラと生ハムのサラダ。
薄切りにした玉葱をコクが出るように多めのバターを入れて炒め、そこにむいた栗を入れてまた少し炒める。後は水とチキンのブイヨン、ローリエを入れて二十分ほど煮込む。
その間にすりおろしたじゃがいもを布巾で搾り、搾った汁は捨てずに少し置く。上澄みだけを静かに捨てると底に澱粉が残る。
布巾の中のじゃがいもとみじん切りした玉葱、卵に塩胡椒を澱粉と混ぜ合わせるとタネの用意が出来上がる。
さて焼こうかという時にノアとフィリップ様が戻ってきた。
「リーディアさん、何してるの?」
「じゃがいものパンケーキを焼くんだよ」
「うわぁ、僕あれ好きなんだ。手伝うよ、やらせて」
「じゃあ頼むよ」
フィリップ様が驚いた様子で、私とノアを見た。
「えっ、リーディア、彼はまだ小さいだろう」
「九歳です」
「なのに、火を使わせるのか?」
私に代わってノアが答えた。
「うん、まだ小さいから火を使って良いのは、リーディアさんが側に居る時だけなんだ」
「ヨアヒムもやってみるかい?」
声を掛けるとフィリップ様は驚愕した様子で目を見開く。
「えっ、わっ、私が?」
「無理にとは言わないが……」
「ううん、やってみたいけど、良いのか?」
サーマス達はフィリップ様に料理なんぞはやらせないらしい。
「ノアが教えてくれますよ」
「リーディアさん、任せて。ヨアヒム君、まずフライパンを火にかけて……」
「うっ、うん」
二人でおっかなびっくりパンケーキを焼き始めた。
「おい、パンケーキを作るのか?手伝わせろ」
私、ノア、レファと、彼らが警戒しない面子が揃っていたせいだろう。キッチンにブラウニーが姿を現した。
「では余っている牛乳でチーズを作ってくれないか?報酬はパンケーキ一切れ」
「よし、分かった」
そのまま消えると思ったが、ブラウニーはフィリップ様を見上げ、とことこと彼の元に駆けていく。
フィリップ様は王家の直系。強い魔力を持っている。彼はブラウニーを見て、絶句した。
「えっ」
ブラウニーは帽子を取ると、フィリップ様に向かってお辞儀する。
「初めまして、王子殿下。お目にかかれて光栄です」
「えっ、王子様?」
ノアはあんぐり口を開けた後、あわてて、フィリップ様に向かってお辞儀する。
「えっと、すみません。僕、何も知らなくて……どっ、どうかご無礼をお許し下さい」
フィリップ様は苦笑した。
「そんなかしこまらないでくれ。今の私はただのヨアヒムだ。それよりパンケーキが焦げてしまうよ。どうすればいい?」
「あっ、本当だ。すぐにひっくり返して、ヨアヒム君。……そう呼んでいいの?」
ノアの問いにフィリップ様は笑顔で頷いた。
「もちろんだ」
フィリップ様は十五歳で、ノアは九歳。
歳も離れているし、身分はまったく違うが、気が合うらしい。
レファは昨日の騒ぎからずっと付き合っているが、まだ詳しいことは説明していない。
フィリップ様が王子と聞いても、
「王子様でしたかー」
とあまり気にしていない様子だった。
気を取り直して料理の続きをしよう。
煮えた栗を裏ごししてピューレ状にする。そこに生クリーム、すりおろしたナツメグをほんの少し加え、塩胡椒で味を調える。一煮立ちしたら栗のポタージュスープの出来上がりだ。
昼時になり休業を知らずやってきたお客は、申し訳ないが断ることにした。代わりに軽食に出来るようサンドイッチと作りたてで暖かいじゃがいものパンケーキを渡す。
昼食は無人の食堂で取った。サーマスも呼び、一同揃って食事をする。
もちろんキャシーもミレイも一緒だ。
「えっ、このパンケーキ、フィ……ヨアヒム様が作ったんですか?」
とサーマスが本気で驚いている。
「そうだよ。まだ一人では作れないし、ノアが焼いたのよりは形も悪いけど」
「初めてにしてはヨアヒム君は上手だったよ」
そう褒めるノアを、サーマスはたしなめるように言った。
「君、失礼な口を聞くな。この方は……」
余計なことを言い出したサーマスを止める。
「口を慎め、サーマス。彼はヨアヒムだ」
「リーディア、でも……」
「でもじゃない。ヨアヒムが彼を友達と認めているんだ」
フィリップ様がサーマスに呼びかける。
「エミール、ノアは幼いがリーディアの弟子だそうだよ」
「リーディアの弟子?」
「私もリーディアの弟子になりたい。叶えば彼は兄弟子だろう?」
フィリップ様はそう言って笑った。
「まあそうかも知れませんが……」
サーマスが丸め込まれそうになっている。
「おい、変なところで納得するな。ヨアヒムには然るべき魔法の師がいるでしょう」
フィリップ様はこの国の魔法研究所の所長から魔法を習っている。
「魔法研究所の所長は自分よりリーディアの方がずっと魔法の力に優れていると言っていたよ。リーディアは魔素の本質、森羅万象に触れることが出来る者だと。それは魔力を失っても何ら変わりなく、リーディアは世界そのものと繋がっているって」
「すごいや、リーディアさん」
ノアが目をキラキラさせて歓声を上げ、私は過分な褒め言葉に恥ずかしくなる。
「この食堂はとても居心地が良いね。何というか、暖かみがある」
フィリップ様がほどよいタイミングで話題を変えてくれて助かった。
「テーブルクロスやランチョンマットに花の刺繍が刺してあるんだね。素朴だけどとても丁寧な刺繍だ」
「ヨアヒム、これはキャシーさんが刺したんだ」
「そうなのか?素晴らしい」
「お母さんは売れっ子の刺繍職人なの」
とミレイが得意気に教える。
「ふふふ、ありがとう。でも私の刺繍が売れるのは、この家のお陰よ。お店の雰囲気を気に入った人が買っていってくれるんです」
「なるほど……」
デザートはカラミンサやスクテラリアといった秋のハーブを乾燥しておいたものをブレンドしたハーブティーと、林檎のコンポート。
和やかに食事を終え、使い終わった食器を持ってキッチンに戻る。
ノアやフィリップ様、レファに何故かサーマスもキッチンについてきた。いや、サーマスはフィリップ様の護衛だから側に居なければならないか。
「リーディアさん」
呼びかけられて振り返った先には、意外な者の姿があった。
森の妖精ノームである。彼らは森に住んでいて、ここには滅多なことでは来ない。
「えっ、また別の妖精がきた?」
「あのちっちゃい奴、妖精か?」
フィリップ様とサーマスが慌てふためいている。
サーマスは高位貴族の出身で魔力が強い。少し抜けているところはあるが、優秀な魔法騎士だ。
実家はあの聖女リーディアの末裔らしい。
私はノームに声を掛けた。
「どうしたんだね、ここに来るなんて珍しい」
「王子様がいらっしゃっているとブラウニーから聞きましたので、参りました」
そしてノームは小さな袋から赤い実を取り出して、私に差し出した。
「王子様にお渡ししたいものを持ってきました。体から悪いものを取り除く、毒消しの実です」
「そんなものがあるのか。ありがとう」
私はノームから小さな赤い実を受け取った。
「リーディア、私にも見せてくれ」
フィリップ様に見せると、フィリップ様は「ありがとう、ノーム」とノームに礼を言い、興味津々で、「妖精のくれた実か、食べてみたいな」と言い出した。
「いけません。毒味がすんでからです」
アルヴィンに鑑定してもらい、その後なら食べてもいいが、今は駄目だ。
「あのー、リーディアさん」
とレファは会話に入ってくる。
「私は毒か否かは匂いで分かります。それは毒ではないです。よろしければ私が毒味しましょう」
「いいのか?」
「いいですよ。これは森の奥で時々見つかる実です。野生動物がうっかり毒を食べてしまった時は、この実を食べて治すんです。ノーム、一つくれ」
レファはノームに言った。
「いいですよ。ライカンスロープさん」
レファはパクッと実を食べて顔をしかめる。
「大丈夫か?」
「酸っぱくて美味しくないです」
「私も食べてみる」
とフィリップ様は毒消しの実を食べた。
その瞬間、彼は「うっ」と胸を押さえて倒れた。
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