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戦いを終わらせる者
06.アルヴィン5
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アルヴィンはリーディアの心の準備が出来るまで待つつもりだった。
だが告白したその夜に、リーディアはアルヴィンの部屋を訪ねてきた。
「その方が良いかと思って」
照れながらも真っ直ぐにアルヴィンを見つめるリーディアを可愛らしいと思った。
「ではお相手をつとめさせて頂く」
アルヴィンとリーディアは初めての夜を過ごした。
リーディアは緊張していた。アルヴィンは出来るだけ優しくしたいと思った。
決して粗末に扱うことはしないが、さりとて濃厚な前戯も怯えきったリーディアを怖がらすだけだろう。
リーディアの不安をほぐすことだけにアルヴィンは注力した。
「大丈夫だ。何も考えなくていい」
アルヴィンの囁きに、リーディアは硬い表情で頷く。
今までで一番緊張したセックスが終わり、アルヴィンは息をつく。
眠そうなリーディアを抱き締め、「少し寝るといい」と声を掛けるとリーディアはすぐに目を閉じ、眠りに落ちていく。
リーディアの体は想像より小さかった。
女性にしては背が高く、存在感があるので背丈以上に大きく見える。
だが、腕の中の彼女は小さいと感じた。
リーディアの一人で何でも出来るところが好きだが、同時に強く守ってやりたいと思った。
何故か泣きたくなるような切なさと喜びで、アルヴィンは胸がいっぱいになる。リーディアを抱き締めて、彼は懸命に涙を堪えた。
***
「何しに来たんですか?」
一週間後にアルヴィンがリーディアを訪ねると様子が変わっていた。
ついにアルヴィンの正体がばれたらしい。
リーディアはフースの町の役場に出入りしていた。あそこには領主の肖像画も飾ってある。
十分予測出来ていたことだったので驚きはないが、思った以上にリーディアはよそよそしいというか、面倒くさいと言わんばかりの態度だった。
媚びへつらわれるよりは大分良く、何よりリーディアらしい。
色々話したが、基本的にリーディアの態度は変わらない。
しつこく「然るべき貴族のご令嬢」とやらとの結婚を勧められたが断ると、リーディアはしぶしぶ恋人関係を続けることに同意した。
その日の夜も二人は同衾した。
アルヴィンはリーディアを愛しているが、リーディアから愛して貰おうとは思わない。
愛して貰えたらいいが、愛されることは彼の中で必須ではない。
アルヴィンはデニスに言わせると、合理的を通り越して実利主義な人間らしい。
何事もこちら側の有利になるように整えないと、自分だけではなく大勢の人間が不利益を被ることになるのだから当たり前だと思う。
だがリーディアに何か見返りを求めたいとは思わない。
ただ、彼女を愛している。
それはアルヴィンの中で初めて芽生えた感情だった。
まだ彼がほんの小さな子供だった頃はあったのかも知れないが、十五歳のあの日にアルヴィンはこのゴーランの全てを背負う領主となった。
ゴーランのため最善を尽くすのが、彼の使命である。
常にゴーラン領主として生きてきた男としては、画期的な出来事だった。
領主として条件が合うから求婚したわけではない。
ただの男として、リーディアが好きだ。
リーディアはアルヴィンが領主であろうがなかろうが関係がないようで、扱いはむしろぞんざいになった。
そういうところも好きだ。
誰かを愛するということは、なんて心が躍ることなのだろうかとアルヴィンは思った。
己の心にそんな感情があることを教えて貰えただけでアルヴィンは十分だ。
だが願わくば何十年先でもいいからリーディアから「愛している」と聞きたい……。
「私はあなたが好きです」
求めていた愛の言葉はあまりにも唐突で、自分の欲望が作り出した幻聴かと思った。
「俺もリーディアが好きだ」
答える声が震える。思わず、泣いてしまいそうになる。
だが。
「私とノアは相性がいいようです」
相手が少年であっても、恋人の前で違う男を褒めるのは頂けない。
ノアは良い少年だが、年上の女性に淡い恋をする年頃でもある。
「俺とリーディアはもっと相性が良い」
アルヴィンは言い返した。
***
その後は兼ねてから計画していた簡易転移魔法陣の設置をし、楡の木荘に通いやすくなった。
本来、魔法陣は高価だが、アルヴィンはほとんどの素材をダンジョンから自分で調達したので、掛かった経費は職人に頼む工賃くらいだ。
職人は長い付き合いで腕が良く口が硬い連中ばかりだ。
アルヴィンはリーディアと恋人になったことを誰に公言しても構わないが、王妃派は常にアルヴィンの弱点を探ろうとゴーランに間者を放っている。
リーディアに危険が迫るのは避けたいので、最小限の側近にしか伝えていない。
いよいよ南部はきな臭く、戦禍から逃れようと大勢の避難民がこのゴーランにもやって来た。
ゴーランと南部ルミノーは隣同士なのだが、間に山があり、女子供が通るには厳しい道だ。他の道はかなり遠回りになる。
故に人の往来というのは常時は少ないのだが、このところは異常なほど増えている。
ゴーランは山の仕事やダンジョンといった稼ぎの良い仕事が多く、景気も良いので働く場所には困らない。
ただ最近は徴兵逃れでまともな職に就けない者が山賊になったり、冒険者になった者が功を焦って危険な魔物と接触するなど、騎士団が出動する案件が増えている。
リーディアを通じてノームが大地の滴をくれたので、更に仕事がはかどり、更に忙しい日々を送るアルヴィンだが、充実した毎日といえよう。
南部に起こっていることを思うと、ゾッとする。
中央貴族の利益のために南部は食い物にされている。南方辺境伯も無策過ぎたが、ギール家始め中央部の暴走を止めぬ王とは何なのか?
いよいよ行動せねばならない時がやってきたかも知れないとアルヴィンは考えを巡らす。
何が起こっても良いように備蓄と金は増やしておく。
やがて季節は夏になり、リーディアと男が仲良さそうに手を取り合っている姿を目撃した。
すわ、浮気かと思ったが、相手はレファ・ローリエ。
男性にしか見えないが、ゴーラン騎士団の女性騎士である。
レファの一族はライカンスロープ。獣化の能力を持つ魔法使いだ。
なんでか、彼女のことをリーディアが気に入り、下宿することになった。
楡の木荘は更に賑やかになり、そして迎えた秋に事件は起きる。
だが告白したその夜に、リーディアはアルヴィンの部屋を訪ねてきた。
「その方が良いかと思って」
照れながらも真っ直ぐにアルヴィンを見つめるリーディアを可愛らしいと思った。
「ではお相手をつとめさせて頂く」
アルヴィンとリーディアは初めての夜を過ごした。
リーディアは緊張していた。アルヴィンは出来るだけ優しくしたいと思った。
決して粗末に扱うことはしないが、さりとて濃厚な前戯も怯えきったリーディアを怖がらすだけだろう。
リーディアの不安をほぐすことだけにアルヴィンは注力した。
「大丈夫だ。何も考えなくていい」
アルヴィンの囁きに、リーディアは硬い表情で頷く。
今までで一番緊張したセックスが終わり、アルヴィンは息をつく。
眠そうなリーディアを抱き締め、「少し寝るといい」と声を掛けるとリーディアはすぐに目を閉じ、眠りに落ちていく。
リーディアの体は想像より小さかった。
女性にしては背が高く、存在感があるので背丈以上に大きく見える。
だが、腕の中の彼女は小さいと感じた。
リーディアの一人で何でも出来るところが好きだが、同時に強く守ってやりたいと思った。
何故か泣きたくなるような切なさと喜びで、アルヴィンは胸がいっぱいになる。リーディアを抱き締めて、彼は懸命に涙を堪えた。
***
「何しに来たんですか?」
一週間後にアルヴィンがリーディアを訪ねると様子が変わっていた。
ついにアルヴィンの正体がばれたらしい。
リーディアはフースの町の役場に出入りしていた。あそこには領主の肖像画も飾ってある。
十分予測出来ていたことだったので驚きはないが、思った以上にリーディアはよそよそしいというか、面倒くさいと言わんばかりの態度だった。
媚びへつらわれるよりは大分良く、何よりリーディアらしい。
色々話したが、基本的にリーディアの態度は変わらない。
しつこく「然るべき貴族のご令嬢」とやらとの結婚を勧められたが断ると、リーディアはしぶしぶ恋人関係を続けることに同意した。
その日の夜も二人は同衾した。
アルヴィンはリーディアを愛しているが、リーディアから愛して貰おうとは思わない。
愛して貰えたらいいが、愛されることは彼の中で必須ではない。
アルヴィンはデニスに言わせると、合理的を通り越して実利主義な人間らしい。
何事もこちら側の有利になるように整えないと、自分だけではなく大勢の人間が不利益を被ることになるのだから当たり前だと思う。
だがリーディアに何か見返りを求めたいとは思わない。
ただ、彼女を愛している。
それはアルヴィンの中で初めて芽生えた感情だった。
まだ彼がほんの小さな子供だった頃はあったのかも知れないが、十五歳のあの日にアルヴィンはこのゴーランの全てを背負う領主となった。
ゴーランのため最善を尽くすのが、彼の使命である。
常にゴーラン領主として生きてきた男としては、画期的な出来事だった。
領主として条件が合うから求婚したわけではない。
ただの男として、リーディアが好きだ。
リーディアはアルヴィンが領主であろうがなかろうが関係がないようで、扱いはむしろぞんざいになった。
そういうところも好きだ。
誰かを愛するということは、なんて心が躍ることなのだろうかとアルヴィンは思った。
己の心にそんな感情があることを教えて貰えただけでアルヴィンは十分だ。
だが願わくば何十年先でもいいからリーディアから「愛している」と聞きたい……。
「私はあなたが好きです」
求めていた愛の言葉はあまりにも唐突で、自分の欲望が作り出した幻聴かと思った。
「俺もリーディアが好きだ」
答える声が震える。思わず、泣いてしまいそうになる。
だが。
「私とノアは相性がいいようです」
相手が少年であっても、恋人の前で違う男を褒めるのは頂けない。
ノアは良い少年だが、年上の女性に淡い恋をする年頃でもある。
「俺とリーディアはもっと相性が良い」
アルヴィンは言い返した。
***
その後は兼ねてから計画していた簡易転移魔法陣の設置をし、楡の木荘に通いやすくなった。
本来、魔法陣は高価だが、アルヴィンはほとんどの素材をダンジョンから自分で調達したので、掛かった経費は職人に頼む工賃くらいだ。
職人は長い付き合いで腕が良く口が硬い連中ばかりだ。
アルヴィンはリーディアと恋人になったことを誰に公言しても構わないが、王妃派は常にアルヴィンの弱点を探ろうとゴーランに間者を放っている。
リーディアに危険が迫るのは避けたいので、最小限の側近にしか伝えていない。
いよいよ南部はきな臭く、戦禍から逃れようと大勢の避難民がこのゴーランにもやって来た。
ゴーランと南部ルミノーは隣同士なのだが、間に山があり、女子供が通るには厳しい道だ。他の道はかなり遠回りになる。
故に人の往来というのは常時は少ないのだが、このところは異常なほど増えている。
ゴーランは山の仕事やダンジョンといった稼ぎの良い仕事が多く、景気も良いので働く場所には困らない。
ただ最近は徴兵逃れでまともな職に就けない者が山賊になったり、冒険者になった者が功を焦って危険な魔物と接触するなど、騎士団が出動する案件が増えている。
リーディアを通じてノームが大地の滴をくれたので、更に仕事がはかどり、更に忙しい日々を送るアルヴィンだが、充実した毎日といえよう。
南部に起こっていることを思うと、ゾッとする。
中央貴族の利益のために南部は食い物にされている。南方辺境伯も無策過ぎたが、ギール家始め中央部の暴走を止めぬ王とは何なのか?
いよいよ行動せねばならない時がやってきたかも知れないとアルヴィンは考えを巡らす。
何が起こっても良いように備蓄と金は増やしておく。
やがて季節は夏になり、リーディアと男が仲良さそうに手を取り合っている姿を目撃した。
すわ、浮気かと思ったが、相手はレファ・ローリエ。
男性にしか見えないが、ゴーラン騎士団の女性騎士である。
レファの一族はライカンスロープ。獣化の能力を持つ魔法使いだ。
なんでか、彼女のことをリーディアが気に入り、下宿することになった。
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