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巡る季節

07.ダンジョンに行ってみよう5

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 前菜はきのこのマリネ。
 鍋に少々のオリーブオイルを敷き、きのことニンニクを入れ、旨味を出すため焼き色がつくまで炒める。その後オリーブオイルとローリエ、塩、酢を入れて一煮立ち。二時間ほど味を馴染ませれば出来上がりだ。
 二品目はグリーンサラダ。
 昨日収穫されなかった畑の野菜が出番を待っている。間引きしたニンジンを使ったニンジンドレッシングをかけて食べる。
 そして今日の主役は魔豚を使った肉料理だ。
 まず魔豚を包丁で叩いて挽肉にし、そこにみじん切りにした玉葱、ニンニク、マッシュルーム、粗く刻んだトマトを加えてフライパンで炒める。肉に火が通ったら小麦粉、フォンドボー、オレガノなどの香草、塩、胡椒を加え、十分ほど煮込むとミートソースが出来上がる。
 ミートソースを茹でたパスタの上にのせると魔豚のミートソースパスタは完成だ。
 もう一品はきのこ、ズッキーニ、コーン、トマトにインゲンといった夏野菜を厚めにカットした魔豚肉と一緒にオーブンでカリッと焼いた魔豚のグリル……。


 レファが厩舎から戻って来た頃、料理も出来上がった。
 いつもの食事の時間より少し早いのだが、私もノアもレファもお腹が空いている。

 まだ食堂に客は誰もいないので、皆揃って食堂で夕食をとることにした。
 きのこも魔豚も非常に美味だった。
 特にミートソースのパスタは子供達に大受けで、二人ともおかわりした。

 ブラウニー達にも小さな皿に料理を分けた。
 台所に小皿に置いたのだが、ブラウニー達はわざわざ移動して食堂の隅で食べている。
 人嫌いのブラウニー達だが、レファは別らしく、気にせず姿を見せている。
 レファも「妖精がいるんですね」とまったく動じない。

 賑やかな食事が終わった頃、カランとベルが鳴って馴染みの客がやって来た。
「おっ、今日はリーディアさん、いるな?」
「いらっしゃい、帰っておりますよ。今夜のメニューはきのこと魔豚の料理です」
「そりゃ旨そうだ」

 さて、宿屋の仕事を始めるとしよう。


「では私はこれで失礼します」
 夕食後、町に帰ろうとしたレファだが、愛馬のルビーが厩舎から出ようとしない。
 オリビアも寂しげに鳴くので、私は思わずレファを引き留めた。
「今日は泊まっていって下さい、レファさん」
「いいんですか?」
「はい、ぜひそうして下さい」
「ありがとうございます。あ、お代はお支払いします」
「いや、レファさんにはお世話になりましたから、結構ですよ」

 それでは気が済まないとレファが言うので、給仕や洗い物を手伝って貰うことにした。
 壊滅的な料理センスとは裏腹に、レファは洗い物をそつなくこなし、給仕をすれば、
「きゃー」
 と厨房まで黄色い悲鳴が届いてくる。
 何故かデザートの注文が多かった。

 今日のデザートは宿の人気メニュー、壺プリンである。



 帰宅早々、ガッチリ働いて疲れたが、きのこと魔豚は美味しく、久しぶりの遠出は楽しかった。
 風呂で汗を流し、自室で少し飲もうとワインボトル片手に良い気分で階段を上がると、丁度レファがいた。

「レファさん」
「リーディアさん」
「ちょうどいい、私の部屋で飲みませんか?」
 私は彼女を酒に誘った。

「リーディアさんは私が獣化したのを驚かなかったですね。冷静に対応して頂き、とても助かりました」
 レファは酒を飲みながら、私に頭を下げた。
「そう言って貰えるのは光栄ですが、あの時は私も驚きましたよ」
「そうなんですか?全然そうは見えませんでした」
「すごく驚きました。ライカンスロープの変化を見たのは初めてだったので、正直に言うととても興奮しました」
「ああ、一族のことをご存じなのですね」
「はい。本で読んだ通りでした。既に家系は絶えてしまったと聞きましたが……」

「領主様に騎士として取り立てて頂き、何とか今まで続いております。ですが一族は減り、もう変化出来るのは私だけになっております」
「そうでしたか」
 レファはグビッと酒を飲む。
 頬がほんの少し紅潮し、リラックスした姿は、私もドキッとするほど色気を振りまいている。ただし、女性には見えない。
「このままですと、私の代で一族は終わってしまいます。それが心苦しく、今からでも女性らしくしてみようと料理をしてみたのですが、残念ながらあの結果です」

 あの料理はレファなりの婚活だったらしい。

「私もリーディアさんくらい胸が大きく、料理が得意だったら良かったのに……」
 酒のせいなのか、レファはポロリと愚痴をこぼす。


 そんなレファに私はあの時言えなかった言葉を告げた。
「レファさん、私はあなたが羨ましいですよ」
「えっ」
 レファは戸惑ったように私を見つめる。

「確かに料理人は人を笑顔に出来る素晴らしい職業でしょう。だが騎士は人々の笑顔を守る職業です。それは誇って良いことだと思います」
 私はもう騎士としては働けない。
 だがレファは現役の騎士だ。

「あなたは昨日あの男達を助けることになんの躊躇もなかった。かつては私もそうでした。相手が誰であろうと身を挺して人を守った。そして私にはその力があった」
 あの時、私は王太子殿下でなかったとしても、同じように庇ったはずだ。
 それは、私が騎士だったからだ。
 実際に出来ていたか分からないが、私は騎士として高潔であろうとした。


「…………」
 レファは一心に私を見つめている。
「古い文献にはライカンスロープは勇気の具現と書かれています。人を守りたいという勇敢な心が、魔法使いを獣に変化させると」
「リーディアさん……」
「魔法使いの端くれとしては、レファさんの勇敢な心を認めてくれる相手に出会って欲しいと思います。ライカンスロープの血統が終わっても、人の心に勇気がある限り、次のライカンスロープはきっとどこかで生まれます。だからレファさんの人生をレファさんらしく生きて欲しい、私はそう願っています」




 ***

 翌朝、レファはちょっと吹っ切れた様子で、
「また来ます」
 と愛馬と共に町に帰っていった。

 ……そして彼女はまた夕方やってきた。
 話を聞くと、仕事を終えたレファが帰ろうと愛馬ルビーに乗ると、ルビーはそのままたったかと我が家まで走ったらしい。
「あのう、すみません、オリビアと少し一緒に過ごせば気が済むと思いますんで、そうしたら帰りますから……」
 レファは恐縮している。

 確かにオリビアとルビーはとても仲が良い。
 考えてみればオリビアはここに来てずっと一匹暮らしだったので、少し寂しかったのだろう。
 ルビーもかなり活発な馬なので、運動不足は辛いだろう。
 そう思うと、この二匹を引き離すのは何だか気が引けた。

 私はレファに打診してみることにした。
「あの、レファさんさえ良ければなんですが、うちに下宿しません?」
「は、えっ、そっそれはありがたいですがいいんですか?」
「はい。ルビーがいれば通いは大丈夫でしょうし、何よりうちのオリビアが喜びます」
「あの、すごく、嬉しいです。私もリーディアさんと一緒に暮らせたらなと思ってました。とっ、友達になって貰えますか?」
「はい、是非!」
 女友達は今まであまりいなかったから、私も嬉しい。



 夕食の支度があるので、レファと私はキッチンで話をしていた。
 そこに、アルヴィンがやって来た。
「リーディア」

「あ、団長?どうしてここに?」
「レファ・ローリエか?どうしてここにお前がいるんだ?」

 二人は同時に同じことを尋ねた。
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