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ゴーラン伯爵とチェリーボンボン
01.春の祭りの準備
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よく晴れた春の朝、私はオリビアに荷台を付け、町へと向かった。
ノアとミレイを町の学校に送り届けるのと、私自身が町に用事があったからだ。
街道の両脇には街路樹が立っており、その向こうは草原になっている。
ふと見ると、プルモナリアの青が美しい。それにアカシアの木が綺麗な黄色の花をつけている。
ミモザは食べられる花だ。摘んで砂糖漬けにしてみようか。
イラクサも西風に吹かれて気持ちよさそうにそよいでいる。
春を代表するハーブであるネトルは葉を摘んでポタージュスープにするといい。鮮やかな緑色で草原のような香りがするスープが出来る。
「行ってきます、リーディアさん」
「いってきまぁす」
「はい、行ってらっしゃい」
二人を学校まで送った後、私は町外れの粉挽き小屋に向かった。
小麦とライ麦を挽いてもらうのだ。
都会などでは事情は異なるが、田舎の庶民は麦のまま穀物を備蓄し、都度使う分だけ粉挽き小屋で挽いてもらう。その方が鮮度が保てるからだ。
粉挽き小屋の持ち主は土地の領主である。
粉挽き小屋の手間賃はこの領主が決めていて、フースの町では挽く穀物の1/20が手間賃だ。
私はゴーラン領に来るまで自分でパンを焼くことはなかったので、粉挽き小屋で小麦を挽いて貰うのも初めての経験だった。
町の人々に聞くと、この手間賃を高くする強突く張りの領主もいるらしいが、ここの手間賃は隣領に比べお手頃価格だそうだ。
ゴーラン領は農業と林業が盛んな上、交通の要所でもあり、おまけにダンジョンも持っているので、王国でも豊かな地として知られている。
一見ここよりずっと華やかに見える王都だが、富める貴族がいる一方、飢えに苦しむ貧民もいる。ゴーラン領は素朴だが、貧民窟などは存在しない。
粉挽き小屋一つとっても人々の暮らしぶりが見て取れる。
「ではよろしくお願いします」
「あいよ、やっとくよ」
私は馴染みになった番人に声を掛けて、粉挽き小屋を出た。
向かった先は町の役場である。
町では二週間後、春を祝う祭りが開催される。その祭りの寄り合いがあるのだ。
春を祝う祭りは近隣の村からも人が訪れて大賑わいになる。
今日の寄り合いは祭りの「食」担当の会合だ。
町の食事処や宿屋の他、店を構えていない者も申請して承認されれば、祭りの会場である町の広場に出店を出せる。
本来参加は任意なのだが、幾つかの店には町から指名がくる。ありがたいことに我が家も役場から指名を貰った。
役場の会議室に各々の店主が持ってきた料理が並べられ、皆で試食していく。
出店する店は商品が被らないようにあらかじめ申し合わせ、色々な食が楽しめるように工夫しているのだ。
当日は領主から酒や牛や豚の丸焼きなどの振る舞いがある。
なので我々の役目は、焼いた肉以外の料理だ。
普段店では熱い料理は熱く、冷たい料理は冷たく提供出来るが、屋台ではそうはいかない。
素早く提供できて、手軽に食べられ、そして春を祝う祭りに相応しいメニュー……。
色々悩んだ挙げ句、私は「うさぎのシチュー、アスパラガス添え」を作ることにした。
うさぎは春の女神の使いと呼ばれ、春の祭りでは欠かせないメニューだ。
振る舞いではうさぎの肉は出さないらしいし、魔石で大鍋を温めれば、温かいうちに食べて貰える。アスパラガスも春が旬の野菜だ。
もう一品はマドレーヌにした。
菓子を出す店が足りないらしく、菓子を出して欲しいと指定されたからだ。
貝殻の焼き型を使った菓子は形も可愛らしいので、女性客は目をとめてくれそうだ。
焼き菓子はほどよく膨らませて焼くのが難しいのだが、重曹を使うと多少難易度が下がる。菓子職人ではない私でもこれなら失敗なく大量に作れた。
しかし思わぬ問題が生じた。
「これは旨い」
「しっとりしているのに、ふんわりと軽い」
「バターの香りがいい」
……と、渾身の一品、うさぎのシチューではなく、マドレーヌが高い評価を受けてしまった。
「マドレーヌというんですか?王都の食べ物とは珍しい。これは良いですよ!形も凝っているし、きっと評判になります!」
と役場の担当者から食い気味に絶賛された。
「いや、マドレーヌは王都の食べ物ではないですよ。私が読んだレシピでは、外国の料理と書かれていました。焼き型の取り扱いがあるのだから、王都では流行しているかも知れませんが……」
長年暮らした都だが、恥ずかしながら私は流行にはまったく詳しくない。さらにここ一年、王都には立ち入ってすらいない。
私は一応、反論したのだが、
「とにかく美味しくて珍しい!素晴らしいです。数はどのくらい作れます?」
担当者はあまり気にせず、さらに問いかけてきた。
よく見ると彼は私に今の家を斡旋してくれた若者だ。
あの時は朴訥そうな青年に見えたが、今は圧強めである。
「……いや、うさぎのシチューの仕込みがありますので、あまり作れないかと……」
小声で訴えてみたが、
「では、楡の木荘さんにはマドレーヌオンリーでお願いします。じゃんじゃん作って下さい」
とお願いされてしまった。
「はい……」
しかし、春の祭りである。
屋台で提供する料理としては、料理屋に行けば食べられるようなメニューより、可愛い菓子の方が喜ばれるかも知れない。
「……じゃんじゃん作ると言っても、マドレーヌは割に高いですよ。そんなに売れないでしょう?」
私は担当者に言った。
「ちなみにおいくらくらいです?」
「一個五分の一銀貨は貰わないと採算が合いません。砂糖を使っていますので」
五分の一銀貨あれば料理屋で一食食べられる。
対してマドレーヌは手のひらサイズの小さな菓子一つでこのお値段だ。
卵も小麦粉も庶民には少々お高い食品だが、さらに高いのは外国からの輸入に頼る砂糖だ。
菓子類はその砂糖をふんだんに使う。
「それに、香り付けにレモンも使ってまして」
レモンやオレンジも高価だ。
我が国ではこれら暖かいところで採れる柑橘類は専用の温室、オランジュリーでないと越冬出来ない。栽培が難しく、冬場の燃料費もかさむため、庶民には高嶺の花だ。いや、実か。
そもそもレモンは庶民が使う町の市場に流れてくることが少ないのだが、何故かゴーラン領では王都に比べ手に入りやすい。高いが時々売っている。
「ああ、このスッキリとした酸味はレモンですか。なるほど」
担当者は感心したように頷いた後、あっさり言い切った。
「大丈夫だと思いますよ。お祭りで皆さん、財布の紐は緩みますし、楡の木荘さんのお菓子は美味しいと評判ですから」
「はあ……」
「いやぁ、僕の周りでも、例のパンケーキは大評判でして。でも楡の木荘さんは町から少し離れてますからね。なかなかお店まで食べに行けない人も多いんです。そんな有名な楡の木荘さんのお菓子が、町中で手軽に食べられる絶好の機会です。皆、喜んで買い求めるでしょう。成功間違いなし!」
「はあ……」
本当か?
いや、そもそも我が家はカフェではないのだが、なんでマドレーヌを売ることになった?
色々と不安になる私だが、役場の青年は自信満々だ。
「大丈夫ですよ。この菓子、レモンのせいか甘すぎないし、しっとりしつつどこか軽い食感。女性に受けそうですが、男性も好きな味ですよ、これは。ああ、そうだ。楡の木荘さん、お願いがあるんですが……」
「お願い?」
「ちょっとこちらに来て頂けますか?」
内密な話なのか、青年は私を部屋の隅に連れていき、他の人間には聞こえないよう辺りを見回した後、耳打ちしてきた。
「祭りの一週間後にこのマドレーヌをまとめて発注したいんですが、出来ますか?」
「はい、もちろんです」
そう答えながら、私は考えた。
祭りの一週間後って何かあったか?
マドレーヌは普段のお茶請けにするにはちょっと高価だ。
まとまった数となると、結構な金額になる。
ご進物か何かに使うつもりだろうか。
青年はさらに声を潜めて言った。
「祭りの一週間後が領主様の二十八歳のお誕生日でして」
「ああ、そうなんですか」
二十八歳か。
あまり興味がなかったので、気にしなかったが、同世代だったか。
「ご本人が祝う必要はないとおっしゃってお祝いパーティーなどは開かれませんが、町でも何か献上したいと思いまして。珍しい菓子なんかは喜んで頂けそうですよね」
「ね」って同意を取られても……。
しかしそういう事情なら、お高い菓子は良い選択かも知れない。
「でも、私のマドレーヌでいいんですか?」
「はい。実は領では今レモンを特産品にしようと売り出し中でして、レモンを使ったマドレーヌなら、領主様もお喜びでしょう」
私は目を見張った。
「……レモンはこの辺で採れるんですか?」
ゴーラン領は取り立てて暖かい地方ではない。
レモンの産地としては気候的にはあまり適していないはずだが……。
青年は得意気に理由を教えてくれた。
「我が領に幾つかダンジョンがあるのはご存じですか?」
「ええ」
「僕も詳しくは知りませんが、内部がかなり暖かいダンジョンがあって、その近くも暖かいらしいんです。そこで温室を作って栽培しているそうです」
「ほう……」
ダンジョンは気候さえ違う。焼けるような暑さの灼熱ダンジョンがあると聞いたことがある。
それを利用した温室栽培とは、ゴーラン伯爵はなかなか商売上手だ。
「さらに廃ダンジョンの跡地を使って『ジュソー』なる食べ物を作っているそうです」
ジュソーじゃなくて、重曹な。
あの後少し調べたが、トロナ石が採れるのは大河や塩湖の周辺。実はゴーラン領に地形的に条件の合う場所は存在しない。
例の土地はおそらく元塩湖か海ダンジョンだったのだろう。
何百年もダンジョンだった場所は、地質が変わってしまうことがあるそうだ。
これなら、「ない」はずの鉱床がゴーラン領であった説明がつく。
ノアとミレイを町の学校に送り届けるのと、私自身が町に用事があったからだ。
街道の両脇には街路樹が立っており、その向こうは草原になっている。
ふと見ると、プルモナリアの青が美しい。それにアカシアの木が綺麗な黄色の花をつけている。
ミモザは食べられる花だ。摘んで砂糖漬けにしてみようか。
イラクサも西風に吹かれて気持ちよさそうにそよいでいる。
春を代表するハーブであるネトルは葉を摘んでポタージュスープにするといい。鮮やかな緑色で草原のような香りがするスープが出来る。
「行ってきます、リーディアさん」
「いってきまぁす」
「はい、行ってらっしゃい」
二人を学校まで送った後、私は町外れの粉挽き小屋に向かった。
小麦とライ麦を挽いてもらうのだ。
都会などでは事情は異なるが、田舎の庶民は麦のまま穀物を備蓄し、都度使う分だけ粉挽き小屋で挽いてもらう。その方が鮮度が保てるからだ。
粉挽き小屋の持ち主は土地の領主である。
粉挽き小屋の手間賃はこの領主が決めていて、フースの町では挽く穀物の1/20が手間賃だ。
私はゴーラン領に来るまで自分でパンを焼くことはなかったので、粉挽き小屋で小麦を挽いて貰うのも初めての経験だった。
町の人々に聞くと、この手間賃を高くする強突く張りの領主もいるらしいが、ここの手間賃は隣領に比べお手頃価格だそうだ。
ゴーラン領は農業と林業が盛んな上、交通の要所でもあり、おまけにダンジョンも持っているので、王国でも豊かな地として知られている。
一見ここよりずっと華やかに見える王都だが、富める貴族がいる一方、飢えに苦しむ貧民もいる。ゴーラン領は素朴だが、貧民窟などは存在しない。
粉挽き小屋一つとっても人々の暮らしぶりが見て取れる。
「ではよろしくお願いします」
「あいよ、やっとくよ」
私は馴染みになった番人に声を掛けて、粉挽き小屋を出た。
向かった先は町の役場である。
町では二週間後、春を祝う祭りが開催される。その祭りの寄り合いがあるのだ。
春を祝う祭りは近隣の村からも人が訪れて大賑わいになる。
今日の寄り合いは祭りの「食」担当の会合だ。
町の食事処や宿屋の他、店を構えていない者も申請して承認されれば、祭りの会場である町の広場に出店を出せる。
本来参加は任意なのだが、幾つかの店には町から指名がくる。ありがたいことに我が家も役場から指名を貰った。
役場の会議室に各々の店主が持ってきた料理が並べられ、皆で試食していく。
出店する店は商品が被らないようにあらかじめ申し合わせ、色々な食が楽しめるように工夫しているのだ。
当日は領主から酒や牛や豚の丸焼きなどの振る舞いがある。
なので我々の役目は、焼いた肉以外の料理だ。
普段店では熱い料理は熱く、冷たい料理は冷たく提供出来るが、屋台ではそうはいかない。
素早く提供できて、手軽に食べられ、そして春を祝う祭りに相応しいメニュー……。
色々悩んだ挙げ句、私は「うさぎのシチュー、アスパラガス添え」を作ることにした。
うさぎは春の女神の使いと呼ばれ、春の祭りでは欠かせないメニューだ。
振る舞いではうさぎの肉は出さないらしいし、魔石で大鍋を温めれば、温かいうちに食べて貰える。アスパラガスも春が旬の野菜だ。
もう一品はマドレーヌにした。
菓子を出す店が足りないらしく、菓子を出して欲しいと指定されたからだ。
貝殻の焼き型を使った菓子は形も可愛らしいので、女性客は目をとめてくれそうだ。
焼き菓子はほどよく膨らませて焼くのが難しいのだが、重曹を使うと多少難易度が下がる。菓子職人ではない私でもこれなら失敗なく大量に作れた。
しかし思わぬ問題が生じた。
「これは旨い」
「しっとりしているのに、ふんわりと軽い」
「バターの香りがいい」
……と、渾身の一品、うさぎのシチューではなく、マドレーヌが高い評価を受けてしまった。
「マドレーヌというんですか?王都の食べ物とは珍しい。これは良いですよ!形も凝っているし、きっと評判になります!」
と役場の担当者から食い気味に絶賛された。
「いや、マドレーヌは王都の食べ物ではないですよ。私が読んだレシピでは、外国の料理と書かれていました。焼き型の取り扱いがあるのだから、王都では流行しているかも知れませんが……」
長年暮らした都だが、恥ずかしながら私は流行にはまったく詳しくない。さらにここ一年、王都には立ち入ってすらいない。
私は一応、反論したのだが、
「とにかく美味しくて珍しい!素晴らしいです。数はどのくらい作れます?」
担当者はあまり気にせず、さらに問いかけてきた。
よく見ると彼は私に今の家を斡旋してくれた若者だ。
あの時は朴訥そうな青年に見えたが、今は圧強めである。
「……いや、うさぎのシチューの仕込みがありますので、あまり作れないかと……」
小声で訴えてみたが、
「では、楡の木荘さんにはマドレーヌオンリーでお願いします。じゃんじゃん作って下さい」
とお願いされてしまった。
「はい……」
しかし、春の祭りである。
屋台で提供する料理としては、料理屋に行けば食べられるようなメニューより、可愛い菓子の方が喜ばれるかも知れない。
「……じゃんじゃん作ると言っても、マドレーヌは割に高いですよ。そんなに売れないでしょう?」
私は担当者に言った。
「ちなみにおいくらくらいです?」
「一個五分の一銀貨は貰わないと採算が合いません。砂糖を使っていますので」
五分の一銀貨あれば料理屋で一食食べられる。
対してマドレーヌは手のひらサイズの小さな菓子一つでこのお値段だ。
卵も小麦粉も庶民には少々お高い食品だが、さらに高いのは外国からの輸入に頼る砂糖だ。
菓子類はその砂糖をふんだんに使う。
「それに、香り付けにレモンも使ってまして」
レモンやオレンジも高価だ。
我が国ではこれら暖かいところで採れる柑橘類は専用の温室、オランジュリーでないと越冬出来ない。栽培が難しく、冬場の燃料費もかさむため、庶民には高嶺の花だ。いや、実か。
そもそもレモンは庶民が使う町の市場に流れてくることが少ないのだが、何故かゴーラン領では王都に比べ手に入りやすい。高いが時々売っている。
「ああ、このスッキリとした酸味はレモンですか。なるほど」
担当者は感心したように頷いた後、あっさり言い切った。
「大丈夫だと思いますよ。お祭りで皆さん、財布の紐は緩みますし、楡の木荘さんのお菓子は美味しいと評判ですから」
「はあ……」
「いやぁ、僕の周りでも、例のパンケーキは大評判でして。でも楡の木荘さんは町から少し離れてますからね。なかなかお店まで食べに行けない人も多いんです。そんな有名な楡の木荘さんのお菓子が、町中で手軽に食べられる絶好の機会です。皆、喜んで買い求めるでしょう。成功間違いなし!」
「はあ……」
本当か?
いや、そもそも我が家はカフェではないのだが、なんでマドレーヌを売ることになった?
色々と不安になる私だが、役場の青年は自信満々だ。
「大丈夫ですよ。この菓子、レモンのせいか甘すぎないし、しっとりしつつどこか軽い食感。女性に受けそうですが、男性も好きな味ですよ、これは。ああ、そうだ。楡の木荘さん、お願いがあるんですが……」
「お願い?」
「ちょっとこちらに来て頂けますか?」
内密な話なのか、青年は私を部屋の隅に連れていき、他の人間には聞こえないよう辺りを見回した後、耳打ちしてきた。
「祭りの一週間後にこのマドレーヌをまとめて発注したいんですが、出来ますか?」
「はい、もちろんです」
そう答えながら、私は考えた。
祭りの一週間後って何かあったか?
マドレーヌは普段のお茶請けにするにはちょっと高価だ。
まとまった数となると、結構な金額になる。
ご進物か何かに使うつもりだろうか。
青年はさらに声を潜めて言った。
「祭りの一週間後が領主様の二十八歳のお誕生日でして」
「ああ、そうなんですか」
二十八歳か。
あまり興味がなかったので、気にしなかったが、同世代だったか。
「ご本人が祝う必要はないとおっしゃってお祝いパーティーなどは開かれませんが、町でも何か献上したいと思いまして。珍しい菓子なんかは喜んで頂けそうですよね」
「ね」って同意を取られても……。
しかしそういう事情なら、お高い菓子は良い選択かも知れない。
「でも、私のマドレーヌでいいんですか?」
「はい。実は領では今レモンを特産品にしようと売り出し中でして、レモンを使ったマドレーヌなら、領主様もお喜びでしょう」
私は目を見張った。
「……レモンはこの辺で採れるんですか?」
ゴーラン領は取り立てて暖かい地方ではない。
レモンの産地としては気候的にはあまり適していないはずだが……。
青年は得意気に理由を教えてくれた。
「我が領に幾つかダンジョンがあるのはご存じですか?」
「ええ」
「僕も詳しくは知りませんが、内部がかなり暖かいダンジョンがあって、その近くも暖かいらしいんです。そこで温室を作って栽培しているそうです」
「ほう……」
ダンジョンは気候さえ違う。焼けるような暑さの灼熱ダンジョンがあると聞いたことがある。
それを利用した温室栽培とは、ゴーラン伯爵はなかなか商売上手だ。
「さらに廃ダンジョンの跡地を使って『ジュソー』なる食べ物を作っているそうです」
ジュソーじゃなくて、重曹な。
あの後少し調べたが、トロナ石が採れるのは大河や塩湖の周辺。実はゴーラン領に地形的に条件の合う場所は存在しない。
例の土地はおそらく元塩湖か海ダンジョンだったのだろう。
何百年もダンジョンだった場所は、地質が変わってしまうことがあるそうだ。
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