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15.【閑話】バザーの日

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 話は少々さかのぼる。

「あら、カチュアさん、バーバラちゃんのお迎え?」
「ええ、そうなの。ホーリーさんも」
「そう。……ねえ、カチュアさん、アレ、何か思いついた?」
「それが全然」

「どうしましょう」
「困ったわ」
「困ったわねー」

 保育園の園庭でお迎えのママ達が頭を悩ませているのは、一ヶ月後に迫った冒険者ギルド保育園が行うチャリティーバザーのことだ。
 教会を借り切って、冒険者ギルド保育園の保護者達が開催するこのバザーは、保育園の園児やその家族だけではなく、近隣住民も大勢訪れる人気のイベントだった。

 人気なのは、魔法使いママの作るポーションや、冒険者ママがダンジョンから運んだ万年雪で作るかき氷だとか、冒険者パパ達が開く掘り出し物満載のガラクタ市などである。

 一方目立った特技などないカチュア達Fランクポーターは、今年の出し物をどうしようか大いに悩んでいた。

「うーん、私達だと食べ物でも売り物でも珍しいものは用意出来ないものねぇ……って、あっ!」

 カチュアはひらめいた。
「そうよ!珍しくないものを売ればいいんじゃない?」
「珍しくないものって?」
「園指定のバッグとか、スモックとかよ!特にバッグや袋は指定サイズがなかったり、あっても子供が好きな色じゃなかったりで結局作らないといけないじゃない?」
「そうねぇ、あれ、地味に面倒だったわねぇ」
 ママ達は一様に遠い目をして思い出した。
 バッグやお道具入れ……。保育園に通わせるとたくさんの袋が必要になる。
 子供が喜ぶから頑張って手作りしたが、いいの売ってたら買いたいレベルで大変だった。

 カチュア達ポーターママ達の経歴は様々で、中には高レベルの冒険者だったが子供が生まれてポーターに転向したなんて人もいるが、大抵は街のごく普通の女性だ。
 一般女性のたしなみは家事一般が出来ることで、ほとんどのポーターママが裁縫の経験がある。

「園グッズ、売りましょう!」
「それ、いいかもしれないわね」
「園の子じゃなくても子供が使うにはちょうどいいサイズだし」

 カチュア達は協力して、バッグなど、園に通う時必要なグッズを作って売ることにした。
 売れなかったら、自分の子供達に使えばいいし、親戚の子達にあげてもいい。なんなら保育園に寄付してもいいから無駄にはならない。

 バザーならではの実演販売(?)としてお買い上げ百名様限定で名前入れのサービスをすることにした。
 フルネームのお名前で500ゴールド。可愛いお花や鳥さんの刺繍入れも一個500ゴールドの料金を頂く。

 カチュアの感覚的には「ちょっと高いかなー」という価格帯だが、実費や労力が掛かるので、これくらいもらわないと合わない。

「売れるかしら……?」
 提唱者のカチュアはかなりドキドキだったが、バザー当日、店は大人気で商品は売り切れそうだ。

 冒険者ママ達は高度で特殊な技能を磨いた代わりに、一般女性が普通に出来る家事が苦手な人が多い。
 カチュア達の商品は「それでも子供に可愛いグッズを使わせてあげたい」というママ心をくすぐったのだ。
 刺繍を入れて世界で一つだけのオリジナルグッズに出来る刺繍お名前サービスも大好評だ。

 そして中にはこんな人も……?

「すみません」
 という野太い声に振り返ると、非常に体格の良い冒険者らしい人が立っている。
「はっ、はい」
 うわー、でっかいわーとちょっと引きながらカチュアが接客する。
「これ、大人も買えますか?」
 と可愛い赤のバッグのお買い上げをご希望のようだ。

「はい、もちろんですよ」
 カチュアが答えると、彼は嬉しそうに顔をほころばせ、頭を掻き、超照れながら、
「あの、刺繍もお願いしたいんですけど。名前じゃなくて、ろあちゃんの刺繍」
 ……と言った。

「ろあちゃんってあの幻獣の?」
「はい、そうです」
「少々お待ちください」

 実は遠征などもあるカチュアの夫の騎士アランも持ち物に記名が必須だ。そのおかげもあってカチュアはお名前刺繍は得意だが、ろあちゃんの刺繍のような凝った刺繍は刺せない。
 刺繍得意のママに聞いてみると。

「大きな刺繍になるのでお待たせしてしまうのと、価格も1000ゴールドになってしまいますがそれでよろしければ」
「お願いします!」

「では出来上がった頃、取りに来ます」と去って行く冒険者の後ろ姿を見送りながら、カチュアは思わず呟いた。

「ろあちゃんのファン、いるんだ……」



 刺繍刺しは十名態勢で、目が疲れたら交代することになっている。
 カチュアは目がしょぼしょぼしてきたタイミングで交代させてもらうことにした。

 今日はエドもバーバラもバザーに来ていて、子守担当のママに引率され、広場でやっている人形劇を真剣に見入っている。
「エド、バーバラ」
「「あ、ママ」」

 二人と合流し、三人でバザーを見て回る。お菓子や軽食を買って食べたりと楽しく過ごした後は、また刺繍だ。
「じゃあ、ママ、刺繍してくるねー」
「はーい」
「頑張ってねー」

 カチュアはその後も名前を刺繍し続けた。
 途中で、「ピコーン」とステータスボードが現れた気がしたが、
「えっ、何?そんなことより今はししゅー!」
 と出てきたボードを速攻閉じてしまった。

 結局、バザーに出した商品は全て完売。
 お名前刺繍も先着百名様を超えてオーダーが入り、希望者には後日のお渡しということで受注した。

 バザーの売り上げは、実費を差し引いた後、全額教会へ寄付される。

「ずいぶんと盛況でしたね」
 と教会の神父様から声を掛けられたカチュアは、
「どうもありがとうございます」
 と答えた。
 一瞬後で、「あ、そういえばアンやジェシカから教会で『鑑定』してもらった方がいいよって言われてたなー」と思い出したが、相談しようにも神父様は忙しそうだし、七階の鑑定の泉でもうスキル【主婦】の内容は明らかになった。

「まあ、いいわよね」と思い直し、カチュアは子供達と三人家路についた。

 そんなカチュアはステータスボードのメッセージに気づくことはなかった……。



『スキル【主婦】サブスキル【裁縫】が解放されました』
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