上 下
50 / 87
10歳

クローヴィス4

しおりを挟む
「ローゼリア、お茶会はどうだった。また悪戯に殿下を煽ってはいないだろうな?」
「まあ、心外ですわ。私がいつ殿下を煽ったと?」
「会うたび毎度、態と殿下の気に触る様な言動をしては怒らせていたではないか!今回は、その様なことはしていないだろうな?これから毎月会うんだぞ?」
「まあ、したかしていないかで言えば、しましたわねえ。」
「ローゼリア…」
「でも安心なさって、お父様。殿下は私の煽りにも反応せず、とても紳士に対応していただきましたわ。殿下も成長されたのですわねえ。」
「…因みに今日はなんと言ったのだ?」
「今までの事を謝るから、友達になってくれと言われたので、ご命令とあらばと申しましたわ。」
「殿下なりに勇気を振り絞った告白じゃないか…。頼むから、王族で遊ぶのはやめてくれ。陛下なんてこの五年で生え際が何センチ後退したと思っているんだ。毎月この様な調子で行かれては私の胃に穴が開く。」
「しょうがないですわね。美味しいお菓子をたくさん用意してくれてもいますし、次回からは大人しくしておりますわ。」
「本当に頼むからそうしてくれよ。くれぐれも殿下で遊んだりするんじゃないぞ。いいな?」
「勿論ですわ、お父様。」

アルドリックはローゼリアからお茶会の様子を聞きうな垂れた。最近落ち着いてきたローゼリアに気を抜いていたところもあった。しかし興味の欠片もない殿下とのお茶会という苦行に、何か刺激が欲しくなったのだろう。五年前にローゼリアが仕出かした様々な事件を思い返し、アルドリックの胃はあの頃の様にまたキリキリと痛み出したのであった。

ーーーーーーーーー


「お帰りローゼリア。殿下とのお茶会はどうだった?」
「ただいま戻りましたわ、クラウス兄様。美味しいお菓子をたくさん用意していただきましたの。」
「それは良かった。殿下から意地悪はされていないかい?」
「ええ。今日はとっても紳士でしたわ。今までの事を謝るとも言ってくださいましたの。」
「へえ…。あの殿下が珍しいね。まあ、ローゼリアは本当にクローヴィス殿下と結婚する訳じゃないんだから、無理して仲良くならなくても良いんだからね?」
「ふふ、分かってますわ!」

ローゼリアがアルドリックと共に帰宅すると、玄関のホールでクラウスが待ち構えていた。クラウスは今年で14歳になった。背は伸び、今やアルドリックを超えそうな勢いである。魔法だけでなく剣の訓練も欠かさないクラウスは、バーナーの血の成せる技か、同年代の中でも体格がかなり良い方であった。短い茶髪に優しげな顔立ち。その紳士的な立ち振る舞いに、同年代の令嬢達からも人気が高かった。
17歳になるレイモンドは王都の学園に通っており、普段は遼で生活していた。しかし週末は可能な限り邸に帰り、ローゼリアの顔を見にきた。13歳の誕生日にローゼリアからもらったお手製の青いリボンを使うため、肩ほどまであった金髪を胸の辺りまで伸ばし、後ろで一つにまとめていた。未だ世界でも珍しい氷属性魔法のエキスパートに、次期公爵家当主としての立場。そこに母親譲りの美貌も相まって、学園ではレイモンドが歩けば令嬢達がこぞって群がるような状態であった。媚びを売るしか能のない女達に嫌気がさし、レイモンドは毎週ローゼリアに癒しを求めて帰宅するのだ。

「明日は兄さんも帰ってくるから三人でお茶会しようよ!ちゃんとお菓子沢山用意するからさ。」
「良いですわね!」
「殿下にばかり良いところは見せられないからね。兄さんに頼んで、王都の人気のお菓子をお土産に持ってくる様伝えておくよ。」
「わあ!楽しみです!」


ーーーーーーーーー


クローヴィスは一人私室に篭り、今日のお茶会の反省会を行なっていた。友達になろうと勇気を振り絞って伝えたのに、拒絶された。それはまだ子供のレイモンドにとって、大変なショックであった。しかし自分の過去の行いを考えれば、当然のことだ。今まで他の者達が誰一人としてクローヴィスを拒絶しなかったのが不思議なくらいだ。いや、王子という立場上、それも当たり前のことか。しかしローゼリアは違った。王子としての自分ではなく、クローヴィス個人として接してくれた。それがどれだけ貴重な事か、今のクローヴィスには十分理解出来ていた。
彼の両親は将来王になるであろうアダルヘルムにばかり構い、クローヴィスは常に二の次であった。祖父ヨシュアもクローヴィスを可愛がってはくれたが、国王という立場上、それほど深く関わり合いになることはなかった。誰にも見られる事なく、彼を褒めそやすばかりの使用人達に囲まれて過ごすうちに、それが彼の世界の全てとなっていった。
そんな天狗になった彼に、厳しい言葉を投げかけ王族としての正しい姿を教えてくれたローゼリアには、感謝しかない。ローゼリアの隣に立てる男になりたい。ローゼリアは大人だ。彼女にとって、今のクローヴィスなど小さな子供にしか見えないのだろう。彼女と対等になるには、もっと努力するしかない。色々な事を学び、経験し、苦労する事で初めて彼女に追いつける気がした。
ならばやる事はひとつだ。取り敢えずは勉学の時間を増やす。彼の家庭教師に頼めば、喜んで教えてくれる事だろう。あの教師は幼い頃からクローヴィスに学ぶ事の大切さを丁寧に説いていた。あの頃は聞く耳を持たなかったが、今なら彼が正しかったことがわかる。先ずはクローヴィスを腐らせることなく成長に導いてくれる者を選別する事から始めなくては。
欲を言えば彼女と本当に結婚したい。しかしローゼリアに子供が成せない以上、それは叶わぬ夢だ。例え長子でなくとも、アダルヘルムに何かあった時のスペアのためにもクローヴィスは子を成し、王族の血を繋いで行かねばならない。クローヴィスはローゼリアへの恋慕を押し隠し、友人として側にいることに決めた。


その後クローヴィスは目覚しい成長を遂げ、学園に入学する頃にはローゼリアを抑え見事主席入学を果たした。それに驕ることなくその後も努力を続ける彼に、人々は王族に相応しいと褒め称えるのだが、それはまだ少し先のお話。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...