上 下
85 / 124

シバの村3

しおりを挟む
「随分と安いな…粗悪品か?」
「いえ、正規品ですよ。効果も保証します。」
「本当かな…何かあった時に使えなかったじゃ命に関わるからな…」
「本物なんですけど…安く仕入れることができただけなんです。」
「うーん…」

治癒の腕で値段が変わる治癒師と違い、ポーションなどの薬の値段は基本的に変動しない。富裕層が多い王都でも、ここシバの村でも、ポーションというのは基本的に銀貨7枚なのだ。それが目の前のポーションは半額程度の値段なのだから、半信半疑にもなる。
香織はこれまで色々な人を治療してきたが、商売の経験はないに等しい。疑惑の目を向ける村人にどう説明すれば良いのかと頭を悩ませる香織に、サイモンが助け舟を出した。

「薬の品質はこのクレール商会が保証しますよ。優秀な薬師と知り合いでして、破格の値段で仕入れたのです。値段設定は修行も兼ねてこの子に一任してるんですけど、正直僕も安すぎると思いますよ。」
「えっあの、す、すみません…」
「いや良いんだ、これも良い経験になるはずさ。まずは自分が良いと思った値段で売ってごらん。」
「は、はい…」

サイモンと香織のやりとりを見て、村人が笑った。

「ははは、嬢ちゃん、勉強中か。今回の値段は失敗だったかもなあ。もう少し高くたって皆買うぞ。安すぎると返って怪しい。」
「そうなんですね…」
「まあ、ちゃんとした薬がこの値段で買えるんなら俺は文句はないぞ。どれ、一本ずつ貰おうか。」
「ありがとうございます!全部で銀貨11枚になります。」
「おう、立派な商人になるんだぞ。」
「はい!」

商人になるつもりなどないが、店頭に立って自分の商品を売るのもなかなか楽しい。香織は患者を直接治療するのとはまた違う達成感を味わっていた。
太陽も天高く昇り、露店には村人達が大勢集まっていた。サイモン達の売る生活必需品の他、香織の薬もよく売れている。他の皆が買っていると、不思議とこの値段でも疑念の声は上がらない。大きなトラブルもなく香織は昼が来る前に今日の分を全て売り切った。

「売り切れ?」
「はい。」
「早いね。この後はどうする?」
「村の外で薬草を採ってこようかなって思ってます。良いですか?」
「もちろん。じゃあ薬の販売はまた明日かな?」
「そのつもりです。」
「じゃあ村の人に伝えておくよ。」
「ありがとうございます。あの、アレクシスさん達に昼食を作りに行っても…?」
「ああ、そうだったね。フローラがいないと不味い塩スープしか作れないんだった。いいよ、作っておいで。」
「じゃあ行ってきます。」

あまりのんびりしていると昼食の準備をしてくれているルルを待たせてしまう。香織は足早に村の外に出た。

「お、カオ、フローラ。」
「お待たせしました。今ご飯作っちゃいますね。」
「悪いな、態々来てもらっちまって。忙しかったら言えよ?無理しなくていいから。」
「大丈夫ですよ。今日の分の薬は全部売れたのでやることなくなっちゃったんです。」

こういう時間があまりない時に、カット野菜と出汁ポーションは大変役に立つ。香織は手早くスープを作り、米を炊いておにぎりを作った。

「できましたよー。」
「今日もうまそうだな!」
「じゃあ私はお世話になってるお家でご飯を食べるので、これで。」
「なんか悪いな。朝は自分たちで用意するから。」
「分かりました。あ、この後薬草採取に森に入ろうと思うんですけど…」
「俺が同行しよう。」
「アレクシスさん、ありがとうございます!」
「いや、フローラの戦闘訓練も中途半端に終わってしまったからな。」

あまり時間もなかったので、アレクシス達と別れた香織は小走りでルルの家に戻って行った。

「ただいま戻りました。」
「おかえりー。」

香織が家の扉を開けると、ルルが居間から声をかけた。声のする方へ向かうと、ルルは居間のソファに腰掛け刺繍をしていた。

「遅くなってすみません。」
「いんや、待ってる間に刺繍に夢中になっちゃってねえ。ちょうど良い時間よ。」

ルルが作ってくれていたのは、オムレツと野菜のスープ。オムレツの中にはひき肉と野菜を炒めたものと、チーズがたっぷり入っていた。スープはシンプルに塩で味付けされているが、冒険者達の作ったものとは大違いだ。

「子供の口に合うかねえ。一応ジェフが喜ぶ物を作ってみたんだけど…」
「はい、とっても美味しいです!」
「それは良かった。」

ルルの前に並んでいるのはスープとパンだけだ。ルルはパンを小さくちぎってスープに浸し、ゆっくりと咀嚼した。

「この歳になるとあまり食べられなくてね。私はいっつもスープとパンなんだよ。」
「そうなんですか。」
「この後もお手伝いかい?」
「いえ、午後は森に行こうかと思います。」
「おや、そうなの。気をつけてね、最近グリーンウルフが増えてるって話だから…森の奥に群がいるんじゃないかって噂だよ。あまり奥に行かないようにね。」
「分かりました。教えてくれてありがとうございます。」
「村長が護衛できた冒険者の人にグリーンウルフの討伐を依頼してみるって言ってたよ。森に入るのはその後のほうがいいかもね。」
「そうなんですか。」

食事の後はルルと一緒に食器の片付けをする。洗浄魔法で手早く済ませたい所だが、今の香織は収納魔法が少し使えるだけの少女だ。香織は他の村人と同じように、井戸から水を汲んできて洗剤で食器を洗った。

「セッケン草なんて…良いのかい?こんなに高価なものを使わせてもらっちゃって…」
「はい、これは私が旅の途中で集めた物なので。」
「悪いわねえ。泡立ちも良いしお皿もすぐに綺麗になるわ。」
「まだ結構持ってるので、お風呂でも使ってください。」
「ありがとうねえ。」

濡れた食器を綺麗な布で拭き、食器棚に片付けたらお手伝いは終了だ。香織はルルに一言かけてから家を出た。

「いってきます。」
「気をつけてね。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

パニックゾーン

春秋花壇
現代文学
パニックゾーン

【完結】手切れ金頂きましたぁ〜♪

山葵
恋愛
「ジェシカ。まったくお前は愛想もなく身体も貧相、閨の相性も最悪。父上が決めた相手でなければ結婚などしなかった。それに比べてマリーナは、全てにおいて最高な上に、相性もバッチリ。よって、俺はお前と離縁しマリーナと再婚する。これにサインをし、手切れ金を持ってさっさと出て行け!」 テーブルの上に置かれた物に私は目を瞠った。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。

ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
 猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。  しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。  その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!

最前線

TF
ファンタジー
人類の存亡を尊厳を守るために、各国から精鋭が集いし 最前線の街で繰り広げられる、ヒューマンドラマ この街が陥落した時、世界は混沌と混乱の時代に突入するのだが、 それを理解しているのは、現場に居る人達だけである。 使命に燃えた一癖も二癖もある、人物達の人生を描いた物語。

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

どこにでもある異世界転移~第三部 俺のハーレム・パーティはやっぱりおかしい/ラッキースケベは終了しました!

ダメ人間共同体
ファンタジー
第三部 今最後の戦いが始る!!・・・・と思う。 すべてのなぞが解決される・・・・・と思う。 碧たちは現代に帰ることが出来るのか? 茜は碧に会うことが出来るのか? 適当な物語の最終章が今始る。 第二部完結 お兄ちゃんが異世界転移へ巻き込まれてしまった!! なら、私が助けに行くしか無いじゃ無い!! 女神様にお願いして究極の力を手に入れた妹の雑な英雄譚。今ここに始る。 第一部完結 修学旅行中、事故に合ったところを女神様に救われクラスメイトと異世界へ転移することになった。優しい女神様は俺たちにチート?を授けてくれた。ある者は職業を選択。ある者はアイテムを選択。俺が選んだのは『とても便利なキッチンセット【オマケ付き】』 魔王やモンスター、悪人のいる異世界で生き残ることは出来るのか?現代に戻ることは出来るのか?

処理中です...