1 / 2
前編
しおりを挟む
あるところにジャガイモさん太郎がおりました。
無敵の男と言われているジャガイモさん太郎ですが、今日は彼が今よりも少しだけ若かった頃のお話をします。
だれも知らない岩山の上に粗末な小屋がありました。この中でジャガイモさん太郎はきびしい修行をしていたのです。
ビシッ!
ビシッ!
するどい音が聞こえてきます。
ジャガイモさん太郎が「いてて、、、」ともらすと、とたんにビシッ!と音がします。
いったい何をしているのでしょうか?
そうです。ジャガイモさん太郎は座禅を組んでいるのです。
座禅の間は目をつぶって、じっと座っていなければなりません。
「頭の中を空っぽにするのじゃ。あれこれ考えが浮かんで来たら、四の五の言わず食べてしまえ。」
ニンジャの恰好をしたニンジンのおじいさんが声をかけます。ジャガイモさん太郎の師匠で名前は『ニンじい』といいます。平べったい木の棒を両手に持っています。
「少しでも動くとこうじゃ。」
ニンじいは棒を素早く振り上げ、ジャガイモさん太郎の肩にビシッと打ちつけました。痛いと言えばまた打たれるので何も言わずに我慢します。
ジャガイモさん太郎の隣にはタマネギのタマネギ野郎と豚肉のブタコさんも座っています。二人はジャガイモさん太郎と違って、少しも動きません。
どうして二人は動かないんだろう。考えようと思いましたが、考えると自然に体が右に左にゆらゆらと揺れてしまうのです。
そうするとまた、打たれてしまいます。ジャガイモさん太郎はどうして二人は動かないんだろうという思いをまるめて食べてしまいました。
そうやっていろいろな考えを、おなか一杯食べているうちに、いつの間にかジャガイモさん太郎は考えるのをやめていました。
ニンじいは、ふむふむとうれしそうにジャガイモさん太郎を見やりました。
小屋の中は静まり返りました。時が止まったかのような時間が流れます。
「溶岩風呂!空飛ぶサル!」
沈黙をやぶったのはジャガイモさん太郎の一言です。
「なんじゃなんじゃ?」
ニンじいが心配して尋ねます。
「座禅を組んでいたら、いつの間にか夢を見ていました。溶岩風呂に入りながら空を飛ぶサルを見ている夢です。」
「むむむ。これはただ事ではないな。みんな急げ。溶岩風呂をめざして出発するぞい。」
ジャガイモさん太郎とブタコさんはさっそく旅じたくにとりかかりましたが、タマネギ野郎はいつまでも動きません。よく見るとスヤスヤとねむっているではありませんか。
ニンじいの目をごまかしてねむるとは大したヤツだと思いながら、ジャガイモさん太郎はタマネギ野郎の肩をゆすりました。
修行の旅の始まりです。目的地は溶岩風呂。
「さあ行くぞ。雲に乗れ。」
ニンじいの前にモクモクとした白い雲が現れました。わたあめみたいでおいしそうです。
雲の上には、ニンじい、ブタコさん、ジャガイモさん太郎、タマネギ野郎の4人が乗り込みました。
「よし!出発じゃ!」
雲はゆっくりと上へ浮かんでいきました。小屋がアリくらいに小さく見えるほどの高さになったところで、今度はぐんぐん前に進んでいきました。ブタコさんの首に巻かれた花柄のオシャレなスカーフがなびいています。
「いったい溶岩風呂はどこにあるのですか?」
ジャガイモさん太郎が聞きました。
「溶岩といえば、火山じゃ。」
秘伝の巻きものを広げながらニンじいは答えます。巻きものといっても食べ物ではありません。先祖代々伝わる手紙のようなものです。
「この巻きものによれば、溶岩風呂はジャガイモ、タマネギ、ニンジン、豚肉の修行にうってつけと書いてあるぞい。わしらにピッタリじゃ。」
「空飛ぶサルもそこにいるのですか?」
「サルについては、正直なところよくわからん。どこかで聞いたこともある気もするが。」
雲は4人を乗せてビューンと進んでゆきます。
「着いたぞい。あれを見よ。」
ニンじいが示した先には、でっかい山がありました。今まで見たどの山よりも大きいです。ごつごつしていて、てっぺんからけむりが出ています。
「大きいな。あれが火山か。」タマネギ野郎がつぶやきました。
「お風呂をさがさなきゃ。」ジャガイモさん太郎は雲の間から目をこらしました。
「見つけた。あそこに看板がある!」目ざといブタコさんが叫びます。
「看板には『溶岩温泉』と書いてあるわ。」
「なに、温泉じゃと?よし!ひとっ風呂あびるぞい。」ニンじいは急にニコニコしはじめました。温泉に目がないのです。
「いらっしゃいませ。ようこそ溶岩温泉へ。ゆっくり休んでいってくださいね。」
温泉のおかみさんが笑顔で迎えてくれました。
4人は温泉に入りました。なんという心地よさでしょう。これまでの疲れが、ポカポカのお湯の中に溶けていくようです。
「極楽じゃ!極楽じゃ!」こんなにもふやけて、だらしのないニンじいを、今まで誰も見たことがありません。
「最高。お肌ツルツルよ。」ブタコさんは自慢のお肌をなでています。
「これは本当に修行なのか?」タマネギ野郎は鋭いことに気が付きましたが、みんな気持ちよくなってしまい、誰も聞く耳を持ちません。
「そうだ、空飛ぶサルを探さなきゃ。」ジャガイモさん太郎は気を取り直し、しばらく空を見ていましたが、火山から煙がモクモク出ているばかりで、目新しいものは何も見あたりません。
「いい湯じゃった。帰るぞい。」
ニンじいは帰り支度をはじめました。みんなには修行に行くと言っておきながら、本当は温泉に入りたかっただけなのです。まったくひどいおじいさんです。
その時です。
ドドドドドドドド!ドッカーン!!!
火山が爆発しました。
(後編に続く)
無敵の男と言われているジャガイモさん太郎ですが、今日は彼が今よりも少しだけ若かった頃のお話をします。
だれも知らない岩山の上に粗末な小屋がありました。この中でジャガイモさん太郎はきびしい修行をしていたのです。
ビシッ!
ビシッ!
するどい音が聞こえてきます。
ジャガイモさん太郎が「いてて、、、」ともらすと、とたんにビシッ!と音がします。
いったい何をしているのでしょうか?
そうです。ジャガイモさん太郎は座禅を組んでいるのです。
座禅の間は目をつぶって、じっと座っていなければなりません。
「頭の中を空っぽにするのじゃ。あれこれ考えが浮かんで来たら、四の五の言わず食べてしまえ。」
ニンジャの恰好をしたニンジンのおじいさんが声をかけます。ジャガイモさん太郎の師匠で名前は『ニンじい』といいます。平べったい木の棒を両手に持っています。
「少しでも動くとこうじゃ。」
ニンじいは棒を素早く振り上げ、ジャガイモさん太郎の肩にビシッと打ちつけました。痛いと言えばまた打たれるので何も言わずに我慢します。
ジャガイモさん太郎の隣にはタマネギのタマネギ野郎と豚肉のブタコさんも座っています。二人はジャガイモさん太郎と違って、少しも動きません。
どうして二人は動かないんだろう。考えようと思いましたが、考えると自然に体が右に左にゆらゆらと揺れてしまうのです。
そうするとまた、打たれてしまいます。ジャガイモさん太郎はどうして二人は動かないんだろうという思いをまるめて食べてしまいました。
そうやっていろいろな考えを、おなか一杯食べているうちに、いつの間にかジャガイモさん太郎は考えるのをやめていました。
ニンじいは、ふむふむとうれしそうにジャガイモさん太郎を見やりました。
小屋の中は静まり返りました。時が止まったかのような時間が流れます。
「溶岩風呂!空飛ぶサル!」
沈黙をやぶったのはジャガイモさん太郎の一言です。
「なんじゃなんじゃ?」
ニンじいが心配して尋ねます。
「座禅を組んでいたら、いつの間にか夢を見ていました。溶岩風呂に入りながら空を飛ぶサルを見ている夢です。」
「むむむ。これはただ事ではないな。みんな急げ。溶岩風呂をめざして出発するぞい。」
ジャガイモさん太郎とブタコさんはさっそく旅じたくにとりかかりましたが、タマネギ野郎はいつまでも動きません。よく見るとスヤスヤとねむっているではありませんか。
ニンじいの目をごまかしてねむるとは大したヤツだと思いながら、ジャガイモさん太郎はタマネギ野郎の肩をゆすりました。
修行の旅の始まりです。目的地は溶岩風呂。
「さあ行くぞ。雲に乗れ。」
ニンじいの前にモクモクとした白い雲が現れました。わたあめみたいでおいしそうです。
雲の上には、ニンじい、ブタコさん、ジャガイモさん太郎、タマネギ野郎の4人が乗り込みました。
「よし!出発じゃ!」
雲はゆっくりと上へ浮かんでいきました。小屋がアリくらいに小さく見えるほどの高さになったところで、今度はぐんぐん前に進んでいきました。ブタコさんの首に巻かれた花柄のオシャレなスカーフがなびいています。
「いったい溶岩風呂はどこにあるのですか?」
ジャガイモさん太郎が聞きました。
「溶岩といえば、火山じゃ。」
秘伝の巻きものを広げながらニンじいは答えます。巻きものといっても食べ物ではありません。先祖代々伝わる手紙のようなものです。
「この巻きものによれば、溶岩風呂はジャガイモ、タマネギ、ニンジン、豚肉の修行にうってつけと書いてあるぞい。わしらにピッタリじゃ。」
「空飛ぶサルもそこにいるのですか?」
「サルについては、正直なところよくわからん。どこかで聞いたこともある気もするが。」
雲は4人を乗せてビューンと進んでゆきます。
「着いたぞい。あれを見よ。」
ニンじいが示した先には、でっかい山がありました。今まで見たどの山よりも大きいです。ごつごつしていて、てっぺんからけむりが出ています。
「大きいな。あれが火山か。」タマネギ野郎がつぶやきました。
「お風呂をさがさなきゃ。」ジャガイモさん太郎は雲の間から目をこらしました。
「見つけた。あそこに看板がある!」目ざといブタコさんが叫びます。
「看板には『溶岩温泉』と書いてあるわ。」
「なに、温泉じゃと?よし!ひとっ風呂あびるぞい。」ニンじいは急にニコニコしはじめました。温泉に目がないのです。
「いらっしゃいませ。ようこそ溶岩温泉へ。ゆっくり休んでいってくださいね。」
温泉のおかみさんが笑顔で迎えてくれました。
4人は温泉に入りました。なんという心地よさでしょう。これまでの疲れが、ポカポカのお湯の中に溶けていくようです。
「極楽じゃ!極楽じゃ!」こんなにもふやけて、だらしのないニンじいを、今まで誰も見たことがありません。
「最高。お肌ツルツルよ。」ブタコさんは自慢のお肌をなでています。
「これは本当に修行なのか?」タマネギ野郎は鋭いことに気が付きましたが、みんな気持ちよくなってしまい、誰も聞く耳を持ちません。
「そうだ、空飛ぶサルを探さなきゃ。」ジャガイモさん太郎は気を取り直し、しばらく空を見ていましたが、火山から煙がモクモク出ているばかりで、目新しいものは何も見あたりません。
「いい湯じゃった。帰るぞい。」
ニンじいは帰り支度をはじめました。みんなには修行に行くと言っておきながら、本当は温泉に入りたかっただけなのです。まったくひどいおじいさんです。
その時です。
ドドドドドドドド!ドッカーン!!!
火山が爆発しました。
(後編に続く)
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ぼくちゃんスイッチ
透水るう
児童書・童話
今日もぼくちゃんはおおあばれ、パジャマを着せようとするお母さんをこまらせます。
『スイッチ押してください、スイッチ押して下さい』じっとしてないぼくちゃんとお母さんのやりとりです。
以前別タイトルで某所に出したものです。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる