タイムリミット

シナモン

文字の大きさ
上 下
6 / 81
タイムリミット

しおりを挟む
「お上手ですね」

 上手いこと言うじゃない。でもそこで真に受けないのが私よ。

「……賞味期限の切れた、と付け加えておきますね。年甲斐もなく見苦しいところをお見せして本当に申し訳ありませんでした」
「いいえ。そんなことは……。そういえばあの時も同じようなことを言われてましたね。失礼ですが、お年は」

 ダメ、女に年を聞くなんて。

「……僕は29です」

 黙っていると、察したのか彼が先に名乗った。

「28です。今年なりました」
「そうですか。近いですね」

 彼は再びにっこり微笑んだ。そして、

「あの、こういうところで言いにくいのですが、一度食事にでも行きませんか?」
「え?」

 これってお誘いなの? 私はすんなりハイと言えなかった。

「え、ええ。いいんでしょうか。私、靴まで……」大体靴って一日で直るものなの(笑)。
「それはもう忘れてください。本当は今の話がしたくて来たんですから。あ、仕事のついでと言うのは本当ですが」

 ドキドキするけど、「きゃー嬉しい!」とかできないって。岡地じゃないんだから。
 だがしかし……

「あなたの番号教えていただけませんか。後ほど連絡します」
「あ、はははい」

 慌てて番号を交換した。社会人の性か。きちんと挨拶されてしまっては無下にできませんわ。

「それじゃ、また」

 彼は道に待たせていた高級車に乗り込んだ。
 高そうな靴履いてたし、スーツも。お金持ちっていうのはどうやら間違いじゃなさそう。
 格付けか、やめとこ、振り返ると、私と同じ事をしていた人物に気が付いた。

「へ~。今の人。先輩の何ですか? お客さんじゃなさそう」
「……見てたわね」

 後輩の楠原くんだ。

「詮索は禁止よ」
「てことは完全プライベートなお知り合いですね? もしかして新しい彼氏?」

 勝手に決めないで! 私は無視して現場に戻った。
 彼の名はくすはらけんと。そこまで軽い子じゃないけど、今時の子には違いない。
 髪短くて色黒体育会系だろうか。顔は普通。

『先輩と付き合うのって何か根性試されそうですよね~』

 まだ何か言いたそうな、意地悪そうに笑う彼の顔を見てると、ふと以前楠原くんに言われた言葉が頭をよぎった。

『喧嘩になったときマジ悲惨なことになりそー』

 そんなことも言われたっけ。失礼ね。みんなデカイ女に冷たいの。男よりも男らしい女だとかさんざん言われてきましたわ。

『こわいっすよねー。九州弁でまくしたてられると。一気にひいちゃいますよ』

 極めつけはこれだ。どうも酒の席でお国言葉を連発しちゃうらしい。地元じゃ全然普通だと思うんだけどね。東京じゃやっぱ、受け入れられんとよ……。  
 女28歳。独身。身長175センチ。F県出身。バリバリの九州女。
 この壁は相当、厚い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...