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【前日譚】都筑家の事情
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香港に滞在し、改めて思うことがある。
香港には風水師の監修の下、あちこちに奇妙な建て方をしているビルが存在する。
香港だけでなく中国の大都市はどこも基本風水に基づいて計画がなされているが香港は特に際立つ。
大きな空洞のあるビルや、複雑な形状をしたビル。気の流れをよくするためにあえてそうデザインされているのだ。
もっとも有名なのは中国銀行ビルと香港上海銀行ビル、統治時代の政府関連のビルだろう。
後に建立した中国銀行のビルは鋭利なカッターをほうふつさせる形をしており、刃先がそれらのビルに向けられているのだ。
明らかに敵対心満々のデザインだが、それに対抗して後年香港上海ビルの屋上に砲台が付け加えられた。
もちろん照準は中国銀行ビルだ。砲台とは…。冗談のような事実である。
香港上海銀行のシンボルと言えば堂々たる獅子像である。
そしてこの部屋にも大きな獅子の顔が4体埋め込まれている。
獅子に囲まれたメインエリアの長いソファに寝そべり見上げるとまるで獅子に守られているようにも思える。
ひょっとしてこれも何か意味があるのか…。
「君は風水を信じる?」
ライオンの壁の裏側にあるバーコーナーから出てきたシンイーに聞いてみた。
「もちろんよ。気の流れが悪そうな場所にはいかないわ」
「わかるのか」
「なんとなくね。あと調子悪いとき、病院じゃなくて風水師のところに行く人もいるわ」
「へえ」
「よくなるんだって。私はさすがに病院へ行くけど」
はい、と飲み物を渡された。
抹茶リキュールのカクテルと緑茶にヤクルトを混ぜた台湾式のジュースだ。
「なに? カクテルにカルピス入れるの初めて見た。甘党だった?」と彼女は隣のソファに腰かけた。
「たまに飲みたくなるんだよ」
起き上がり薄いグリーンのメロンのような色をしたふわふわの飲み物に口をつけた。今日はバーテンダーを呼んでいる。
「どんな味?」
「そのままだよ、抹茶とカルピスの味」
ミントやら果汁は混じってるがおおむねそうだ。
子供のころ母が色んなミックスカルピスを作ってくれた。
奇妙なことに風邪気味の時濃いめのカルピスを飲むとすぐによくなった。
それが身体に沁みついているのだろう。
「…風水と言えばこの部屋も最強よね。風水的に」
「え?」
「獅子の像が4つも…。四神じゃないけど、やっぱり聖獣でしょう。それに私獅子座だし」
「ああ、占いの話」
「すごいパワーをもらえる気がする。出来たらずっとこの部屋にいれたらいいな」
「それはどういう意味」
「仲良く出来たらいいなってこと。わがままは言わないわ」
やっぱり部屋目当てなんじゃないか。
守り神ねえ。
そんな見方をする人間もいるんだな。
獅子に守られているのだろうか…。
なんだか守られすぎてつまらない男になってやしないか。
「ねえ、カルピスって全色揃ってるの」
「ああ、味が? たぶんね」
「何か作ってもらおうかな。美味しそうね」
「半分薬のつもりで飲んでるんだけどね」
「是因为它是乳酸菌吗?」
なんだ、いきなり。
「ああ」
「私はマミーが好きなの。日本へ行くと必ず買って帰るわ」
「日本のものは大概上海にも売ってるんじゃないか」
「あるかもしれないけど見たことない」
というかマミーってなんだ?
「ヤクルトみたいなジュースもあるでしょ、日本にはいろんな種類があるわ、乳酸菌」
乳酸菌が言いにくいのか。そこだけ中国読みになってる。
「きれいな夜景…」
ずっといたいと言われて少しざわっとした。
いよいよ結婚を意識しだしたか。
…あれ以来、茂木から連絡はなく、趣味もきっぱりやめたのか何も知らない。
もしも茂木が結婚するなんてことになれば、すぐにも話が回ってくるだろう。
茂木の父親とうちの父は非常に親しい。
香港には風水師の監修の下、あちこちに奇妙な建て方をしているビルが存在する。
香港だけでなく中国の大都市はどこも基本風水に基づいて計画がなされているが香港は特に際立つ。
大きな空洞のあるビルや、複雑な形状をしたビル。気の流れをよくするためにあえてそうデザインされているのだ。
もっとも有名なのは中国銀行ビルと香港上海銀行ビル、統治時代の政府関連のビルだろう。
後に建立した中国銀行のビルは鋭利なカッターをほうふつさせる形をしており、刃先がそれらのビルに向けられているのだ。
明らかに敵対心満々のデザインだが、それに対抗して後年香港上海ビルの屋上に砲台が付け加えられた。
もちろん照準は中国銀行ビルだ。砲台とは…。冗談のような事実である。
香港上海銀行のシンボルと言えば堂々たる獅子像である。
そしてこの部屋にも大きな獅子の顔が4体埋め込まれている。
獅子に囲まれたメインエリアの長いソファに寝そべり見上げるとまるで獅子に守られているようにも思える。
ひょっとしてこれも何か意味があるのか…。
「君は風水を信じる?」
ライオンの壁の裏側にあるバーコーナーから出てきたシンイーに聞いてみた。
「もちろんよ。気の流れが悪そうな場所にはいかないわ」
「わかるのか」
「なんとなくね。あと調子悪いとき、病院じゃなくて風水師のところに行く人もいるわ」
「へえ」
「よくなるんだって。私はさすがに病院へ行くけど」
はい、と飲み物を渡された。
抹茶リキュールのカクテルと緑茶にヤクルトを混ぜた台湾式のジュースだ。
「なに? カクテルにカルピス入れるの初めて見た。甘党だった?」と彼女は隣のソファに腰かけた。
「たまに飲みたくなるんだよ」
起き上がり薄いグリーンのメロンのような色をしたふわふわの飲み物に口をつけた。今日はバーテンダーを呼んでいる。
「どんな味?」
「そのままだよ、抹茶とカルピスの味」
ミントやら果汁は混じってるがおおむねそうだ。
子供のころ母が色んなミックスカルピスを作ってくれた。
奇妙なことに風邪気味の時濃いめのカルピスを飲むとすぐによくなった。
それが身体に沁みついているのだろう。
「…風水と言えばこの部屋も最強よね。風水的に」
「え?」
「獅子の像が4つも…。四神じゃないけど、やっぱり聖獣でしょう。それに私獅子座だし」
「ああ、占いの話」
「すごいパワーをもらえる気がする。出来たらずっとこの部屋にいれたらいいな」
「それはどういう意味」
「仲良く出来たらいいなってこと。わがままは言わないわ」
やっぱり部屋目当てなんじゃないか。
守り神ねえ。
そんな見方をする人間もいるんだな。
獅子に守られているのだろうか…。
なんだか守られすぎてつまらない男になってやしないか。
「ねえ、カルピスって全色揃ってるの」
「ああ、味が? たぶんね」
「何か作ってもらおうかな。美味しそうね」
「半分薬のつもりで飲んでるんだけどね」
「是因为它是乳酸菌吗?」
なんだ、いきなり。
「ああ」
「私はマミーが好きなの。日本へ行くと必ず買って帰るわ」
「日本のものは大概上海にも売ってるんじゃないか」
「あるかもしれないけど見たことない」
というかマミーってなんだ?
「ヤクルトみたいなジュースもあるでしょ、日本にはいろんな種類があるわ、乳酸菌」
乳酸菌が言いにくいのか。そこだけ中国読みになってる。
「きれいな夜景…」
ずっといたいと言われて少しざわっとした。
いよいよ結婚を意識しだしたか。
…あれ以来、茂木から連絡はなく、趣味もきっぱりやめたのか何も知らない。
もしも茂木が結婚するなんてことになれば、すぐにも話が回ってくるだろう。
茂木の父親とうちの父は非常に親しい。
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