タイムリミット

シナモン

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【前日譚】都筑家の事情 

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「先生素敵」
「映える」
「すごいよね、大金持ち夫人の座を捨てて建築家だものね」
「…私には無理。死んでもその座にしがみつくわ」

香港島、摩天楼に囲まれたホテルのティールームで取材を受ける玲子の姿を、建築事務所、出版社、現地コーディネーターが離れた席から見ていた。

「そりゃそうよ」
北条玲子は白っぽいスーツからラベンダー…薄い紫にも見えるセットアップへ衣装を着替え、
「かっこいい~。小顔で、目がクリッとしてて…いいなぁ」スタイリストが用意した最新のデザインがぴったりはまり、結い上げた栗色の髪が姿勢の良さと相まってきりりと凛々しい。
「日本に短期留学に来ていたご主人に見初められたのよね、ロマンス小説みたい」
女子の一人はうっとりと宙を仰いだ。
「まるでデヴィ夫人。あー、そういう出会いってあるんだぁ」
「実際は大変でしょうけどね」
「ロマンス小説でも受けるよ。大金持ちに見初められて、道楽でインテリアデザイナーして…」
「それでも話になるよね」
「有閑マダムのデザインするインテリア…先生のデザインもそれ風だけど」
曲線を多用した優雅なデザイン、それでいて突飛でなく女性らしい生活に沿うアイディアに溢れ、そこが高く評価される所以でもある。
「このティールームも素敵~」モダンなシャンデリア、多角形の大きな見晴窓より、香港の風景を立体的に眺めることができる。
「飲茶に点心にタイ料理ベトナム料理…なかなかここまでたどり着けないなー、見るところ一杯で」
香港式の英国流アフタヌーンティー…三段のトレーのチャイナ皿に色とりどりの細工のされた細やかな香港菓子が並ぶ。
「美味しい」
「友達はいまだにパンケーキパンケーキ言ってるけど、私はふわとろはもういいわ」
「ハワイもいいけどね~、この景色見ちゃうとこっちも全然ありだわ」
「月餅やエッグタルトがOKならいいよね」
「八角に耐えられれば台湾もね」

芸能事務所関連のクルーとは別行動で、そちらはそちらで俳優陣の取材に回っている。

「…芸能人は相変わらず欧米志向よね。取材で何度も行ったわ」
「そうだよね、フライトが疲れるのよね」
「最初はテンション高くても、長くなると食事はうどんやラーメンばっかり」
そこで同時に笑った。
「『やっぱヨーロッパだよなあ~』とかいきっててもねえ」ある俳優への嘲笑にかわる。
「アイツね、アイツ。日本でいくら人気があってもね。長身と並ぶとねえ」映画では事実にない当て馬役の俳優がいるのだ。
「頭身バランスはどうしようもないよね」
「勘違い俺様野郎」
「喋れないのに無理して英語使いたがるよね。先生、中国語で挨拶してかっこよかった~」
「欧米かぁ~(笑)。ブランドの服着ても似合ってないよね」
「せいぜい靴とバッグよ。それでも飛びつくほどの情熱がなくなっちゃった」
「履いて捨てるほどのお金を持ってないとね」
「やっぱり大金持ちよねー…」
「先生のご主人、どんな人だったのかな…。意外と身近にいる人だったりして」
「身近? ないでしょ。大富豪なのは間違いないってよ」
「そうよねぇ…」

「ね、ビクトリアピーク行ってみない? 実は行ったことないの」
「ホント? 実は私も行ったことない」
「でも関さんは…」
「またメールするって言われたけど」
顔を見合わせ、じゃあ、そうする? 意見はまとまった。




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