タイムリミット

シナモン

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【裏話】シンデレラはお気に召さない

理想の妻を手に入れるには

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早まってしまったかな…。


数時間前の会話を推敲しては後悔している。
塔子さんは隣で眠っている。


『さ、酒癖が悪いんです、わたし! とてもあなたにお見せできませんわ!』

なんていうから、様子をうかがっているのだが…。






また失敗したか…。

無言で皿の料理を拾いながら、気分は沈んだ。

塔子さんを茂木に会わせて、彼の趣味に付き合ってもらった。
小さなダンスホールで、中華人に向けた変わり種のショーを一緒に見て、彼女は驚いていたようだったが。
殺陣と言った方が近いだろうか。演者は女性だけだ。

それから上の部屋に上がり…。
食事前に話したのはいいが、

またまた父の話をして引かれたか…。
それよりも結婚を口走ったのがまずかったか…。


『僕の妻の欄をあなたのお名前で埋めてほしいのです』


後悔しても遅いが、
どうしても先走ってしまう。
本心中の本心だ。
つまるところ、僕は塔子さんと結婚したい。

だが話をするほど誤解されてる気がする。


静かにデザートを食べ終え、広めのソファでカクテルでも…と、席を移ってしばらくして、彼女の体が肩にずれ込んだ。

……え?

すやすや寝息が聞こえた。

「塔子さん」

それから1時間…。

彼女の目は開かない。




抱き寄せるとふわっと髪の毛が広がり、女性の香りがした。
丸みを帯びた大きなカウチ風のソファで二人で寝転んでも十分スペースはある。

悪酔いとはどんな感じになるんだろう?
待ってるがそういう気配はない。

飲んだのは食前酒とワインが少しだがね。

もしかしてアルコールに弱いのだろうか?
 

『あなたは…今思いを寄せている男性がいますか?』
『いませんわ、そんな人』

彼女は過去に大恋愛して傷ついた思い出でもあるんじゃないか。
何となくそんな気がした。
それがこんな擦れた反応をする原因じゃないか。

敗北を認めたくなくてそんな風にも思った。

…すぐ目の前に顔があるのに。
…目が開きそうにない。

こんなに近くにいて何もできないか。

わかりきっている。そんなことをしたら逆効果だろう。


仕方なく
スマホを出して電子書籍を読んでみることにした。

例の恋愛バイブルという名作だ。
読み進めていくうち、ヒロインが塔子さんに見えてきた。
勇ましく、背が高く、男にこびない…。
僕はこういうきつめの女性に惹かれるのだろうか。

容赦ないラストだ。それゆえ深い余韻を残す…。
男性陣には興味をひかれず、読み直し。

後半はジャンヌダルクがモデルなのだろうか、時折ほうふつさせるシーンがある。
ジャンヌダルクも最期は悲惨だ。
創作はドラマチックに脚色される。
少年のころ読んだ童話は大人になって原本の存在を知り、衝撃を受ける。
現実はフィクションよりシビアだ。

誰も肝心なことは教えてくれない、自分で何とかするしかない。

あどけない寝顔を眺めながらうとうとしかけ…。

ふと気づいた。
女性に付き添うなんて初めてだ。
やっぱり彼女は他の女性と違うようだ。

それがいつもと逆になかなかうまくすすまない。

『頑張ってな~。いい返事もらえるといいな』
と、茂木に送り出してもらったはいいが…。

どうしてもうまく言えない。
プロポーズってどうやればいいんだ?

あなたに近づくためにこんなに苦労しているんだと正直に言った方がいいのか。

それとも気分転換に旅行に誘うか。


朝になったら誘おう…。
彼女はすやすや眠っている。

そっと頬を合わせた。

女性に対して張っていたシールドがすべて消えて、本能があらわれた。
さすがに寝込みを襲うわけにいかないから眠り姫をそばで見ているだけ…。それでもこんなに満たされる。

うとうとしかけてはスマホをいじって。
電子書籍、こんなところで役に立つか。

昔夢中になって読んでいたSF小説があったな。
近い未来。重力の概念が解き放たれ、古生代の貝や植物の実をモチーフにしたスペースコロニーでふわふわ浮遊して遊ぶシーンがあった。
地上は整地されたジャングルのような景色が続いていて、人々は山の内部に都市を作り暮らしている。ドローンのような乗り物で衛星軌道上に浮かぶ天の都へと移動する。星と星は亜空間ゲートシステムでつながり、自由に行き来ができる。

大人になる頃にはこんな世界になるのだと思っていた。

それから月日が過ぎそろそろ30になる。


父に催促され、まどかを見せられてそれで焦ったわけじゃない。

それでもこのタイミングで出会ってしまったからには何とかしたい。


『仮にあなたに最愛の男性が現れて二人で逃避行しても、僕は離婚したくない』

こうなったらもう彼女の夫であればいい。心を奪おうなんて思わない。

既に負けを認めているようなものだが、勝ち負けじゃないんだ。
照準を結婚に切り替える。婚姻届けをゴールに設定する。


起きそうになくてそっと立ち上がった。酔っぱらうと乱痴気騒ぎにでもなるのだろうか。断る口実なのかもしれないが、そんなことは経験済み、気にしませんよ。

どうぞごゆっくり……。

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