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タイムリミット
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「せんぱーい。所長がお呼びです」
「はーい」
デスクで図面起こしてるとお声がかかり、パーテーションで仕切られた製図デスクが並ぶ部屋から気持ちおしゃれな自称所長室のドアを開けた。
「九鬼ちゃん、どう? 話進んでる?」
「ええ、まあまあ」
進んでいるのは、主にめだか関係で製図はさっぱり。
「今週末までに仕上げて見ていただこうかと」
「大丈夫?」
所長はずらした眼鏡の奥の目をぎょろっと見上げた。
なんともなってませーん。もう普通にフローリングにして、バリっぽいベッド並べて、それっぽい水回り…etc。これ提出するしかない。
「無理なら早めに言ってね。お得意様のご希望にそえないのは残念だけど、中途半端に仕上げて後でクレームもらうわけにいかないからね」
「はい」
そうなのよ。
所長の言う通り。
これが普通のハウスメーカーだと、ノルマもあるし、メーカーだから在庫抱えてたりするし、セット売りで安くしたりして割とごり押しで進めたりするんだけど、うちみたいな設計事務所に依頼されるのはそういう工務店ごり押しの同じような間取りのおうちじゃ満足いかないって方が多い。だからキッチンをオリジナルで創作したり、窓の位置を通風を考えて細かく検討したり、いろいろ融通きくところが利点なのだ。
だけどこの度は……。
「仕事まわしといてこんなこと言うのも気が引けるけど…。むずいよねえ、バリ風カフェとも違うしねえ」
残念そうな表情。社長、地方大卒で苦労して事務所持って、メディアにも載ったりして頑張っているのに、一般住居もまあまあの数こなしているのに、バリってだけで苦戦したくないよね…。
「おそらく奥様は畳が嫌なんだろうねえ。和風にしかならないよね」
「そうなんですよね…」
畳の上を駆け回るゆうとくんを思うと心苦しいけど。パパさんにも申し訳ないけど。
とりあえずこれ見せて反応伺うしかないわ。
「ご希望通りフローリングにして、柱と屋根の色を変えたパターンを見せてみます」
「わかった」
なんかもったいないなあ…。もっといい案がないかな。
これだと新築っぽくてなんちゃってバリ風に見える…。
いや、うちの希望優先しちゃだめだから。
書きかけの製図を前にため息…。
「わぁ、いいですね」
数日後、完成予想図を西越様にお見せした。
「家具の数は控えめにしていますが、後で増やせます。ベッドも含めてデザインは追々決めていきましょう」
「ええ、そうですね。またピックアップしておきます!」
「もしどうしてもというデザインがあればオリジナルでも対応できますので」
「はい!」
「フローリングを畳の間に変更もできますがどうしますか」
「あ、いらないです」
やっぱりね。
「それで、こちらがお風呂、キッチン、お手洗いのイメージで…」
奥様嬉しそう。ゆうとくんとパパさんのこと思うと胸が痛いけど仕方ないわ…。畳はNG!
「あのう」
「はい」
「色身をもう少し明るく出来ますか。屋根の色は変えなくていいです。床も明るめで」
…そうなの?
「こんな感じ…ですかね」
CGに起こしたものをタブレットで色変更をして見せると奥様は熱心にのぞき込んで、
「もう少し薄く…家具も濃くなくていいです」
まるでカラー染めの見本から色身を選択するようにパパッと選び色を変えていく。
「…わかりました」
かなり色が抜かれ、別の部屋のようになった。美容院の内装とは違うわ、確かに…。私の勉強不足かしら。これ…バリ風? なんかイメージつかみにくいなあ。
「はーい」
デスクで図面起こしてるとお声がかかり、パーテーションで仕切られた製図デスクが並ぶ部屋から気持ちおしゃれな自称所長室のドアを開けた。
「九鬼ちゃん、どう? 話進んでる?」
「ええ、まあまあ」
進んでいるのは、主にめだか関係で製図はさっぱり。
「今週末までに仕上げて見ていただこうかと」
「大丈夫?」
所長はずらした眼鏡の奥の目をぎょろっと見上げた。
なんともなってませーん。もう普通にフローリングにして、バリっぽいベッド並べて、それっぽい水回り…etc。これ提出するしかない。
「無理なら早めに言ってね。お得意様のご希望にそえないのは残念だけど、中途半端に仕上げて後でクレームもらうわけにいかないからね」
「はい」
そうなのよ。
所長の言う通り。
これが普通のハウスメーカーだと、ノルマもあるし、メーカーだから在庫抱えてたりするし、セット売りで安くしたりして割とごり押しで進めたりするんだけど、うちみたいな設計事務所に依頼されるのはそういう工務店ごり押しの同じような間取りのおうちじゃ満足いかないって方が多い。だからキッチンをオリジナルで創作したり、窓の位置を通風を考えて細かく検討したり、いろいろ融通きくところが利点なのだ。
だけどこの度は……。
「仕事まわしといてこんなこと言うのも気が引けるけど…。むずいよねえ、バリ風カフェとも違うしねえ」
残念そうな表情。社長、地方大卒で苦労して事務所持って、メディアにも載ったりして頑張っているのに、一般住居もまあまあの数こなしているのに、バリってだけで苦戦したくないよね…。
「おそらく奥様は畳が嫌なんだろうねえ。和風にしかならないよね」
「そうなんですよね…」
畳の上を駆け回るゆうとくんを思うと心苦しいけど。パパさんにも申し訳ないけど。
とりあえずこれ見せて反応伺うしかないわ。
「ご希望通りフローリングにして、柱と屋根の色を変えたパターンを見せてみます」
「わかった」
なんかもったいないなあ…。もっといい案がないかな。
これだと新築っぽくてなんちゃってバリ風に見える…。
いや、うちの希望優先しちゃだめだから。
書きかけの製図を前にため息…。
「わぁ、いいですね」
数日後、完成予想図を西越様にお見せした。
「家具の数は控えめにしていますが、後で増やせます。ベッドも含めてデザインは追々決めていきましょう」
「ええ、そうですね。またピックアップしておきます!」
「もしどうしてもというデザインがあればオリジナルでも対応できますので」
「はい!」
「フローリングを畳の間に変更もできますがどうしますか」
「あ、いらないです」
やっぱりね。
「それで、こちらがお風呂、キッチン、お手洗いのイメージで…」
奥様嬉しそう。ゆうとくんとパパさんのこと思うと胸が痛いけど仕方ないわ…。畳はNG!
「あのう」
「はい」
「色身をもう少し明るく出来ますか。屋根の色は変えなくていいです。床も明るめで」
…そうなの?
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CGに起こしたものをタブレットで色変更をして見せると奥様は熱心にのぞき込んで、
「もう少し薄く…家具も濃くなくていいです」
まるでカラー染めの見本から色身を選択するようにパパッと選び色を変えていく。
「…わかりました」
かなり色が抜かれ、別の部屋のようになった。美容院の内装とは違うわ、確かに…。私の勉強不足かしら。これ…バリ風? なんかイメージつかみにくいなあ。
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