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4話
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「何事もなくてよかったよ」
「は、はあ…」
会長の怒ってるようなあきれた表情に返す言葉がなかった。
「もっと自覚を持ってもらいたいものだね。いかに部下といえど若い女性の太腿に大きな針を打つのは気が引けるしな」
キャ、そんないい方しなくても。
アレルギー剤がそんな大層なものだなんて知らないから…。
針が内蔵されてて筋肉に注射するらしい。
「一人でいる方が危険か。君…自分で打てるのか? 奥まで差し込むの、かなり力がいるぞ」
あーあ、せっかくの休日ドライブなのに説教かい…、まったく、会長らしいわ。
高級ハイヤーは山道を抜け、高速道を東京目指して走る。
隣の会長は腕組みしたまま斜め前を向いてる。
何か会話を変える術はないかな。
「い、伊勢海老を調理できなくて残念でした」
「そうだね。…そのうち自由に捕れなくなるかもしれないな」
伊勢海老どころか海老、カニの類が全部駄目だなんて、これは思った以上に不自由になるわ。
エビカニグラタン系はホタテやイカで代用か…。
「あんなところに天然の漁場があるなんてね」
崖を下って潮の引いた岩場を伝って行くらしい。
まあ、簡単に行ける場所ではないけれど、私のせいで案内できなかったんだよねー。サーセン。
「…そんなことよりも君、無防備にもほどがあるだろう、少しはセーブしないと。新宿や渋谷を歩いていて突然発作が起きたらどうするんだ? まずは思い付きで何が入ってるかわからないものを口に入れないようにしないと。アレルギーおきやすいものも避ける」
「はい」
そうだった…。さっそくチーズをばかすか食らってしまった。
そして甲殻類エキス。世の中のあらゆるものに混ぜ込まれている…。隠れた大物。
もう、説教うざーなんて言えない事態なんだった。
「ちょうどいい、街歩きを再現して、意識を変えようじゃないか」
「はあ…」
今後は気楽に海鮮丼なんて選べない…。地味に重篤人じゃないの。
しばらく進んで、海浜エリアの灯りが見えてきた。
まだ暮れるには早く、日が傾いたかなーというくらい。
「そこでおりてくれ」
お、高速おりるのか。
もしかして幕張ビル群のホテルでお食事かなー。結構な摩天楼よねー。
なんてワクワクしてると、車はビル群じゃなくて車列ができてる方・・・。そちらにハンドルを切る。
「あの前でいい」
「はい」
アルファベットのロゴが燦然と光る巨大な建物。
ええ!? ここ?
でかいショッピングモールの正面玄関につけた。
車を降りてそのまま中に入り、会長について歩く。
さすが人が多いわ。ほぼ家族連れやカップル、友達同士…な中、
会長は上を見まわしたり、腕組みしたり…スーツ姿で浮いてるんですけどー。
本部から視察に来た幹部社員みたい。
「天井高いんだな…。店が連なっているのか」
マジで視察なの?
「キミはこういう店、よく来るのか」
こっち向かれた。
「えっ、いえ…何回もってわけじゃないですけど…」
この店に限っては大学時代含めて数回程度か。
地方上京民としては都内になれちゃうと郊外モールは行かないのではないか。車がないし、電車でわざわざ行かないわ、都心で間に合うもん。
「そうか。家族向けかな。車の列がすごかったな」
「はい」
私的にはむしろこの周りのホテルの高級レストランの方がよかったな~。こういうところは地元で友達連中と来るに限る。島根にこんなに大きなモールはないけどね。
きょろきょろ見ながら歩いて、私は内心ハラハラ。
れっきとした視察ですよね? 同業他社だけど、こんなに堂々と歩いちゃって。いいの?
「ああ、こういうのだな、気を付けないといけないのは」
スーパーマーケットエリアにたどり着き、会長はひょいとかまぼこを手に取ってかざした。どこどこ?とみると、
『原料がえびやかにを捕食しています』
と注意書きがしてある。
「これは・・大丈夫でしょう」
かまぼこですよ?と見上げると、
「ほら、そういうところが緩いんだよ。油断して食べてるとついつい重複してとってしまうんだ。ほとんどの魚が小さな海老やカニを餌にしてると認識しておかないと。医者がOK出すまでしばらく断った方がいいよ」ちょっと強めに言われた。
じゃあ、わが故郷の美味しいかまぼこもダメなんかい。
うどんやそば食べるときどうするの。必需品でしょ。
「一切れくらいいいんじゃないですか」
「…何もなければいいかもしれないが、今日の様子だと不安だね。キミ、同じものを食べすぎなんだよ」
「ううっ」確かに残ったかまぼこ頂いちゃうかも。
それから食品売り場を見て回った。いちいち手に取ってラベルを確認していく。
おいおい、保健所の抜き打ち検査かい。お店の人に怪しまれないかな。
「【エビエキス】これは完全にアウトだな」ブツブツ…。「これは【その他】表示が多い」成分表示もシャンプー並みに細かいのとそうでもないのと色々。それをチェックしまくって、べらぼーに意識高い人みたい。
「加工食品はかなりダメなんだな。禁止リスト作った方がいいんじゃないか」カップ麺禁止ね。「酵母エキスというのも怪しいな。酵母にもいろいろあるしな」えらい細かいな。
「ああっ」
ひょいと取った瓶の成分表示を見てつい叫んだ。
エスニック食材の海老ペースト…カニぺースト…。
そうだ、これもダメなんだ。
チャーハンに入れたりサラダのドレッシングに混ぜたりたまに使うのに。
タイカレーやトムヤムクンもダメ!
ひえ~~。
「は、はあ…」
会長の怒ってるようなあきれた表情に返す言葉がなかった。
「もっと自覚を持ってもらいたいものだね。いかに部下といえど若い女性の太腿に大きな針を打つのは気が引けるしな」
キャ、そんないい方しなくても。
アレルギー剤がそんな大層なものだなんて知らないから…。
針が内蔵されてて筋肉に注射するらしい。
「一人でいる方が危険か。君…自分で打てるのか? 奥まで差し込むの、かなり力がいるぞ」
あーあ、せっかくの休日ドライブなのに説教かい…、まったく、会長らしいわ。
高級ハイヤーは山道を抜け、高速道を東京目指して走る。
隣の会長は腕組みしたまま斜め前を向いてる。
何か会話を変える術はないかな。
「い、伊勢海老を調理できなくて残念でした」
「そうだね。…そのうち自由に捕れなくなるかもしれないな」
伊勢海老どころか海老、カニの類が全部駄目だなんて、これは思った以上に不自由になるわ。
エビカニグラタン系はホタテやイカで代用か…。
「あんなところに天然の漁場があるなんてね」
崖を下って潮の引いた岩場を伝って行くらしい。
まあ、簡単に行ける場所ではないけれど、私のせいで案内できなかったんだよねー。サーセン。
「…そんなことよりも君、無防備にもほどがあるだろう、少しはセーブしないと。新宿や渋谷を歩いていて突然発作が起きたらどうするんだ? まずは思い付きで何が入ってるかわからないものを口に入れないようにしないと。アレルギーおきやすいものも避ける」
「はい」
そうだった…。さっそくチーズをばかすか食らってしまった。
そして甲殻類エキス。世の中のあらゆるものに混ぜ込まれている…。隠れた大物。
もう、説教うざーなんて言えない事態なんだった。
「ちょうどいい、街歩きを再現して、意識を変えようじゃないか」
「はあ…」
今後は気楽に海鮮丼なんて選べない…。地味に重篤人じゃないの。
しばらく進んで、海浜エリアの灯りが見えてきた。
まだ暮れるには早く、日が傾いたかなーというくらい。
「そこでおりてくれ」
お、高速おりるのか。
もしかして幕張ビル群のホテルでお食事かなー。結構な摩天楼よねー。
なんてワクワクしてると、車はビル群じゃなくて車列ができてる方・・・。そちらにハンドルを切る。
「あの前でいい」
「はい」
アルファベットのロゴが燦然と光る巨大な建物。
ええ!? ここ?
でかいショッピングモールの正面玄関につけた。
車を降りてそのまま中に入り、会長について歩く。
さすが人が多いわ。ほぼ家族連れやカップル、友達同士…な中、
会長は上を見まわしたり、腕組みしたり…スーツ姿で浮いてるんですけどー。
本部から視察に来た幹部社員みたい。
「天井高いんだな…。店が連なっているのか」
マジで視察なの?
「キミはこういう店、よく来るのか」
こっち向かれた。
「えっ、いえ…何回もってわけじゃないですけど…」
この店に限っては大学時代含めて数回程度か。
地方上京民としては都内になれちゃうと郊外モールは行かないのではないか。車がないし、電車でわざわざ行かないわ、都心で間に合うもん。
「そうか。家族向けかな。車の列がすごかったな」
「はい」
私的にはむしろこの周りのホテルの高級レストランの方がよかったな~。こういうところは地元で友達連中と来るに限る。島根にこんなに大きなモールはないけどね。
きょろきょろ見ながら歩いて、私は内心ハラハラ。
れっきとした視察ですよね? 同業他社だけど、こんなに堂々と歩いちゃって。いいの?
「ああ、こういうのだな、気を付けないといけないのは」
スーパーマーケットエリアにたどり着き、会長はひょいとかまぼこを手に取ってかざした。どこどこ?とみると、
『原料がえびやかにを捕食しています』
と注意書きがしてある。
「これは・・大丈夫でしょう」
かまぼこですよ?と見上げると、
「ほら、そういうところが緩いんだよ。油断して食べてるとついつい重複してとってしまうんだ。ほとんどの魚が小さな海老やカニを餌にしてると認識しておかないと。医者がOK出すまでしばらく断った方がいいよ」ちょっと強めに言われた。
じゃあ、わが故郷の美味しいかまぼこもダメなんかい。
うどんやそば食べるときどうするの。必需品でしょ。
「一切れくらいいいんじゃないですか」
「…何もなければいいかもしれないが、今日の様子だと不安だね。キミ、同じものを食べすぎなんだよ」
「ううっ」確かに残ったかまぼこ頂いちゃうかも。
それから食品売り場を見て回った。いちいち手に取ってラベルを確認していく。
おいおい、保健所の抜き打ち検査かい。お店の人に怪しまれないかな。
「【エビエキス】これは完全にアウトだな」ブツブツ…。「これは【その他】表示が多い」成分表示もシャンプー並みに細かいのとそうでもないのと色々。それをチェックしまくって、べらぼーに意識高い人みたい。
「加工食品はかなりダメなんだな。禁止リスト作った方がいいんじゃないか」カップ麺禁止ね。「酵母エキスというのも怪しいな。酵母にもいろいろあるしな」えらい細かいな。
「ああっ」
ひょいと取った瓶の成分表示を見てつい叫んだ。
エスニック食材の海老ペースト…カニぺースト…。
そうだ、これもダメなんだ。
チャーハンに入れたりサラダのドレッシングに混ぜたりたまに使うのに。
タイカレーやトムヤムクンもダメ!
ひえ~~。
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