会長にコーヒーを

シナモン

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4話

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 パーティ第二弾は高広くんの話で盛り上がり、英語なので私はよくわからず、黙って聞いていた。
 ピザの匂いから肉の焼けるいい匂いに変わってる。

「…残念ねえ、いい漁場があったのに」ルリカさんが耳元で言った。
「え、なんのですか」
「伊勢海老よ。本当はそれ採ってきてBBQのはずだったの」今はステーキとソーセージを大きなグリルでレオさんとアランさんメインで焼いている。
「そうだったんですか、…すみません」
「ああ、そういうつもりじゃないんだけど。ナルさん釣りとゴルフで房総によく来るでしょ」

 そっか、それが唯一の気晴らしだもんね、会長…。

「レックスのお話、上手くいくといいね。ナルさん、アメリカじゃもう少しソフトなはずよ。私はあんまり知らないんだけど」
 そっか…? 以前アメリカ出張で『食事が合わない!』って戻ってきたけどな。
 
 

「市川さんには当分無理ね。洞窟に海老がうじゃうじゃいるんだから。最近近所の人に聞いたのよ」

 おっ…。聞くだけで背筋に寒気が。
 あーあ、出張行く前は何でもなかったのに。
 伊勢海老をさばく会長の見事な腕前ももう見れないのか…。
 あれを秘書さんたちの前で披露したらうけるのに。
 会長…。

「会長に教えてあげてください。釣りはお好きみたいで」
「ええ」



 室内に移って、あらかじめ焼いておいたエッグタルトとシュークリームを皿にのせてカウンターに運んだ。
 カウンター席が10席ほどあって、丸いテーブルが5つ。アランさんがハンドドリップでコーヒーを入れてる。
 コーヒーの粉に湯を注ぐと途端にコーヒーの薫りが部屋に広がった。

 
「いい景色…。落ち着きますねえ」
「フフ…。台風シーズンが怖いけどね」

 ルリカさんはコーヒーを出してくれた。

「それがありますかぁ…。暴風雨? この海からは想像できませんね」
 島根にも嵐が来ると荒れ狂う岬がいくつもあるけど、太平洋のはどうなんだろう。
「まだ経験がないのよ」
「直接吹き付けはしないだろうが、雨が心配だな。まあその際は近づかないことだ」とコーヒーを片手に持って会長が言った。
「ええ…。都内に避難するわ。ハリーを連れて」ハリネズミのハリーはケージの中の巣にこもって出てこない。
「ああ、おうちは別にあるんですね」
「そうね。ペットOKのとこ」
「じゃあ、料理はそちらでも頑張れますね」私はニヤリと口角を上げた。
「それなんだけどー、いい提携先見つけちゃった」
「何ですか」
「…藤島さんがスイーツ提供してくれるって。ティラミスなら簡単だから動画で教えますよ、だって。やったー」
「ええ?」ふじっし―…。いいのか?
「たまーにだけどね。ありがとう、市川さん。おかげで光が見えたア」
「いえいえ」
 それは会長に言ってどうぞ。
「ピザの仕込みはアランに任せて、スイーツは藤島さん…。うふふ、ラッキー」
 ルリカさん、最初の不安顔が消えてる。

 会長はレオさんとエリザベスさんの会話を聞き流しながらコーヒーカップを傾ける。

 高広くんがいなくなって約五年…。その間会長は一人業務に没頭して結婚なんて考える暇もなし。ついでに秘書室とも関係最悪。
 気の毒な境遇だけども、そもそも会長の性格にも難があるんじゃないか。アメリカ人の友達の奥さんともこれって。
 不幸が重なって性格歪んじゃったのか。

 でも、秘書室と仲が悪いから私が呼ばれたわけで、上手くいってたらそもそも私なんてここにこうしてないんだよなあ。高広くんとも藤島さんとも会うことなく。
 ただのさえない元カフェ店員…。わー寒々しっ…。
 会長のゆがんだ性格のおかげで今の私がいるんだよね。

「会長が変な性格でよかったー」
「ん?」




 夕方前、広い前庭に車が並んでお開きとなった。
 また来てね―的なハグする人たち。
 これもあるんだよな――アメリカ。正直私にはちょっと…。なんでみんなこんな体の距離が近いんだ。
 会長までそうだから。

「Okay? Make sure you take her with you」
「I know. I was going to inspect the place」
「It's not an inspection, it's a date!」


 しかしエリザベスさんとは最後まで喧嘩口調だった。
 会長ったらもう…。ええ歳して何やっとんじゃい。
「Bye」
 一応、ハグっぽいのはしてたけども。
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