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4話
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『今日はオープン前の某海辺カフェにいまーす。ピザの生地仕込み中♡』
せっかく素敵な場所なので、キッチンと、庭でとってきたバジル、オレガノなどのハーブ、生ハム、お粉などをスマホで撮影。すぐにSNSにアップ。
「いよいよピザの生地ね~。ワクワクする」
「いきますね」
大きなボウルに、地元産の地粉と強力粉を合わせようとした時だった。
「ヘイ!」
ドアが開いて、レオナルドさんが顔を見せる。
何か喋って、ルリカさんが頷いた。「OK」
二人グーサインをして彼はまた戻っていった。
「……ピザの生地こねてみたいんだって」
「えっ」
「レオさんは何でも作っちゃうDIYの達人なのよ。きっとパンやピザも作ってみたいんだと思う」
「そうだったんですか」
「6人分ね」
ええ? 会長も?
「ピザ教室、行ってみたかったんだって。どうせなら全員でやろうって」
じゃあこれ、人数分に分けようかと、はかり直して6人分のボウルを用意した。
「おまたせしました」
ボウルを持って外に出ると、テーブルの前にみんな整列していた。向こう側のピザ窯はもう完成してるようだ。ハリーは室内の大きなケースでお休み中。
「どうぞ」
一人一人の前に置いていく。がやがや会話が続いてるが英語なのでよくわからない。レオナルドさんはポケットからスマホを出して、傍らに置いてたスタンドを取り付けた。そして、「撮影してもいいかい? ネットに上げたいんだ」 (ルリカさん訳)え、動画師かい。陽キャなんだな。エリザベスさんは「オー…」ちょっと微妙な顔。
会長の前に置くとき、会長は無言だった。まさかピザ生地こねるなんて思ってなかっただろう。まーこのくらいはゆるしてよね。ピザ作りに来いなんて言われたけども(笑)。
それぞれカップに入れたほぼ水のぬるま湯を注いで、さあ、行くぜっー。
「指を広げて混ぜてくださいね。コツはゆっくりあせらず優しく力強くです」
会長とルリカさんが英訳してくれて、スタート。
こねこね数分…レオナルドさんはスマホを前にリズムよく手を動かしている。アランさんもだ。
一方……女性陣はちょっと苦戦?
「ああ、やっぱ、難しい。私、いつもうまくまとまらないのよねー。生地がすべすべにならないの」
ルリカさんは顔をしかめた。
「ご主人に手伝ってもらっちゃいますか」こしょっと伝えた。ルリカさんとエリザベスさんは手のひらを上げ、お手あげポーズ。ご主人にチェンジしてもらう。しばらくして、テーブルに打ち粉をして、ボウルから移した。びったん、ばったん、打ち付ける。ピザ職人みたい。男二人の生地は奇麗に伸びてきた。
さて、会長は……。そばに行ってみると、
「会長、お上手じゃないですか!」
意外や意外、つるっときれいにまとまっている。え、ちょっと待って。できるの。びっくりー。会長、無言。「すごーい、ピザ作れるじゃないですかー」
「……作れるかどうか知らんが、混ぜただけだ」
無粋な言葉が返ってくる。それでもご立派ですよ。てっきり完全無視かと思ってた。君がやれ、と言われるだろうなって。
「オー、ナル、上手いじゃないか」(意訳)アランさんが寄ってきた。ベラベラベラ……。英語で何やら続けて、会長が嫌味な表情で何か言葉を返した。
「ふう、やっぱりまだ修業が必要ね。ナルさんにも負けちゃうなんて」ルリカさんが手を拭きながら言った。
「何度もやっていれば、なじんできますよ」
「そうかなあ」
「私だって最初からうまくいってたわけじゃないですよー。何十回もやってやっと感触がつかめるんじゃないかなあ。皆そうですよ。酵母、ドライイーストと併用でいいので使ってみてくださいね」
「うん。ありがとう」
ちなみに、さっき会長がアランさんとしゃべってた内容は、
『その腕前なら専属料理人なんていらないんじゃないの?』
『毎日ピザを仕込む時間がもったいない』
『生地だけたんまり仕込んで冷凍しとけばいいんだよ』
『毎日ピザだなんて恐ろしいね』
『NYじゃそうだったろ。毎日同じもん食ってた。お前、いつから美食家になったんだ?』
『……』
こんな感じだそうな。
「それじゃ、具を持ってきますね」
テーブルの上に発酵を終えて成型した丸い生地が並んで、ルリカさんと一緒にピザの具を載せたカッティングボードを運んだ。生ハムにソーセージにバジル、ヤギのチーズ、モッツァレラ……。季節の野菜とエディブルフラワーまであって色とりどり。
「Toppings of your choice!」
チーズやハム系はご近所さんからのおすそ分け、ゴルゴンゾーラまであり、私はクアトロフォルマッジに挑戦することにした。隣の会長は無表情でチーズとトマトの上に生ハムを散らしてる。
来た時の喧嘩状態が嘘のようにエリザベスさんも無言でご主人と一緒に食材を置いていく。
オールドレンガを積んだ大きな窯は、すでに火入れを終えているらしい。あのうるさい喧嘩の最中、最終仕上げを行ったそうな。ガンガン温度を上げていく最中、会長は丸い曲木の椅子に座って、よそを見ていた。なんだかタバコ吸いたそう……もう禁煙決めたらしいけども……。
ピザ窯作りに来てるのに、スーツのジャケット脱いだだけ? 他の二人はちゃんと日曜大工の恰好でエプロンまでしてるけど。もしかして……大して手伝ってなかったりして?
せっかく素敵な場所なので、キッチンと、庭でとってきたバジル、オレガノなどのハーブ、生ハム、お粉などをスマホで撮影。すぐにSNSにアップ。
「いよいよピザの生地ね~。ワクワクする」
「いきますね」
大きなボウルに、地元産の地粉と強力粉を合わせようとした時だった。
「ヘイ!」
ドアが開いて、レオナルドさんが顔を見せる。
何か喋って、ルリカさんが頷いた。「OK」
二人グーサインをして彼はまた戻っていった。
「……ピザの生地こねてみたいんだって」
「えっ」
「レオさんは何でも作っちゃうDIYの達人なのよ。きっとパンやピザも作ってみたいんだと思う」
「そうだったんですか」
「6人分ね」
ええ? 会長も?
「ピザ教室、行ってみたかったんだって。どうせなら全員でやろうって」
じゃあこれ、人数分に分けようかと、はかり直して6人分のボウルを用意した。
「おまたせしました」
ボウルを持って外に出ると、テーブルの前にみんな整列していた。向こう側のピザ窯はもう完成してるようだ。ハリーは室内の大きなケースでお休み中。
「どうぞ」
一人一人の前に置いていく。がやがや会話が続いてるが英語なのでよくわからない。レオナルドさんはポケットからスマホを出して、傍らに置いてたスタンドを取り付けた。そして、「撮影してもいいかい? ネットに上げたいんだ」 (ルリカさん訳)え、動画師かい。陽キャなんだな。エリザベスさんは「オー…」ちょっと微妙な顔。
会長の前に置くとき、会長は無言だった。まさかピザ生地こねるなんて思ってなかっただろう。まーこのくらいはゆるしてよね。ピザ作りに来いなんて言われたけども(笑)。
それぞれカップに入れたほぼ水のぬるま湯を注いで、さあ、行くぜっー。
「指を広げて混ぜてくださいね。コツはゆっくりあせらず優しく力強くです」
会長とルリカさんが英訳してくれて、スタート。
こねこね数分…レオナルドさんはスマホを前にリズムよく手を動かしている。アランさんもだ。
一方……女性陣はちょっと苦戦?
「ああ、やっぱ、難しい。私、いつもうまくまとまらないのよねー。生地がすべすべにならないの」
ルリカさんは顔をしかめた。
「ご主人に手伝ってもらっちゃいますか」こしょっと伝えた。ルリカさんとエリザベスさんは手のひらを上げ、お手あげポーズ。ご主人にチェンジしてもらう。しばらくして、テーブルに打ち粉をして、ボウルから移した。びったん、ばったん、打ち付ける。ピザ職人みたい。男二人の生地は奇麗に伸びてきた。
さて、会長は……。そばに行ってみると、
「会長、お上手じゃないですか!」
意外や意外、つるっときれいにまとまっている。え、ちょっと待って。できるの。びっくりー。会長、無言。「すごーい、ピザ作れるじゃないですかー」
「……作れるかどうか知らんが、混ぜただけだ」
無粋な言葉が返ってくる。それでもご立派ですよ。てっきり完全無視かと思ってた。君がやれ、と言われるだろうなって。
「オー、ナル、上手いじゃないか」(意訳)アランさんが寄ってきた。ベラベラベラ……。英語で何やら続けて、会長が嫌味な表情で何か言葉を返した。
「ふう、やっぱりまだ修業が必要ね。ナルさんにも負けちゃうなんて」ルリカさんが手を拭きながら言った。
「何度もやっていれば、なじんできますよ」
「そうかなあ」
「私だって最初からうまくいってたわけじゃないですよー。何十回もやってやっと感触がつかめるんじゃないかなあ。皆そうですよ。酵母、ドライイーストと併用でいいので使ってみてくださいね」
「うん。ありがとう」
ちなみに、さっき会長がアランさんとしゃべってた内容は、
『その腕前なら専属料理人なんていらないんじゃないの?』
『毎日ピザを仕込む時間がもったいない』
『生地だけたんまり仕込んで冷凍しとけばいいんだよ』
『毎日ピザだなんて恐ろしいね』
『NYじゃそうだったろ。毎日同じもん食ってた。お前、いつから美食家になったんだ?』
『……』
こんな感じだそうな。
「それじゃ、具を持ってきますね」
テーブルの上に発酵を終えて成型した丸い生地が並んで、ルリカさんと一緒にピザの具を載せたカッティングボードを運んだ。生ハムにソーセージにバジル、ヤギのチーズ、モッツァレラ……。季節の野菜とエディブルフラワーまであって色とりどり。
「Toppings of your choice!」
チーズやハム系はご近所さんからのおすそ分け、ゴルゴンゾーラまであり、私はクアトロフォルマッジに挑戦することにした。隣の会長は無表情でチーズとトマトの上に生ハムを散らしてる。
来た時の喧嘩状態が嘘のようにエリザベスさんも無言でご主人と一緒に食材を置いていく。
オールドレンガを積んだ大きな窯は、すでに火入れを終えているらしい。あのうるさい喧嘩の最中、最終仕上げを行ったそうな。ガンガン温度を上げていく最中、会長は丸い曲木の椅子に座って、よそを見ていた。なんだかタバコ吸いたそう……もう禁煙決めたらしいけども……。
ピザ窯作りに来てるのに、スーツのジャケット脱いだだけ? 他の二人はちゃんと日曜大工の恰好でエプロンまでしてるけど。もしかして……大して手伝ってなかったりして?
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