会長にコーヒーを

シナモン

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4話

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都会を抜けると嘘みたいに田園風景が広がり、海沿いに御伽の国のような景色が続く。車は目指す、丘の上に立つ建物へ。
無事午前十時前に到着。可愛らしい木造の平屋がお目見えした。シンボルツリーはオリーブと月桂樹。軒先に淡い水色、ピンク、オレンジ……いろんな花が咲き乱れてる。

「いらっしゃい」

ずらっと並んだ人たちから一人、日本語で声をかけられた。「市川さん、会うのを楽しみにしてました」「ありがとうございます」

会長がさっと手を出して、

「紹介しよう、こちらがこの家の主、アラン・リードと妻のるりか」

「コンニチハ、ハジメマシテ」

肩上の茶色い髪、ヒゲがうっすら、細面の優しそうな人。私の想像図に近いアランさん。日本人の奥様るりかさんはふわふわの栗色の髪の毛に肌は真っ白で妖精みたいな透明感ある人だ。

「こちらがレオナルド・フォスターと妻のエリザベス」

フォスター夫妻、どちらも金髪。

「ハーイ」

大きな手を差し出した。恰幅のいいおじさま。背が高くでん、としてる。奥様は人形のように綺麗な長い金髪、大きな青い目。ものすごい美人ですね。レオナルドとエリザベスって、どこの国王、王妃よ。すげー。

「アランは舞台演出家、レオは分かるね、レックスのCEO。細かいことはあとでるりかに聞いてくれ」

えらい簡単な紹介だ。まあ英語で喋ってくれても要通訳だけどね。てへ。
会長はノーネクタイ、ノーベストでいつもよりはラフだけどやっぱりスーツ。
私はといえば、昨日結局高広くんと店を回り、紆余曲折の末、脱ファストファッションーーちょい上ランクの服にした。あんまり代わり映えしませんけどね。色味が高広くんテイストかな。ちょっとパステル調の明るい上下、ゆるトップスとゆるパンツだ。

「さて、作業に取り掛かるか。きみはるりかと中で準備してて」
「はい」

窯の完成まであと一仕事あるらしい。「市川さんは私と一緒に作業しましょうね。畑もあるのよ」とるりかさんにこり。日本人は会長とるりかさんだけで、あとはみんな海外の人。つまり英語で喋ってるわけでその会話の内容は私にはさっぱり。手入れされた芝生のお庭に流暢な英語が流れる。まるで海外の光景を目にして私は改めて思う。

やっぱ無理だわ。アメリカなんて。

全然進歩してない。英語アレルギーだろうか。英語で喋ってる人だらけの所に自分がいるところが想像できない。
今だって、たった五人喋ってるだけで頭がガッチガチに固まってしまう。
映画は字幕や吹き替えでカバーできるけど、洋楽とかほとんど聴かないし……。早口で何言ってるか全然わかんないんじゃね、つまんないし。化石のような頭だ。

その流れるような会話がいきなり途切れた。

「オー、ナルアキ……」流石にこれは私にもわかるわ。大きな声で、エリザベスさんは両手をかざした。

「Are you still saying that?」
「It’s nothing to do with you.---×××××……」
「No……!」

???

えらい剣幕で言い合ってる。身振り手振りすごいんですけど。
ええ、相手はもちろんナルアキーー会長です。
会長、何やってるの、よその奥さんとーー。

「ちょ、会長っ!」

止めようとした私をルリカさんが制した。

「あ、えーと……いつものことなのよ。ナルさんとエリーさん、き、気にしないで。喧嘩してるように見えてそうじゃないの。日常会話。大丈夫だから。ね、私と一緒に来て」
「え」

ーーいつも?

「あの、なんて……」言ってるかだけでも教えて欲しかったりして。
「いいから、いいから。大したこと言ってない」

「Elizabeth, would you please be quiet in front of your husband.」
「If you shut up first.」・・・・・

みんなは苦笑いしてる。ニヤニヤ。まだ続いてる……どう見てもケンカ……いやいや、うるさい英語を背に、振り返り振り返りるりかさんに案内されて家の中に入った。








****************


英語のセリフは読み飛ばしていただければ幸いです。



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