上 下
33 / 51
瀬尾くんの誰にも言えない秘密

しおりを挟む
 駅近いけどね、のんびりした通りなんだよ。
 小さな川が流れてて、空き地があって、踏切もある…。

「あんま、話しかけても…」大牟田は止めにかかるが俺は無視して続ける。
「どこに行ってたのかな?」
「んとね、ままがね、ちょっとおさんぽしようかって…」

「バスの待ち時間かねえ。駅前なのに見るもんねえよな」大牟田は周囲を気にして見回す。「逃げようぜ」
「…待ってるしかねえだろ。この先踏切だぞ」
「そうだけど…あっ」

 大牟田は何かに気づいたようで、足で俺の肩をゆすった。

「親だぜ」

 間髪入れず、はるなーはるなーと女性の声が聞こえた。

「やばいって、ほら。気づいた」
「まあまあ、逃げたら余計怪しまれるよ」

 依然として腰を落としたまま俺は声に背を向けていた。

「はるなーーー」

 一気に声が大きくなる。

「あ、ど、どうも。迷子かなって思って…」

 大牟田は情けない声を出した。女性はすごい勢いで女の子を抱き上げる。

「どうもすみません、お母さんですか? 怪しい者じゃないですよ」

 俺はやっと立ち上がる。善意を示すためににっこりと微笑んで。

「そ、そうです」

 若い母親は一瞬びくっとして、姿勢を正した。ふわふわした髪にベージュトーンのジャケットにスカート姿大きい袋に子供の上着が覗いてる。

「ごめんなさい、この子の服を入れてた隙に…」はあはあ息も切らして。必死で探したんだろう。言われてみれば女の子はセーターにスカート、タイツと軽装だ。

「はるなちゃーーん!」

 幾分大きな声で、同じ方向からもう一人女性がやってきた。

「ああ、いたんだ、よかったぁー」

 ニット帽にロングヘアー、ダウンベストにパンツ、活発な印象だ。

「勝手なことをしてすみません、一人じゃ危ないかなあと思って。この先踏切があるんで」
「えっ、そうなんですか!?」

 二人とも目を丸めた。本当にあるんだよな、これが。ちなみに山陰本線ではなく伯備線だ。

「やだ、ほんとだーやばーい」もう一人が目視する。
「やばかったね~」「こわ」「ちょっと歩いてただけなのに」「やっぱ歩きはやばいよ、送ってくからさ」二人はちょっとだけ会話を交わして、「そこのマックで友達と会って、ちょっとお茶しよっかって言ってたんですよね」

「どうも御親切にありがとうございました。陽菜、行こっか」息も落ち着いて女の子の髪をなでた。
「うん。ばいばい、おにいちゃん」
「ばいばい。よかったね」
 
 何度も礼をしながら去っていく。なるほど、マックか。

「よくここまで歩いてこれたなあ」
 普通に歩くにはわずかだが、3歳前後の子供一人だぜ。やっぱ目を離したら危ないんだよ。
「お前、うっまいなあ。お見事」
「え」
 大牟田はふざけて拍手してる。
「すげえーーー、まねできねえーーー」
 だがすぐにぶちぶち言い始めた。
「なーんか、気に食わねえな、俺を睨みつけてたくせによ」
「気のせいだろ」
「全然違うって。なんなん、態度ころっと変えてよー。ごめんなさい、だって」
「お前がびくびくしてるからだよ」
「親切にしてやっても逆に訴えられる時代だからなー。あーあ、イケメンは得だー」
「お前、突っ立ってただけじゃん」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

【完結】王命婚により月に一度閨事を受け入れる妻になっていました

ユユ
恋愛
目覚めたら、貴族を題材にした 漫画のような世界だった。 まさか、死んで別世界の人になるって いうやつですか? はい?夫がいる!? 異性と付き合ったことのない私に!? え?王命婚姻?子を産め!? 異性と交際したことも エッチをしたこともなく、 ひたすら庶民レストランで働いていた 私に貴族の妻は無理なので さっさと子を産んで 自由になろうと思います。 * 作り話です * 5万字未満 * 完結保証付き

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

処理中です...