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コーヒーとCEOの秘密

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「そうですか」それならあの東新宿の店で見かけた村上はなんだったのだろう。

「あまりいい印象をお持ちでないでしょうね。こんなことになって……当然よね」
「え」
 
 駅への道を選んだことを少し悔やんだ。
 この辺りは老舗の巨大ビルが立ち並び、まさに新宿といった光景が続く。
 このゆとりのある摩天楼が好きなのに。
 無言で歩いてコクーンタワーを過ぎ小田急百貨店が見えてくる。

「私が言っても仕方ないけれど、社の全員が望んでいたことではありません。村上さんも、元々は力になってほしくてお声がけしたのよ」

 力になる…?

「……もっと言えば立て直しをしてくださる、再生専門家にお願いしたかったのよ、本当はね」
「そうですか…幹部の方なのですね」
「とんでもない、私なんて何も持ってない、思い知りましたわ」
 だけど言い草はそうとしか。村上への態度も。
 企業再生…そのあたりに会長との接点があったのだろうか。
 会長の前職はアメリカでも珍しい優良なM&A、事業見直しを行うメディソン社だ。
 だけどあの会長が、お父さまの会社のライバル社の再生事業なんて・・?
 そもそも相手にしないのでは。

 それが……婚約破棄の原因?

「あっという間にひっくり返されてしまって、私はすっかり悪者よ」
「お辛い立場…なんですか?」
「ええ」

 えらくはきはきした受け答えに少々違和感を感じた。

「もはや金融屋ですわ。不動産や流動資産が主体の。右から左へ物を流すだけです」
 この人は何かムーブメントを起こそうとしていたのだろうか。きびきびした態度とその容姿が不釣り合いに思えてしまう。会長の隣にいれば誰が見てもお似合いの恋人だろうけど。
「失礼かもしれませんが、企業文化って変えられないですよね」
「そうですね…。残念だけど」

 気持ちはわかるが多くの大企業がそうなってきているのは事実。もっと多くの下請け孫請けに面倒な作業を丸投げし、何か問題が起これば切り離す。
 生き残るための手段。

「それも選択肢の一つといいますか、実際多いですよね」完全に事業方針の違いよ。
「そうよね。……あなた、事務職の方ではないのね」

 大通りと交差する信号が赤になりかけて、立ち止まった。

「ええ。でも事務職の業務がこなせるわけではありません、向いてなくて」…会長のお茶出しとかね。事務職関係ないけど。

「いいわね……私もあなたのようになりたかったわ」

「いいえ、私なんて」あなたこそ、会長にお茶くらいさっさと出せそうだけど? 見た目はすごくお似合いよ。

 三津子は顔を向け少し驚いた。
 マヤは……悲しげに遠くを見つめていた。

「きれいで…ご自分の意見をお持ちで…」

 信号が変わり、足を出しかけたがマヤはその場に立ち止まっていた。

「マスコミを使って面白おかしく人心を煽ったのは間違いなく内部の仕業です。残念なのはそれを逮捕にもっていけないことです」
「逮捕??……」話が飛んでしまってるような。

 どこか浮世離れして、見た目とギャップのある人だ。しっとりして、裕福なお嬢さんなら仕事なんてしなくてもよさそうだけど。

「社内にいる同じ志を持った社員を助けてあげたかったのよ」
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