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コーヒーとCEOの秘密

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 もう6時過ぎだが夏至を越えた初夏の日差しが眩しい。西新宿は東側と違って緑が多く、都庁を中心に高層ビルが立ち並び摩天楼をなしている。
 その裏手に広がる新宿中央公園は一部の雑誌やメディアではNYマンハッタンのセントラルパークを模しているという。
 公園の先の小さなカフェの窓際席で、緑の街路樹、行き交う人々を眺めて過ごした。

 ーーーこれも見納め・・・。

 見慣れた光景だがしばらく見れないとなると感慨深い。
 コーヒーと腹ごなし程度のバゲットサンドを少しずつ口に運びながらマンウォッチング、隣の席の男性はしきりにスマホの画面を動かしている。

 こんな時間の過ごし方も当分お預けだろう。引き継ぎでつぶれてあいさつ回り、が待っている。
 会長から内示が出て、間もなく辞令が下り、引っ越し準備期間を含めて1か月足らず。
 いよいよ今週末社屋を後にする。
 関矢も一緒だ。

「やあ、赤石くん、久しぶり」

 野太い声に振り向いて緊張が走った。

 ーーー村上部長!?


「ここ、いいかな」


 丸テーブルの向かい合った椅子を指され、拒否できなかった。

「いやあ、ここで会うなんて驚いたなあ。ーーこの店新宿だけで20以上あるのに」
「そうですね」

 大きな声に精一杯の笑顔で答える。
 有名人気チェーンなので密集エリアでは数十メートル間隔に店がある。行ったことのある店の方が少ないほどだ。
 村上はさっと着席した。
 すでにアイスドリンクを手にしている。

「元気にやってる?」
「ええまあ」

 このテンションの高さ。
 なぜこちら側に?
 わざわざ歩いて駅を越してきたのだろうか。

「フッ、つれないねえ。僕のこと、裏切り者のように思われてるんだろうねえ」
「そんな」

 それはそうだろう、むしろこの明るい態度の方が不自然だと思うが。

「情報を漏らした…そう思われてる」
「はっきりおっしゃいますね。印象はともあれ実際は何の罪にも問われてませんよね」
「はは、そうだね。さすが赤石くん。冷静だね」

 ――あーあ、せっかくのコーヒーが冷めてしまうわ。

 コーヒーを飲むのもサンドをつまむのも気が引けて、会話に付き合わなくてはならなくなった。

「うまくステップアップできましたね。羨んでいる社員もいるんじゃないですか」
「そんなことはないんだよ。最初はね、引き抜きだったんだ」
「何のですか?」
「そりゃ普通に仕事の手腕を買われたんだろう。だけど、行ってみれば違ったね」
「それであれこれ……お話しになったんですか?」
「だからそれは僕じゃない。今更言ってもしかたないが、あんまり悪者にされるのもねえ」
「……考えてみればそうですね。内通というより、メディアを利用した印象操作のように思えますわ」
「そう、そうなんだよ!」
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