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コーヒーとCEOの秘密

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 三津子が返答に困ってるそばでT不動産の二人は映像を前にゆったり腕を組んで話を続ける。

「いいですなあ。元はね、とあるコンペに参考作品として出したものなんですよ。私はこれを見て真っ先に『ドーム球場』を連想しました」
「私もです」
「・・・野球の試合を現地で観戦していてよく思ったものです、この天井が透明であればいいのになあ、とね」
「ホントにねえ」
「選手から見て打球が見えにくくなることはないのか」会長が口をはさんだ。
「ええ。それについてはデザインに凝らなければ青空の下でプレイしているのと変わらないとのことです」

 会長はともかく、おじさま方にはこれがドーム球場に見えるようだ。

 ―――野球がお好きなのは前会長だけではないようね。

 そこで三津子はハッと気づく。

 ―――ドーム球場?
 
「日本市場では、奇抜なデザインだとそっぽを向かれそうですが」
「却下でしょうねえ。景観条例が許さない」
「そこであの『野球リーグ構想』ですよ。これだ、と思いましたね」
「サッカー場やラグビー場、多目的運動場にも使えますしね」

 野球リーグ構想…何やら話が見えてくる。
 関矢の目の輝きは、これだったのだろうか。

「君には具体的にイメージできるかな? 私は野球の試合を見に行ったことがないのでわからんのだが」会長は三津子の方を向いて言った。
「ドーム球場・・」
「そうだな。市場は中東、アジアと幅広い」
 再び社長と部長がうんうんと頷く。
「野球競技を広めるためにうちの野球部と本格的に提携したいそうだ。それで、球場建設と抱き合わせで野球部の予算を計上したい」

 プロチームはさておき、野球伝播のためにクラブを使おうというのか。それで相手国にドーム球場を建設…。

「つまり売れば売るほど野球部の出番も予算も増える。君もやりがいがあるだろう」

 ーーーそういうこと?
 
「…夢のあるデザインでしょう。…デザインしたのは例の変わり者の新米ですがね」

 部長は苦笑した。
 設計部の変わったデザイナー…小耳にはさんだことがある。
 
 有力者の娘で、何度注意してもギャルメイクにギャルファッションをやめないとか。社内でもだ。

「皇太子殿下はえらく気に入られて、このまま新モスクとして建設したいと言われてました」
「応用がきくからね。保守層には受けないだろうが」
「あと空港もですね。チューブにビルにドームに…これは販路が拡大しそうですな」
「夢のドーム球場だ。日本で実現できたらなあ…」
「デーゲームではビールがウマいでしょうねえ」


 部長と社長のオヤジレベルの会話が盛り上がる。すでにごく一部で進行中の身内話のようで三津子は今一つ入り込めない。会長は腕を組み右足をひょいと左足に乗せじっと正面を向いたまま。
 そのときだった。
 コンコン・・・ドアがノックされる

「失礼します。HISの方が会長にお会いしたいと・・・」
「私に? 今取り込み中だが」会長が顔を向けた。
「ええ、そう申し上げたのですが・・・あっ」

 いつもの秘書ではなく、受付の女性社員を押しのけて、客人が現れた。


「九条会長!!」


 
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