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緑川、人類の運命を背負う

おお、心の友よ

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 宮殿を出て随分と距離はあったが、到着したのはあっという間だった。
 どうやら某ドラえもんのように神の足は地から少し浮いているようだ。
 なぜか自分もだ。

「ヘパイストス様、客人をお連れしました」

 ミドリカワはおっと驚いた。出てきたのは随分もっさりした人間くさい奴だ。

「客人? 俺にか」

「ええ、なんでも神か人間かわからない種族の者だとか」

 決して尊敬されてはない紹介のされ方だな。

「面白い道具を持っているそうで、同じ物をヘパイストス様に作っていただきたいと。ゼウス様のお申し付けです」

「ほお、なんだ、それは」

 ミドリカワはスマホを差し出す。

 電源を入れ、さっき撮った神々の画像を見せて。

「へえ~、姿を残すのか。なんのために?」

 その反応におやと思う。

 神にとっては映像を残すことはさしたる価値はないのだろうか?

 のんびりした世界だ。本もなく、絵画もなく、書写する概念がそもそもないのだろうか。


「……ということはコイツごと俺に預かれというのだな」
「ええ。では私はこれで」

 侍女はくるりと去っていった。
 それを見やって彼は小さな息を吐く。

「まあ、今日は泊まっていけ。お前、なんだっけ」
「ミドリカワです」
「おう、ミドリカワ、俺はヘパイストス。どこから来たか知らねえが、ゼウスの種の類いじゃなさそうだな」

 ゼウスの種・・どんだけヤリ○ンなんだよ。

 宮殿の中を案内される。

 宮殿は相変わらず豪勢だが、ミドリカワはこの世界に迷い込んで以来の親近感を感じずにはいられなかった。

 初っ端から美男美女続き、さっきの侍女でさえも美人女将風だった。

 ところがこのヘパイストスは日本人とはかけ離れた風貌ではあるものの、もっさり赤ら顔、髪もさもさ、姿勢も悪く足が悪いのか引きずって歩いている。

「まあ、こんなたいそうな宮殿をもらっちゃいるが、俺の棲家はこっちさ」宮殿の端のドアを開けた。
「おおっ、すげえ……」

 目を見張った。
 そこは立派な工房だった。
 ピカピカの金属類。金槌のような道具、鋭利な刃物。

「これはすげえや」

 ミドリカワの目が輝く。


「まあ俺は大体ここにいるんだ。物作るのが生きがいでよぉ~」


 え、なんだって?

「鍛冶屋だからな」

 !!なんだって!!

 再度見まわすと、

 すげえ、マテリアル勢ぞろいだ。ちょっと、触らせてほしい…。見るからに質の良さそうな金属類だ。鉱物オタでもあるミドリカワは思わず手を伸ばした。


 ーーーひっ、一つ目小僧!?


 奥からぬっと巨体が現れぎょっとした。


「キュクロプスっていうんだ。見た目はグロテスクだがおとなしい奴さ」


「よ、よろしく」

 それは、ゆるキャラなんかよりはるかにでかい。
 体を曲げて大人しげに頭を下げている。

「ミドリカワと言ってな、なんか違う世界から来たらしい」
「へえ」

「ミ、ミドリカワです」

 握手。握手は共通なんだな。でかい手…。ドキドキ…。なんだ、ここにきてこんな人外に挨拶してるとか。いい奴っぽいが。

「こいつはすげえ奴なんだ、俺よりよっぽどな」

「はは、それほどでも」巨人は頭をかく。
「なあ、ヘパの兄貴、そろそろ腹減らねえか」
「おお」

 そしてまた宮殿に案内された。


「まあ、お前も食ってきな。急なことで何もねえけど」

 だだっ広くダイニングもリビングもない同じような間取りで、大理石の上にクッションが敷かれたソファ風の椅子が囲むテーブルの上に料理が並んでいる。

 スープと肉の塊を焼いたものだ。

 うぉ、うまそーー。そういえば色々あって腹減ったなぁ~ー

「いただきます!」
「?」

 手を合わせたミドリカワに少し首を傾げ、それぞれ食べ始めた。

「お前、どこから来たんだっけ」
「じ、ジパング」
「? 聞いたことねえな」
「……物作りが盛んな世界さ…ここよりよっぽどな」
「はは、そりゃ楽しみだ。まあ、明日だな」


 へパイ…ストス? 何この物いじり繋がり。感動した!
 飯もうっま~…。


「はぁぁ~」

 その後、やっと寝床にありつけたミドリカワはうっすら目を潤ませるのだった。

 なんだよぉ、こんなところに心の友が……。

 明日……帰るのに。

 出会ってすぐに…。

 勿体無いなあ……。

 ムニャムニャ……。

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