会長にコーヒーを 番外編

緑川、人類の運命を背負う

おまえ、何してんだ

　円柱の並ぶ広間を抜け、リゾートホテルにありそうな見晴らしのいいテラスというかバルコニー、言うなれば天界VIPルームに集うさらなる最高神の姿を見て仰天した。


『ええっ、お前、なんでここにっ』


　魚の形の冠を被った海の神ポセイドンと思われる…はまあ置いといて、

　その隣の……。


　な、なる…あき…。





　親友の九条会長がそこにいた。

　黒髪。ストレートロン毛。ハデス。冥界の神。


　―――なぜこいつだけギリシャ風じゃないんだ？


　着てるのも黒い合わせ襟とどことなく東洋的だ。


　ゼウス、ポセイドン、ハデス、彼らはミドリカワについてしゃべっている。


「何？ 神人？」

「ううむ、お前、こころあたりはないか」

「私は知らんぞ。お前が産ませた輩だろう」


　おお、声までそっくり～。


　ポセイドンは海の神、ハデスは冥界の神、日本風にいえば閻魔大王。

　日本じゃ割とメジャーだが、海外、特にキリスト教圏ではほぼ無名、モブ扱いだよな？ 下手すりゃ敵役魔人にされちまうレベルの。それが、こんなに美形だったなんて？ で、ナルにそっくりとか。


　ありえねーー。


　やっぱ、これは夢でしょうよ。


　しかし場面は進んでいく。
　スマホを前に神妙に語らう３大神。狙い通りスマホのファーストインパクトは強かったようだ。


「冥界にもおらぬか」
「魔族か？ 私はすべてを把握してるわけではないからな。この中の者は魔族的だが、この者自体は人間に近いであろう」
「ふむ」
「東方の離島に猿人が多く居ついておるが、その類ではないか」
「それにしてはこれは……」
「猿に道具を作る知能はあるまい」


　
　ああでもないこうでもない、と、
　時空を超えてきたなんて想像できない。


「私は忙しいのだ。ここで言い合っても仕方あるまい。それよりアスクレピオスをどうにかしてくれ」


　終わりのない話題を切ったのはハデスだった。


「とうとう蘇生の薬を作ってしまった。死人を蘇らせては誰も冥界に降りてこなくなるぞ。何度言っても改める様子がない。お前から忠告してくれ」


「おお、わかった。それはいかんな」


　ここ、割と重要な内容だったがミドリカワは聞いていなかった。首を傾げひたすらハデスを凝視していたのに。



　ーーおかしい。なるあきがここで出てくるわけがない。


　気になりすぎて聞こえてない。


　ハデス≒なるあき

　顔しかめる仕草までそっくり。


　…これはあれだな。


　これは夢というか、脳内トリップじゃないか。

　最新の量子論によれば、素粒子の中に重力を操るものが存在し、それがこの世の現象を決定づけてる。
　要するにこの世界は実体のない仮想空間であって、それを現実たらしめてるのは重力子の作用によるのだという理論。

　俺はタイムマシンを開発したつもりが、粒子の干渉を解放しちゃったのか？

　俺の頭の中をばらしてお花畑な世界を作り上げてるのではないか。だから夢といえば夢。目が覚めてる状態で見る夢。いや、わけわからんけどーー。


　いくらなんでもお前が紀元前のギリシャにいるわけないわ。