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脱出
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「エルマリアと共にいるためだ」
「どうして…?ザザ…」
私にはザザの考えていることがわからない。
「俺がそうしたい」
ザザは私と共にいたい?そう望むの?
「エルマリア、立てるか?荷をまとめる」
私は床に下ろされてふらつきながらも棚に向かって金貨の入った箱を取り出し、わずかな着替えを選ぶ。その間にダダとカイナは部屋から出ていった。
「渡せ」
簡素な服を選んでいたらザザが私を持ち上げて立たせ、乱れたドレスを掴んで破いた。
「怖かったろ」
「…ええ…気持ち悪かった」
ザザは落ちたドレスの上に膝をつきシュミーズ姿の私を抱き締めた。ザザの顔は胸に埋まり見えない。
「奴らは死んだ…二度とお前には触れん」
「ええ…」
男の手の感触が甦る。体が震えてしまってザザの頭をかき抱く。髪を掴まれて引きずられるのはとても痛かった…あんな…あんな…
「あんな…暴力…はじめて…」
シモンズにいた頃でさえあんなこと…されたことなかった。 思い出しただけで体の震えが止まらない。震える私の体を逞しい腕が巻き付いて強く締める。痛いほど締められるけど安心する。
「ああ…全て殺してやる…」
「ザザ…私が好きなの?」
そうじゃなきゃ…
「お前は俺の主だ…俺が主と決めた…」
ザザの言っていることがよくわからないけどザザは主が欲しかったの?だけど…それだとカイナに金貨を渡した意味がわからないわ。
ザザは私の手から服を取り着せ始めた。宝飾品の付いていない簡素な服を着て、ダダの持ってきた箱に荷物を入れる。
私が荷物をまとめている間、ザザは男の死体を動かしていた。一人は寝台に寝かせたまま布団を被せ、破いたドレスは扉から見えにくい床に広げた。もう一人の男は居室に運んでいった。
「外は夜だ」
「ええ」
窓から見える外は闇だった。
「女の楽園?」
「ああ…娼館だ」
そこは安全な場所かしら?私が考えても仕方ないわ。外のことはなにも知らない。
「エルマリア、もうすぐ使用人が騒ぎ出すだろう」
「ええ」
男爵令嬢の使用人たちね…彼女の指示でこんなことを…ならば牢にいる使用人も…
「男爵令嬢は慕われているのね」
使用人たちは罪を犯してまでこんなことを…それでも口を噤むのかしら…
「あの女は報いを受けた」
私はザザの言葉に首を傾げる。
「…?」
「行くぞ」
気になることを言ったきりザザは箱と私を抱き上げて、蝋燭の火を消しテラスから外へ出た。
私は誰にも見つからないようにと願いながらザザにしがみついていた。
フェリシアは自室の中をうろうろと歩く。
使用人服から着替え、エルマリアの顔を思い出しながら汚されていることを想像して微笑む。
ルイスの計画をやりやすくするためにケリーに嘘を吐かせてザザを遠ざけた。
「フェリシア様」
フェリシアは廊下からかけられた声を聞き握りに飛びついて開ける。
「入って!」
入ったハンナの顔を見たフェリシアに不安が込み上げる。
「なに…?なにがあったの?」
「あ…の…元奴隷の男が予想より早く戻りました」
「子爵令嬢は!?汚した後でしょうね!?見たの!?」
「鍵を…あの男は力ずくで鍵を壊して中へ…その後は近づけなくて…そうしたら上級使用人に見つかって…私たちは逃げました」
「なにしているのよ!」
フェリシアはハンナを突き飛ばして宝石箱に向かう。
「宝石を渡すから!誰かに様子を…え…」
箱の中の宝飾品が明らかに減っていた。
「ハンナ!宝飾品が減ってる!盗んだの!?ねえ!盗んだの!?あなたが!?」
フェリシアに睨まれたハンナは首を振って違うと答える。
「フェリシア様!湯を運ぶ使用人が中に入れば事態がわかります!ルイスが戻ってこないならまだ子爵令嬢の部屋に…彼女が騒げば報せが届きます…待ちましょう」
「私は!あの女の部屋に行って話したのよ!?私が加担しているとおじ様に話したら…」
「子爵令嬢が話しても知らないと言えばいいいのです!フェリシア様の姿はカイナと子爵令嬢しか見ていません」
「そうよね…私はハンナとこの部屋にいたもの」
フェリシアはハンナと話しながら気持ちを落ち着けようと深呼吸をする。
「そうです」
「…子爵令嬢は感じの悪い人だったわ。父親に頼めばなんでも叶うと思い上がって…」
「毎日のように贈り物が届きます。甘やかされて傲慢になったのでしょう」
ハンナの言葉にフェリシアは頷き、贅を凝らしたドレスを身につけたエルマリアを思い出す。
フェリシアはドレスを一つ贈られるだけで過剰に喜び感謝をしなければならなかった。フローレンに嫁いだエルマリアが気に入らないドレスを燃やしていることも使用人から聞いて腹が立つ思いがした。
「ルイスは子爵令嬢に誘われた…誘惑されたと言うわ」
「はい」
「白くて大きな胸を揺らして…いやらしい…女」
フローレン侯爵邸の裏口から野菜屋の荷馬車が出ていき、定刻にエルマリアの部屋へ湯を届ける使用人の悲鳴が響き邸内が大騒ぎとなるまでにエルマリアとザザは女の楽園に着いていた。
「ガダード」
「ザザ…また来た…おい…その女」
頭を覆うマントを下ろしてガダードという男を見る。
「ザザ…」
本当にここは安全なのかしら?
「ガダード、人と待ち合わせている」
ザザの大きな手のひらが私の背を押して、入れと言うように部屋の扉を開けて首を傾げた。
「おいおい…俺は侯爵家に目をつけられてんだぞ」
「悪魔の泉を売るからだ」
悪魔の泉…?
「…あれは偽薬ってことになったんだろ?」
ザザはガダードに答えず部屋に入って箱を床に置いてソファに座れと私を促す。
「荷物を背負う鞄を一つくれ」
ザザは懐から金貨を取り出しガダードに投げた。
「気前がいいが…次期侯爵夫人を連れてるとは…ザザ…」
「ああ…騎士隊が来るかもしれん」
「ここに?」
ここに到着するまで誰にも会うことはなかった。私にはここに騎士隊が来ることの意味がわからなかった。
「俺はザザの所有者だった。フローレン侯爵家はそれを知っている」
私は以前に読んだザザの書類を記憶から取り出して合点がいった。
騎士隊…に要請するかしら?雇っていた使用人が私を拉致したのよ…侯爵は直ぐには報せないわ。
「騎士隊よりフローレン騎士団が来るわ」
「侯爵は騎士隊に報せないか?」
ガダードの問いに頷く。
「父…シモンズ子爵に知られたらフローレンは終わるの…私を…冷遇なんてものじゃない…襲わせるなんて…父はきっと知るけど…侯爵は足掻くはず」
「ザザの過去を辿ってここに来るか…」
ガダードは呟きながら鞄を取りに部屋から出ていった。
「エルマリア」
ザザがソファに座る私の前に跪いた。
「辺境へ行く」
「辺境…?」
「ああ…隣国との境にある小さな村だ…なにかが迫れば…隣国へ逃げられる」
「森?」
「ああ」
私は森を見たことがなかった。山も川もなにも知らない。
「ザザは私を閉じ込めるの?」
ザザの瞳の中に父が母様に向けていた熱を感じていた。
「閉じ込めん…が出掛けるときは離れん」
「一緒に出掛ける?」
「そうだ」
私の意思を無下にしない…そう言われているようで頬が緩む。
「エルマリア、カイナたちとは途中で別れるかもしれん」
そうね…ザザは追われるから…気に入った土地で暮らすことを選ぶかもしれない。
「…ええ…ザザ…どうやって私の箱の開け方を知ったの?」
ザザが困ったように頬をかいた。こんな仕草をするザザは初めて見るわ。
「閉じろと言われたが薄く開けてたんだ」
ザザは給金の金貨をカイナに渡したと言ったのにガダードに渡したし、箱の開け方を話そうとしたら気にするなと言ったから不思議だったのよね。
「ふふっ」
ザザ…あなたはあの日に金貨を持って逃げることができたのに…
額から頬へ走る傷痕に触れると手首を掴まれた。
「怒ったのか?」
「いいえ…」
私といる…ザザは本気なのね…
「あれだけで足りるかしら?」
「金貨か?」
「ええ」
「十分だ」
「ザザ…男爵令嬢が報いを受けたって…どういう意味?」
ザザは私の手首を掴んだまま、私はザザの傷痕を撫でたまま尋ねる。
「今度話す」
「どうして…?ザザ…」
私にはザザの考えていることがわからない。
「俺がそうしたい」
ザザは私と共にいたい?そう望むの?
「エルマリア、立てるか?荷をまとめる」
私は床に下ろされてふらつきながらも棚に向かって金貨の入った箱を取り出し、わずかな着替えを選ぶ。その間にダダとカイナは部屋から出ていった。
「渡せ」
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「ああ…全て殺してやる…」
「ザザ…私が好きなの?」
そうじゃなきゃ…
「お前は俺の主だ…俺が主と決めた…」
ザザの言っていることがよくわからないけどザザは主が欲しかったの?だけど…それだとカイナに金貨を渡した意味がわからないわ。
ザザは私の手から服を取り着せ始めた。宝飾品の付いていない簡素な服を着て、ダダの持ってきた箱に荷物を入れる。
私が荷物をまとめている間、ザザは男の死体を動かしていた。一人は寝台に寝かせたまま布団を被せ、破いたドレスは扉から見えにくい床に広げた。もう一人の男は居室に運んでいった。
「外は夜だ」
「ええ」
窓から見える外は闇だった。
「女の楽園?」
「ああ…娼館だ」
そこは安全な場所かしら?私が考えても仕方ないわ。外のことはなにも知らない。
「エルマリア、もうすぐ使用人が騒ぎ出すだろう」
「ええ」
男爵令嬢の使用人たちね…彼女の指示でこんなことを…ならば牢にいる使用人も…
「男爵令嬢は慕われているのね」
使用人たちは罪を犯してまでこんなことを…それでも口を噤むのかしら…
「あの女は報いを受けた」
私はザザの言葉に首を傾げる。
「…?」
「行くぞ」
気になることを言ったきりザザは箱と私を抱き上げて、蝋燭の火を消しテラスから外へ出た。
私は誰にも見つからないようにと願いながらザザにしがみついていた。
フェリシアは自室の中をうろうろと歩く。
使用人服から着替え、エルマリアの顔を思い出しながら汚されていることを想像して微笑む。
ルイスの計画をやりやすくするためにケリーに嘘を吐かせてザザを遠ざけた。
「フェリシア様」
フェリシアは廊下からかけられた声を聞き握りに飛びついて開ける。
「入って!」
入ったハンナの顔を見たフェリシアに不安が込み上げる。
「なに…?なにがあったの?」
「あ…の…元奴隷の男が予想より早く戻りました」
「子爵令嬢は!?汚した後でしょうね!?見たの!?」
「鍵を…あの男は力ずくで鍵を壊して中へ…その後は近づけなくて…そうしたら上級使用人に見つかって…私たちは逃げました」
「なにしているのよ!」
フェリシアはハンナを突き飛ばして宝石箱に向かう。
「宝石を渡すから!誰かに様子を…え…」
箱の中の宝飾品が明らかに減っていた。
「ハンナ!宝飾品が減ってる!盗んだの!?ねえ!盗んだの!?あなたが!?」
フェリシアに睨まれたハンナは首を振って違うと答える。
「フェリシア様!湯を運ぶ使用人が中に入れば事態がわかります!ルイスが戻ってこないならまだ子爵令嬢の部屋に…彼女が騒げば報せが届きます…待ちましょう」
「私は!あの女の部屋に行って話したのよ!?私が加担しているとおじ様に話したら…」
「子爵令嬢が話しても知らないと言えばいいいのです!フェリシア様の姿はカイナと子爵令嬢しか見ていません」
「そうよね…私はハンナとこの部屋にいたもの」
フェリシアはハンナと話しながら気持ちを落ち着けようと深呼吸をする。
「そうです」
「…子爵令嬢は感じの悪い人だったわ。父親に頼めばなんでも叶うと思い上がって…」
「毎日のように贈り物が届きます。甘やかされて傲慢になったのでしょう」
ハンナの言葉にフェリシアは頷き、贅を凝らしたドレスを身につけたエルマリアを思い出す。
フェリシアはドレスを一つ贈られるだけで過剰に喜び感謝をしなければならなかった。フローレンに嫁いだエルマリアが気に入らないドレスを燃やしていることも使用人から聞いて腹が立つ思いがした。
「ルイスは子爵令嬢に誘われた…誘惑されたと言うわ」
「はい」
「白くて大きな胸を揺らして…いやらしい…女」
フローレン侯爵邸の裏口から野菜屋の荷馬車が出ていき、定刻にエルマリアの部屋へ湯を届ける使用人の悲鳴が響き邸内が大騒ぎとなるまでにエルマリアとザザは女の楽園に着いていた。
「ガダード」
「ザザ…また来た…おい…その女」
頭を覆うマントを下ろしてガダードという男を見る。
「ザザ…」
本当にここは安全なのかしら?
「ガダード、人と待ち合わせている」
ザザの大きな手のひらが私の背を押して、入れと言うように部屋の扉を開けて首を傾げた。
「おいおい…俺は侯爵家に目をつけられてんだぞ」
「悪魔の泉を売るからだ」
悪魔の泉…?
「…あれは偽薬ってことになったんだろ?」
ザザはガダードに答えず部屋に入って箱を床に置いてソファに座れと私を促す。
「荷物を背負う鞄を一つくれ」
ザザは懐から金貨を取り出しガダードに投げた。
「気前がいいが…次期侯爵夫人を連れてるとは…ザザ…」
「ああ…騎士隊が来るかもしれん」
「ここに?」
ここに到着するまで誰にも会うことはなかった。私にはここに騎士隊が来ることの意味がわからなかった。
「俺はザザの所有者だった。フローレン侯爵家はそれを知っている」
私は以前に読んだザザの書類を記憶から取り出して合点がいった。
騎士隊…に要請するかしら?雇っていた使用人が私を拉致したのよ…侯爵は直ぐには報せないわ。
「騎士隊よりフローレン騎士団が来るわ」
「侯爵は騎士隊に報せないか?」
ガダードの問いに頷く。
「父…シモンズ子爵に知られたらフローレンは終わるの…私を…冷遇なんてものじゃない…襲わせるなんて…父はきっと知るけど…侯爵は足掻くはず」
「ザザの過去を辿ってここに来るか…」
ガダードは呟きながら鞄を取りに部屋から出ていった。
「エルマリア」
ザザがソファに座る私の前に跪いた。
「辺境へ行く」
「辺境…?」
「ああ…隣国との境にある小さな村だ…なにかが迫れば…隣国へ逃げられる」
「森?」
「ああ」
私は森を見たことがなかった。山も川もなにも知らない。
「ザザは私を閉じ込めるの?」
ザザの瞳の中に父が母様に向けていた熱を感じていた。
「閉じ込めん…が出掛けるときは離れん」
「一緒に出掛ける?」
「そうだ」
私の意思を無下にしない…そう言われているようで頬が緩む。
「エルマリア、カイナたちとは途中で別れるかもしれん」
そうね…ザザは追われるから…気に入った土地で暮らすことを選ぶかもしれない。
「…ええ…ザザ…どうやって私の箱の開け方を知ったの?」
ザザが困ったように頬をかいた。こんな仕草をするザザは初めて見るわ。
「閉じろと言われたが薄く開けてたんだ」
ザザは給金の金貨をカイナに渡したと言ったのにガダードに渡したし、箱の開け方を話そうとしたら気にするなと言ったから不思議だったのよね。
「ふふっ」
ザザ…あなたはあの日に金貨を持って逃げることができたのに…
額から頬へ走る傷痕に触れると手首を掴まれた。
「怒ったのか?」
「いいえ…」
私といる…ザザは本気なのね…
「あれだけで足りるかしら?」
「金貨か?」
「ええ」
「十分だ」
「ザザ…男爵令嬢が報いを受けたって…どういう意味?」
ザザは私の手首を掴んだまま、私はザザの傷痕を撫でたまま尋ねる。
「今度話す」
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